7 / 47
第一話・壊れた女
Side・松田 由布子・7
しおりを挟む「場所、変えよう。俺、実はゆっちゃんと久々に飲んで酔っぱらって打ちあがるつもりだったから、奥さんにも断って、ホテルの部屋取ってるんだ。そこで、話しよう」
私の様子を見て、深い話になると踏んでくれたのだろう。壮くんは私の肩を抱いて、予約しておいたというこのホテルの部屋まで連れて行ってくれた。
案内された部屋は広めのシングルルームで、ラウンジと同じように外の景色が一望できた。壮くんは先ず、私をソファーに座らせてくれた。
「お姫様、まずは涙を拭きたまえ」
ヘンなセリフで私を笑わせようとして、カッコイイ執事のようにうやくやしく私の手に口づけを落とし、そっと涙を拭ってくれた。
「もうっ・・・・笑わせないでよ。っていうか、さっき、しれっと奥さんって言ったよね。何時結婚なんかしてたの? 聞いてないしっ」
「ゆっちゃんが笑ってくれるなら、俺はどんなピエロにでもなるよ」
「・・・・何時結婚したのかって、聞いてんのっ。はぐらかさないで」
「二年前、帰国後に内密婚。サプライズだ。誰にも言ってない」
「あ、っそ」
「それより、笑えよ。変顔してやろうか?」
「要らないっ」私は泣きながら笑った。「壮くん・・・・私、もうダメだよ・・・・」
壮くんが必死に私を慰めてくれようとするから、何かの糸がぷつんと切れた。
笑おうとしても、ダメだった。涙が溢れて止まらなくなってしまった。
「どうしたの、ゆっちゃん。俺に話せよ。吐き出したら、ラクになれるから」
「うっ・・・・ううっ――・・・・」
私は、壮くんの胸に飛び込んで、嗚咽を漏らした。
そして、洗いざらい今までの亜貴くんとのことを、壮くんに話した。
恥ずかしい話だったけれど、もう、堪えきれなかった。
亜貴くんに愛されたいって、女として愛されるにはどうしたらいいかって、壮くんに話した。
「アイツ・・・・ゆっちゃんをよくも・・・・こんな辛い目に遭わせやがって・・・・!」
壮くんは、私の事を強く抱きしめてくれた。「ゆっちゃん、今まで凄く辛かっただろ。もう我慢しなくていいからな。亜貴の事、赦さなくていい!」
「えっ・・・・?」
怒りを滲ませた瞳で、壮くんが私を見つめた。「アイツ、ゆっちゃんを裏切ってんだよ! 俺・・・・ゆっちゃんにこの事、言うかどうか悩んでたんだけど・・・・亜貴のヤツ・・・・アイツ・・・・!!」
「何っ、どーしたの・・・・壮くん、そんな・・・・怖いカオして・・・・」
顔を歪ませ、悲痛な顔で壮くんは私を見つめた。今は沈黙を保っている。
やだ、何。裏切るって、何?
亜貴くんが、私を、裏切ってるって言うの?
どういうことなのっ!?
「説明するより、見てもらった方が早い」
吐き捨てるように言うと、壮くんはスーツのジャケットの内ポケットから、少ししわになった写真を取り出した。
「ゆっちゃん、コレ、見る勇気、ある? 今なら何も知らなかったことにして、帰れるけど?」
「で、でも・・・・亜貴くんが私を・・・・うらっ・・・・裏切ってるって・・・・一体、何が映っているの・・・・・・・・?」
「俺の口からは、これ以上言えない。見る勇気があったら――」バン、とソファーの前のガラステーブルに、そのしわになった写真を裏返し、壮くんが叩きつけて私の前にズイ、と押し出してきた。「見なよ。裏切りが赦せないなら、一緒に考えよう。勇気が無いなら、もう、今日はこのまま、家に帰れよ」
私は迷った。こんな厳しい顔をしている壮くんを、見たことが無い。
いつも優しくて、あたたかい笑顔しか見た事がなかったから。
ドキン ドキン
耳の奥で心臓が鳴っているのではないかという位、激しく、煩く、ドキドキしていた。
怖い。
怖い、怖いっ!!
一体、何が映っているの?
裏切りって、どういうこと?
そんなに赦せないことなの?
見る勇気は・・・・正直無い。でも、このまま帰りたくない。
このまま帰っても、こんな事を壮くんから聞かされたんじゃ、もう、亜貴くんの事、ちゃんと見れないと思う。
私は固まって、裏返された写真の白い部分を呆けて見つめた。
どれくらい時間が経ったかは分からない。でも、結構な時間は経ったと思う。
写真を表向きにして映っている内容を見る勇気も無く、帰る勇気も無い。怖くて震えて来た。
「もう見るな。ゆっちゃん、俺が言った今の事は、忘れて」
壮くんが、裏向きの写真を取り上げようと手を伸ばした。
「待って!」
私は右手で伸びて来た壮くんの手を取って、左手で写真を引っ掴んだ。
このまま悩んでいても、無理だもん。勢いで写真が見えるように、自分の方へ慌ててひっくり返して向けた。
写真を見た瞬間、時が止まった。
そこに映っていたのは、亜貴くんと、亜貴くんに腕を絡めている、長いストレートの漆黒の髪を靡かせた綺麗な女性。
背景は――どこかのホテル。そこから出て来たところだと思われる写真だった。
「その女、俺の奥さん」
「えっ・・・・?」
ドクン ドクン ドクン ドクン
鼓動が、やけにうるさい。
1
お気に入りに追加
56
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
抱きたい・・・急に意欲的になる旦那をベッドの上で指導していたのは親友だった!?裏切りには裏切りを
白崎アイド
大衆娯楽
旦那の抱き方がいまいち下手で困っていると、親友に打ち明けた。
「そのうちうまくなるよ」と、親友が親身に悩みを聞いてくれたことで、私の気持ちは軽くなった。
しかし、その後の裏切り行為に怒りがこみ上げてきた私は、裏切りで仕返しをすることに。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【R18】今夜、私は義父に抱かれる
umi
恋愛
封じられた初恋が、時を経て三人の男女の運命を狂わせる。メリバ好きさんにおくる、禁断のエロスファンタジー。
一章 初夜:幸せな若妻に迫る義父の魔手。夫が留守のある夜、とうとう義父が牙を剥き──。悲劇の始まりの、ある夜のお話。
二章 接吻:悪夢の一夜が明け、義父は嫁を手元に囲った。が、事の最中に戻ったかに思われた娘の幼少時代の記憶は、夜が明けるとまた元通りに封じられていた。若妻の心が夫に戻ってしまったことを知って絶望した義父は、再び力づくで娘を手に入れようと──。
【共通】
*中世欧州風ファンタジー。
*立派なお屋敷に使用人が何人もいるようなおうちです。旦那様、奥様、若旦那様、若奥様、みたいな。国、服装、髪や目の色などは、お好きな設定で読んでください。
*女性向け。女の子至上主義の切ないエロスを目指してます。
*一章、二章とも、途中で無理矢理→溺愛→に豹変します。二章はその後闇落ち展開。思ってたのとちがう(スン)…な場合はそっ閉じでスルーいただけると幸いです。
*ムーンライトノベルズ様にも旧バージョンで投稿しています。
※同タイトルの過去作『今夜、私は義父に抱かれる』を改編しました。2021/12/25
秘密 〜官能短編集〜
槙璃人
恋愛
不定期に更新していく官能小説です。
まだまだ下手なので優しい目で見てくれればうれしいです。
小さなことでもいいので感想くれたら喜びます。
こここうしたらいいんじゃない?などもお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる