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第一話・壊れた女
Side・松田 由布子・6
しおりを挟む「ズバリ、二キロ太っただろ」
「にっ・・・・」
「図星か?」
壮くんはまだ笑っている。
「ち、ちっ、違うわよっ!! 二キロも太って無いしっ!」私はムキになって、否定した。
二キロも太ってないわよっ!
ほっ、ほんの少しだけっ・・・・太ったけどっ!
「ははははっ、冗談だよ、冗談! ホント、ゆっちゃんは変わんねえな」
ぽんぽん、と優しく髪を撫でてくれた。
壮くんも、私の知っている頃と変わらない悪戯な顔で笑った。手の温もりも変わってない。
亜貴くんの事で悩んだ時、何時も私の事、こうやって励ましてくれたっけ。
この優しい手、懐かしいな。
何も苦しくなかった、純粋に亜貴くんを好きでいた頃に、まるで時が戻ったみたい。
それに、こんなに感情剥き出しで笑ったり怒ったり、久しぶりだ。
今日は、来て良かった。
壮くんに会えて、良かった。
それにしても壮くんたら、随分イケメンになっちゃって。まあ、もともとかなりキレイな顔立ちだし、前から男前だけどね。でも目の前の壮くんは、前よりもっと男前に磨きがかかってる。さぞかしモテるんでしょうね。まだ独身なのかな。指輪してなかったけど。
――ね、抜けちゃおっか。
壮くんについてあれこれ考えていると、耳元で囁かれた。
見ると、長い人差し指を口元に手を当てて、内緒のポーズをしている壮くんが目くばせした。
あとで、と小さく囁いて、私は笑顔を返した。
壮くんと二人きりでお話できるなんて、嬉しいなっ。
海外の事とか、今までの事、色んな話聞こう。壮くんとのお喋りは、きっと楽しいに違いない。
頃合いを見計らって、壮くんが先に会場を抜け出し、最上階にあるホテルのバーへ向かって行った。そこで落ち合う約束をしていたから、私も時間をずらして適当に同窓会を楽しむ事を切り上げ、バーに向かった。
沢山お喋りしたかったから、亜貴くんには、同窓会が盛り上がって、もう少し飲んで帰るから帰りが遅くなる、って連絡を入れておいた。
向こうも、いいよ、と快く返事を返してくれた。
随分信用されてるのね。微塵も疑われなかったことに、ちょっと落胆した。
少しは早く帰って来いよ、とか、他の男に気をつけろよ、とか言って欲しい。本当に浮気してやろうかしら。
景色の見える綺麗なラウンジバーに、壮くんは居た。じっと入り口を見つめて私が来るのを待っていてくれているみたいだった。私の姿をいち早く見つけると、ちょいちょい、と座った席から手招きしてくれた。
「お待たせ。待った?」
「うん、遅い。俺を五分以上待たせるなんて」
「えーっ、いきなり二人で抜けない方がいいって言ったの、壮くんの方でしょーっ!」
壮くんの隣に腰かけながら、文句言ってやった。何か、こんな風にズケズケ言いたい事言えるのって、久しぶりで楽しい。
今の家は、息が詰まる。亜貴くんに嫌われないように、ってそればっかり気を付けてるから、しんどい。
「ゆっちゃんは、イチイチ俺につっかかってくるよな。そんなに俺の事好きなの?」
「ち、ちっ、違うわよっ。つっかかってなんか無いしっ!」
何言ってるのよ、壮くんったら! す、好きだなんてっ!! 冗談でも言っちゃダメでしょっ!
私、一応旦那いるのよっ。全然愛して貰ってないケドねっ。
「ホラ、つっかかってるしっ!」
壮くんに、私の口調を真似された。
「真似しないでよっ!」
「真似してないしっ!」
またまた、私の口調を真似された。
「もうっ!! 壮くんっ!」私は怒った。
「あははははっ、もー、ゆっちゃん、マジサイコー」
くしゃくしゃと頭を撫でられた。
壮くんは、からかいながらも私の事を優しい眼差しで見つめてくれている。
あったかいな。無理せず等身大で言い合えて、こんなに怒って笑ったの、何年ぶりだろう――・・・・
「あはは。本当、楽しいね! 壮くんも全然変わって無いしっ」
でも、再び心のこもらない笑顔になった。亜貴くんとの夫婦生活で仮面をかぶり続けて来たせいで、随分偽物の笑顔が上手くなって、こんな笑顔しか出来なくなってしまったんだ、私。
「俺は変わらないけど、変わったのはゆっちゃんだろ。何、無理して笑ってんの? 何か、辛い事あった?」
「壮くん・・・・」
「亜貴のコトで、悩んでるんだろ? 話せよ。顔に書いてある。俺が気づかないとでも思った?」
思わず息を呑んだ。どうしてこの人は、こんなに私の心を見抜くのが上手いのだろう。
亜貴くんに、そうやって見てもらいたいのに、もう何年もこんな状態で放っておかれたのに、壮くんはどうして、たった一時間足らずで私の笑顔が偽物だって、心が悲鳴を上げてる事に気が付くの――・・・・
涙が、零れ落ちた。
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