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第一話・壊れた女
Side・松田 由布子・1
しおりを挟む「亜貴くんっ、ごめんっ、寝坊しちゃった! 会社、遅刻しちゃう!」
私は夫の亜貴くんをゆり起こした。私の言葉に亜貴くんは慌てて飛び起きて、ベットの傍の時計を見て、時間を確認している。
現在の時刻は午前七時三十分。何時もなら支度を整えて家を出る時間だ。そんな時間にまだ支度もせずにベットの中にいるなんて、一大事だ。
「うわっ。いけない、寝過ごした! 由布ちゃんアラームはっ!?」
「ごめん、鳴らなかったのよぉ! 亜貴くん、朝ゴハンはっ!? すぐ食べれるように、簡単に作るけど?」
「いいっ、いらない。会議に遅れるっ! スーツ出してっ」
仲良く二つ並んだシングルベットから、亜貴くんが飛び起きた。私は寝室を出て亜貴くんのスーツを取りに行った。
昨日のうちにアイロンかけておいて良かった。
クローゼットからスーツを引っ掴んで寝室に戻ると、亜貴くんは私からそれを奪うようにしてもぎ取り、ベットの上に放り投げた。
そんな事したら、せっかくアイロンかけたのに、しわになっちゃうじゃない。
まあ、焦ってるんだもの。仕方ないわよね。
「由布ちゃん、電車で行ったら朝一の会議に間に合わないから、タクシー呼んでっ」
パジャマを脱ぎ捨てながら、亜貴くんが叫んだ。
私は言われた通りタクシー会社に電話をかけて、大至急一台のタクシーを呼んだ。タクシーは五分ほどで自宅まで来てくれるらしい。
その旨亜貴くんに伝えて、私は彼が必要だと思う身の回りの物を用意した。
「亜貴くん、ごめんねっ! 寝坊したりして、ほんと、ごめん!」
「いいよ、由布ちゃん。いつも君に色々任せっぱなしだからさ、これからは僕も注意する。じゃ、遅れるからもう行くねっ」
夫は優しい。
「ありがとう。気を付けて行ってらっしゃい」
本当に優しい。
「うん、行ってきます!」
大急ぎで身支度を整えた亜貴くんは、私を一言も責めたりせず、笑顔を見せてくれた。
整った短い髪、切れ長の瞳、長身で、すらっとしたその身体に良く似合う上品なスーツ姿の亜貴くんを、今日も、いってらっしゃい、と笑顔で見送った。
――アラーム鳴らなかったなんて、嘘。本当は私、起きてたの。
ちょっとでも慌てさせて、私のコト詰って、怒ってくれるかと思ったのに。
私が何をしても、貴方、ちっとも変わらないのね。
優しいだけの夫と、愛の無い毎日を過ごすのは、もう辛すぎる。
玄関先で泣きそうになった。
亜貴くん
亜貴くん――
一緒に暮らしているのに、貴方は私に指一本触れてくれないのね。
寝室に戻り、仲良く並んだベッドを恨めし気に睨んだ。
向かって右側が、亜貴くんのベッド。その脇に、さっきまで彼が着ていたパジャマが脱ぎ捨てられて落ちていた。
拾い上げると、まだ少し彼のぬくもりが残っていた。
パジャマを抱きしめると、亜貴くんの匂いがする。
私は亜貴くんのパジャマを抱きしめたまま、右側の亜貴くんのベッドにもぐりこんだ。
亜貴くんに抱かれたい。
亜貴くんに触ってもらいたい。
「亜貴くん――・・・・」
亜貴くんに抱かれている事を想像して、一人で自分を慰める。こんな虚しい行為、もう何年も続けている。
最近は虚しさの方が勝ってしまって、自分を慰める事さえ満足にできず、達することもできなくなった。
涙が止まらない。
セックスする以外は、問題ないの。
とても優しくて、一緒にいて、ちゃんと私の傍には帰って来てくれる。土日も仕事や接待以外では、殆ど家にいるし、泊りなんかの出張も殆ど無い。飲み会などで遅くなる時もあるけれど、午前様になることも殆どなく、正直、女性の影も見えない。勝手に遅くなったりせず、遅くなる時は、何時もちゃんと私に報告してくれる。
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