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第3話 ~政人くんと海里くん~

Side・斎賀政海/その7

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 オーダーを通し、おススメしたケーキセットを運んだ。優雅に、エレガントに、を忘れずに。

 おススメしたケーキセットを美乃梨ちゃんの下へ運び終え、初めての仕事を達成した事からほっとした。持ち場に戻り、今日のドアマン(案内係)は零さんみたいだから、彼の所為を盗み見た。しっかり仕事ができるように見習おうと思っての事だ。

 執事カフェだから、基本的なお客様(ゲスト)は、お嬢様が圧倒的に多い。旦那様はほとんどいらっしゃらないだろう。お嬢様の年齢も様々だった。
 僕みたいなチビで可愛い系は、若い美乃梨ちゃんみたいな子よりも、もう少し年齢が上の女性くらいからが受けがいいと思う。僕がお客で来た時は、僕みたいな男よりも海里ちゃんや零さんみたいなカッコイイイケメンにもてはやされたいからね。女子力は誰よりもあるから、分析能力は長けていると思うんだ。

 ああ、今度バイト休みで海里ちゃんだけが出勤の時、政海で来ようかな。海里ちゃんが指名できたらいいのに――なんてバカなことを考えていると、美乃梨ちゃんが席を立った。僕を呼んでいるらしく、零さんに言われて美乃梨ちゃんの所へ行った。

「お呼びでしょうか、お嬢様」

「ありがとう。政人さん。ケーキ美味しかったわ」

 さっき名前を聞かれたので、政人だと名乗り、今日が初出勤だという事も伝えたのだ。早速名前を憶えてくれたんだな。美乃梨ちゃんが僕の初めてのお客様だなんて、偶然とはいえ嬉しい。しかも、わざわざお礼を言うためだけに僕を呼んでくれたのだ。

 
「お嬢様にお喜び頂き、光栄でございます」

「政人さん、今日の出勤が初めてとは思えないわ。テキパキしていて、びっくりしちゃった! また来るね。今度も美味しいケーキお勧めしてねっ」

「承知いたしました。お嬢様のお帰り、心よりお待ち申し上げております」

 深くお辞儀をした。零さんと一緒に店外まで美乃梨ちゃんに付き添った。

「海里を見に来たのだけれど、政人さんに会えてよかった」

「ありがとうございます」

 美乃梨ちゃんは僕を気に入ってくれたようだ。手厚い礼をして、僕と零さんで彼女を見送った。美乃梨ちゃんは何度も振り返って、お辞儀して帰って行った。

「あっ、政・・・・人。零さん、あの」

 店内に戻った僕たちを、海里ちゃんが迎えてくれた。「さっきのお客様、ブレスレッドをお忘れでいらっしゃいます。どちらの方へ向かわれましたか?」

「それでしたら、わたくしが届けてまいります」

 さっき見送った所だから、僕が追いかけた方が早い。海里ちゃんから美乃梨ちゃんの忘れ物を受け取り、急いで彼女を追いかけた。
 美乃梨ちゃーん、と大声を上げそうになって、慌ててぐっと言葉を飲み込んだ。名前も聞いていないのに、美乃梨ちゃんの名前を知っているなんて事が露呈したら、絶対僕が政海で女装男って事がバレちゃう!
 また、海里ちゃんに怒られる所だ。アブナイ、アブナイ。

「お客様―っ」

 ビル群の方へ消えて行こうとする彼女を呼ぶが、お客様、では気が付いて貰えない。
 仕方なく全力で追いかけると、結構ですっ、と鋭い声が美乃梨ちゃんが消えた路地の方から聞こえてきた。何だろう。
 急いで行ってみると、離して下さい、と派手なシャツを着たチンピラみたいな大柄の男に絡まれている美乃梨ちゃんの姿が見えた。


 わっ! 大変だ!! 助けなきゃ!!


 
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