上 下
146 / 287
スマイル27・王様は無敵

しおりを挟む
 門だけじゃなくて玄関にも施錠して、急いで応接室に戻った。
 施設には廊下に二台、キッチン、応接室、仕事部屋、遊戯室と複数の子機が設置してあるから、電話をするのに不便はない。
 早速、佳奈美さんのお世話になっている先に電話を掛けると、すぐに友人の方が出てくれて、佳奈美さんに取り次いでくれた。

「佳奈美さん? 美羽です。あの・・・・さっき、来ました。彼です。チイちゃんのお父さん」

 ひっ、と息を呑む声のようなものが受話器の向こうから聞こえて来た。
 佳奈美さんは、相当恐怖を感じているハズよ。
 何とかしなきゃ。でも、どうやって?

『・・・・あの・・・・信夫さんに・・・・間違いないの・・・・です・・・・か?』

 恐る恐る尋ねられた。現実を受け入れたくないのだと思う。

「・・・・はい。どうにか追い返しましたが、コチラの事をかなり疑っています。非常に拙いです。早く手を打たなきゃ。とりあえずチイちゃんは渡さないようにします」

『あの・・・・智衣は無事ですか? 元気に・・・・していますか?』

「はい」

『・・・・でしたら今すぐに、智衣を迎えに行きます!』

「すぐ? いえ、もう少し様子を見られた方が・・・・今来られても、まだ近くにいるかもしれないし・・・・」

『でも、あの人の手に智衣が渡ってしまったら、きっともう私は智衣に会わせてもらえないか、家に連れ戻されて監禁されると思います。信夫さんの手に渡る前に・・・・どうにか・・・・・・・・』

 お母さんが、切羽詰まった声で私に懇願した。

「わかりました。すぐ来ていただけるよう、準備だけはしておいてください。様子を見て、また連絡します。それでは、失礼します」

 受話器を置いた所で、おい、と呼ばれた。
 施設内にいて私に声をかけるのは王雅に決まっているのに、敏感になり過ぎていて、肩をすくめてしまった。振り返って確かめると、王雅だったのでほっと安堵の息を吐いた。

「脅かさないでよ」

「悪いな。電話中だったから声をかけずに入ったんだ。脅かそうと思ったワケじゃねーんだ」

「ううん、いいの。それより・・・・チイちゃんは?」

「ああ、布団収納のトコに隠しておいたんだ。寝ちまったから、布団敷いて遊戯室に寝かせて来た」

「そう、ありがとう」

 大きなため息が漏れた。どうしよう。早急にこの問題を解決する方法を考えなくちゃ。
 
「どうしたんだよ。さっきの男、やっぱり本当の、本物のチイの親父なのか?」

「そうよ。何度も写真見て顔を覚えておいたから、間違いないわ。会うのは初めてだけど」

「写真? どういう事だ?」

 王雅が不思議そうな顔をして、私にいきさつを尋ねた。

「ごめんなさい、まだ色々説明してなかったわね――」

 王雅にこれまでの経緯を話す事にした。
 チイちゃんとお母さんの事、今までの出来事を。


「今電話してたのは、チイちゃんのお母さんよ。この事を話したら、すぐ施設に来るって言ったけど、危ないからめどが立つまでもう少し様子を見ましょうって言ったの。グズグズしてたら、チイちゃんを取り返されて、お母さんも家に連れ戻されちゃうわ。そうなったらきっと、凄く酷い目に遭うと思う。だから、早く別の施設に移れるように手配しないといけないんだけど、でも・・・・私の所みたいにすぐ対応して受け入れてくれるような施設って、殆ど無いのよ。どうしよう・・・・」

 広げてはみたものの、無駄だという事は解っている。他の施設の一覧名簿。


 今すぐ連絡して、チイちゃんをすぐに受け入れてくれる先なんて、無い。
 軽く相談はしていたけど、今はどこもいっぱいで、今すぐの対応なんて無理。


 どうしたらいいの?
 どうしたら・・・・。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴方の事なんて大嫌い!

柊 月
恋愛
ティリアーナには想い人がいる。 しかし彼が彼女に向けた言葉は残酷だった。 これは不器用で素直じゃない2人の物語。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

御機嫌ようそしてさようなら  ~王太子妃の選んだ最悪の結末

Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。 生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。 全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。 ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。 時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。 ゆるふわ設定の短編です。 完結済みなので予約投稿しています。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。

木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。 そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。 ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。 そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。 こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

処理中です...