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スマイル27・王様は無敵

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「ああ、どうも、すみません。突然押しかけてしまって」


 私と王雅を見るなりお父さんは立ち上がって、丁寧に頭を下げた。チイちゃんのお父さんは、人当たりのよさそうな、いかにも優しそうな男性だった。
 身長は百七十センチ程で、年齢は確か三十二歳。フチの薄い眼鏡をかけてて、白のシャツにグレーのパンツを履いていて、爽やかな雰囲気を湛えている。

 精神的DVなんかをやっているような人には、間違っても見えない。
 だからみんな、騙される。佳奈美さんが悪いと、責任を彼女に押し付ける。

 見た目に騙されて、誰も弱い人間の言うことなんか、聞いてくれないの。

「私がマサキ施設の責任者、真崎美羽と申します。お待たせして申し訳ござません。上村智衣ちゃんのお父さんと伺いましたが、ここでは、そのようなお子様はお預かりしておりません。どこか別の場所と、お間違えになっておられませんか?」

 微笑みを絶やさないように気を付けた。


 チイちゃんの事、絶対に悟られないようにしなきゃ!


 

「ちょっと待て。そんな子供はいないっつってんだろ。それ以上近づくと、警察呼ぶぞ」


 王雅が私の代わりに、そんな風に言ってくれた。
 臆せず立ち向かってくれるなんて、カッコイイじゃない!
 こんな緊迫した場面なのに、目の前で私を守ってくれる王雅にドキドキした。

「留守番のお前は引っ込んでろ」

 素早く間合いを詰めたチイちゃんのお父さんは、グイっと王雅の胸倉を掴んで投げ飛ばそうとした。
 でも、王雅は投げ飛ばされなかった。寸前で踏ん張ったかと思ったら、なんと、チイちゃんのお父さんに肘鉄喰らわせて、返り討ちにしちゃったの!


 なによ、なによっ。

 王雅って、何でもできちゃうワケ!?
 スーパーヒーローみたいな王子様で、強いし、頭も顔も良いし、超ウルトラお金持ちだし、無敵じゃない!


 何でそんなにカッコイイのよっ!
 そんな事されたら、どんな女でも惚れちゃうでしょーが!!
 止めてよね。これ以上私の心を乱すのは!


 こんな場面なのに、私の脳内は別の事でパニックになった。


 あっ、誰か私のコト、応援してくれているわね。
 そうよねっ。私は先生だもんね。こんな王様ごときにドキドキしてちゃいけないわね。
 わかったわ。もうドキドキしないように気を付けるから!

 王雅の強烈な肘鉄を喰らったチイちゃんのお父さんは、咳き込み、応接室の床に膝をついた。
 彼を素早く羽交い絞めにして、暴れ出せないように王雅が抑え込んだ。

「お前、何が目的だ? こんな真似して、タダで帰れると思うなよ?」耳元で囁いて腕を捻り上げると、チイちゃんのお父さんが悲鳴を上げた。

「王雅っ、やり過ぎよっ!」

 牽制を掛けた。万が一王雅が訴えられたりして、迷惑かけちゃいけないから。
 佳奈美さんを酷い目に遭わせた悪い男だから、腕の一本や二本、折って欲しいと思うけどね。できれば、二度と日の目が拝めないようにして欲しいもんだわ。

「そういう訳ですので、申し訳ありませんが、お引き取り下さい。ここには、貴方の探しているお子様はいませんから、他の施設を当たってください。あと、こちらのお土産は受け取れません。お持ち帰りください」

 門のところまでお送りします、と笑顔で告げ、王雅を促して歩き出した。

「お役に立てず、申し訳ありません」

 笑顔を崩さず、チイちゃんのお父さんを彼が持参した『高田』の土産と共に、施設の外に追い出した。
 更に、門が外から開けられないように中から鍵をかけて背を向けた。


 早く佳奈美さんにこの事を報告しなきゃ!
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