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スマイル27・王様は無敵

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 チイちゃんのお母さんである佳奈美さんが、マサキ施設の前で途方に暮れていたのを見つけた時、話を聞いて本当に驚いた。
 佳奈美さんは酷い精神的DVを、今施設にやって来たというチイちゃんのお父さんに繰り返され、常に虐げられ、何事も強要され、道具のように扱われてきたらしい。
 買い物は愚か、回覧板を提出する為に二軒先の家に出る事でさえ、外出許可が無いとダメだったと聞いた。

 佳奈美さんはそれに耐えきれなくなって、彼の隙をつき、チイちゃんを連れて家を飛び出したのよ。できるだけ遠くの街に行こうと思い、所持金で買えるだけの切符を買って、ここに来たんだって。施設だったら、何かしらの相談に乗ってくれるかもしれないと思ったけど、夫に連絡されたら困る――そんな風にマサキ施設の前で自問自答しているところへ、私が声をかけたの。

 すぐに保護してあげたかったけど、他の機関に連絡したら、絶対に佳奈美さんは連れ戻されると思ったから、私のへそくりを渡して逃げ延びてもらい、友人を頼り、お父さんが言い逃れできないようなDVの証拠を集めて、離婚が出来るように動いてもらっているところなの。

 
 でも、これが難航中。

 佳奈美さんにこの前電話した時、殆ど状況は進んでいないらしい事を言われたわ。
 チイちゃんのお父さんは恐ろしく外面が良いものだから、DVの証拠になるようなものは、外部からの入手が絶望的のような事を聞いたの。


 どうすればいいの。


 今は上手くチイちゃんのお父さんを追い出せても、きっとチイちゃんがココにいる事を突き止めているだろうから、世間を味方につけて、然るべき機関等を通して、お父さんはチイちゃんをマサキ施設から引き取って、佳奈美さんに家に戻るようにするでしょう。

 こういう男は、抜かりなく周りからしっかり固めて、逃げられないように獲物を追い詰めるの。


 そうなったら、佳奈美さんは今まで以上に酷い目に遭うわ。
 もう私と接触もできなくなると思う。



 この状況、どう打破すればいいの――


 とりあえず王雅と私、チイちゃんのお父さんの分のお茶三つを用意してトレイに乗せ、王雅が受け取ったという、お父さんが持参したお土産を持った。
 応接室に向かう短い間であれこれ考えたけど、何もいい解決策は思いつかなかった。

 視線を落とし、ふとお土産の包みを見ると『銘菓・高田』と印刷してあるのが見えた。有名な、老舗の和菓子メーカー。
 何の因果かしら。恭ちゃんが施設を出て結婚を決めた、あの『高田』のお菓子だ。チイちゃんのお父さんに、今すぐ突き返したくなった。


 応接室のドアをノックして中に入ると、チイちゃんのお父さんがソファーに座って待っていた。佳奈美さんに貰った写真で何度も見た。この人が来たら、必ずチイちゃんはいない旨伝えて追い返す事を。
 でも、それはまだもっと先だと思っていたのよ。たった二か月足らずでもうここを嗅ぎつけられてしまうなんて。思った以上に早い。

 まあ、それだけ執拗に佳奈美さんを探していた結果なのでしょう。
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