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スマイル25・王様の拠り所
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しおりを挟む「どうしたの、王雅。貴方、そんなに時間無いでしょ? みんな待ってるから、早く中に入りましょ」
随分長い間抱きしめられたままだったので声をかけたけれど、それでも私を離さない王雅の背中を、トントンと撫でるように叩いた。
ここが二人きりの密室なら、私は間違いなく自分から王雅を誘っていたと思う。
捨てられるのを覚悟で、貴方に抱かれたでしょう。
でもここは施設だし、敷地内とはいえ外だし、今はそれができないから、王雅に声をかけるしか出来なかった。
「あっ、おーちゃんだぁー! おかえりー。早いねぇ。もうおしごと、おわりなのぉ?」
不意に、玄関から声がした。
王雅に抱きしめられたまま振り向くと、アイリちゃんだった。
さっき王雅が帰って来るって伝えたし、なかなか私が戻らないから、心配で見に来てくれたのね。
アイリちゃんは私達の傍にやって来て、更に王雅の悲痛な顔を見て、あっ、そっか、と手を打ってにっこり笑った。
「おーちゃん、昨日じぶんのおうちに帰ったから、おうちが寒くて、かなしかったのねっ! おーちゃんには、冷たいおうちトモダチの、アイリがいるよー。おーちゃん、寒かったけど、がんばったんだぁ。エライねぇっ! アイリも、みーちゃんと一緒に、おーちゃんのコト、あっためてあげる。もうだいじょうぶだよぉー」
アイリちゃんが、王雅に向かって手を伸ばした。
「アイリ――・・・・」
王雅がようやく私から離れて、今度はアイリちゃんを抱きしめた。
「アイリ、お前、メチャクチャあったかいな」
嬉しそうに呟いて、ぎゅっとアイリちゃんを大切な宝物のように抱きしめている。
淋しさに耐え切れずに壊れそうだった王雅の心が、アイリちゃんのお陰で通常の心に戻ったのね。良かったわ。
でも、どうしてそんなに淋しいと思っているのかしら――そこまで考えて、気が付いた。
ああ、そうか。
貴方の自宅は、お金持ちだからきっと立派で大きな家なのでしょうけど、アイリちゃんの言う通り、寒い家なんでしょうね。全く、愛情には無縁なのね。
だから、淋しいのね。
私達が伝えた『お帰りなさい』が、王雅にとってどれだけ嬉しかったのか、よく解るわ。
久信おとうさんや美幸おかあさんが、私にそうしてくれたように。
私も、貴方や子供たちに、沢山の愛情を注いでいきたいの。
だから貴方は、誰にも貰えなかった愛情を惜しみなく与えてくれる、マサキ施設を大切にしてくれるのね。
でも、それに満足したら、貴方は遠くへ行ってしまうでしょう。
その時はきっと、私が淋しいと思うわ。
淋しいと、そう思うでしょうけど、でも、いいの。
私には、かけがえのない宝物――マサキ施設があるから。
たとえ貴方に捨てられたとしても、強く生きていくわ。
「ありがとう。アイリのおかげで、もう寒くなくなったぜ」
王雅が笑った。
「よかったぁ。おーちゃんが寒くなったら、いつでもアイリがあっためてあげるよぉ」
アイリちゃんも笑った。
不思議よね。お金があれば何でも買えるしできるハズなのに、貴方が一番欲しいと思うものは、決してお金では買えないんだから。
「そうよ、王雅。淋しいなら、いつでも施設に来ればいいわ。ここは貴方の、二つ目の新しい自分の家だとでも思えばいいのよ。私は、どこにも行かないし、いつでもここに居るから。遠慮しないで、いつでも帰って来てくれてかまわないのよ。子供達だって貴方を必要としてるんだし、何も不安に思う事なんて無いの。大丈夫、心配要らないわ。ホラ、それより食堂に行きましょ。あっ、大変! 王雅が朝御飯を食べる時間が無くなっちゃう!」
王雅とアイリちゃんの手を取って、急いで食堂へ向かった。
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