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スマイル23・王様お菓子の家を作る

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 あれから王雅は随分遅くまで横山さんの為に、彼の工場を守るための契約書を作ってくれた。
 ありがとう、王雅。
 貴方が助けてくれようとしている横山さんは、私の命の恩人なのよ。

 私が実の両親から真夏の蒸し風呂みたいな部屋に閉じ込められて虫の息だった時、横山さんだけが私に気づいて、助けてくれたの。
 もともと子供が好きで保育士の資格も持っている、当時横山工業の従業員だった、真崎久信――私のおとうさんになってくれた人に相談してくれて、彼と結婚していて子供の望めなかった美幸おかあさんと二人、私を自分の子供として引き取ってくれたのよ。

 その事を王雅に話す訳にはいかないから、昨日はお礼を言うしかできなかったけど。
 貴方が私に飽きる前に、施設の土地と慰謝料はきっちり貰って、私からこの秘密を貴方に打ち明けるまでは、絶対にこの事は教えられないから。


 でも、王雅を好きな気持ちに、嘘はない。


 だから、決めたの。
 貴方が私を必要としてくれている間は、貴方の心に寄り添って、温かい愛情で包んであげようって。
 貴方が今まで誰にももらえなかった愛情を、私がいっぱい注いであげようって。

 私が必要なくなるその時まで、貴方の笑顔を取り戻すように努めようって。
 この大切な城――マサキ施設にやってくる、子供達と同じように、愛してあげる。


 いつか私が要らなくなった時、貴方が一人でも強く歩けるように。


 それまでは、貴方の支えになりたいの。
 いいでしょ。

 だって貴方、偉そうな王様のクセに、淋しがり屋の小さな子供みたいで放っておけないんだもの。
 今だけは、帰る場所がここであるように、いつでも貴方が帰って来られるように、私が待っていてあげる。


 これが、私の愛し方。
 他の誰にもできない、愛し方なの。


 だから王雅。早く素敵な笑顔、取り戻して。
 私が貴方を手放してもいいって思っている間に、早く私の前から飛び立って行って。


 怖いのよ、私。
 貴方がいないとダメになってしまう、弱い女にはなりたくない。
 そんな女になってしまったら、もうこの城は守れないわ。
 貴方に捨てられたら、泣き崩れて立ち直れないような女には、絶対なりたくないの。


 私はいつでも、孤独な子供達を守る、孤独な女王でなくちゃいけないんだから。


 でも、孤独な女王だって、恋のひとつくらい、したっていいでしょう?
 別に誰に迷惑をかけるわけじゃないし、私自身の問題なんだから、自分の事は自分でケリつける。だから、大丈夫。

 ほんのつかの間、夢を見るだけよ。


 

 さあ。愛しい王様の為に、朝ごはん作ってあげよう。


 女王特製の、アツアツ半熟卵のサンドウィッチ。
 とっても美味しいのよ。


 きっと王雅、美味しいって嬉しそうに食べるわ。
 お金持ちだから、今までは豪華絢爛な料理しか食べた事ないんでしょうね。

 こんな素朴な庶民の食べ物なんて、食べた事ないハズよ。

 だから、教えてあげる。
 庶民がいかに楽しくて面白いか。どれだけ沢山笑えるか。


 楽しい事、いっぱいしましょう。



 全部、私が貴方に教えてあげるから――




 
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