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スマイル22・王様が女王の恩人を救う

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「一を聞いたら十を知る、ってヤツだ。俺はずっと、そんな世界で生きて来たからな。頭の回転が悪かったら、すぐ蹴落とされんだ」

「王雅も、大変なのね」

「そうでも無いぜ。ビジネスは楽しい。思い通りにならないところも、楽しい。まっ、手腕が良いから、たいてい上手く行くけどな」

 王雅が、自信たっぷりの王様スマイルを見せた。
 そうでしょうね。自分でも言う通り、相当な手腕なんでしょう。
 貴方、仕事がメチャクチャ早いもの。きっと会社でも一目置かれているんだわ。
 次期社長候補というのも頷ける。ただの『社長御子息』というだけの扱いじゃないもの。


 だから、こんな貧乏施設に何時までも関わっていられない雲の上の地位の男だって事、再確認した。


 四億円の投資金を個人的にポンと出せるなんて、普通はできないもの。
 
「あの・・・・王雅。貴方にとっては、横山さんはただのビジネスパートナーになっただけかも知れない。でも、あの人を助けてくれたってことは、私達親子にとって・・・・ううん、私にとって、感謝してもしきれないのよ。横山さんは、私がとても辛くて苦しい時に、唯一助けてくれた恩人なの。だから・・・・横山さんを助けてくれて、ありがとう。本当に、ありがとう」

 誠心誠意、心を込めて頭を下げた。

 貴方が横山さんを助けてくれなかったら、私はあれだけの恩人に対して何もできないことに苦しんだと思う。貧乏を呪って、悔やんだ事でしょう。
 貧乏が恥ずかしい事だとは思わないけれど、苦渋の決断を迫られたどうにもならない時くらい、解決できるだけのお金があればいいのに、って何時も思うの。王雅には決してわからないでしょうけど。

 顔を上げると、王雅が酷く苦しそうな傷ついた顔をしていた。
 唇をかみしめ、顔を歪ませている。

「どうしたの?」

「・・・・別に」

 彼は再び、ノートパソコンの画面に視線を戻した。
 何だか声を掛けづらくなって、そのまま二人で黙々と自分に課せられた作業を続けた。

 どうしてそんなに傷ついた顔をしているのよ、王雅。
 私の何がいけなかったのかしら。


 問いかけられるはずもなく、内職の仕事がひと段落したところで、彼を一人残して応接室を後にした。
 何となく戻りにくかったので、キッチンで明日の朝食の準備や野菜を洗って時間を潰した。
 だからといってこのまま王雅を放っておいて先に眠ったりもできないので、何かお茶でも飲むか聞こうと思って、応接室に戻った。扉を開けると、机に伏せてうなされている王雅が目についた。

「王雅」

 駆け寄って王雅を揺さぶった。

「美羽・・・・ううっ・・・・美羽っ・・・」

「王雅っ!」

 もう少し強く揺さぶったら王雅が目を開けたので、彼の顔を覗き込んだ。「大丈夫? すごくうなされてたけど」

「あ・・・・俺・・・・どーして・・・・?」

 慌てて辺りを見回している。酷く焦った様子だった。

「うたた寝しちゃったのね。遅くまでご苦労様。珈琲でも飲む? 冷たいの、淹れてこようか?」

 私の姿を見て、王雅が長く安堵のため息を吐き、良かった、と呟いた。
 泣きそうな顔で酷く傷ついていて、震えている。まるで小さな弱々しい子供の様だわ。
 
「こっち、来てくれ。なんもしねーから」

 震える王雅に抱きしめられた。

「少しだけでいーから、このまま、傍にいてくれ美羽・・・・」

「どうしたの、王雅。怖い夢でも見たの? 大丈夫よ。もう目が覚めたんだもの。安心して。大丈夫だから・・・・」

 小刻みに震えている王雅に声を掛け、私が傍にいるから、もう大丈夫よ、と背中をさすってあげた。
 心の底から愛しさがこみ上げた。


 王雅を抱きしめて痛感した。認めたくなかったけど、もう限界ね。





――私は、この男が好きなんだ、って。




 
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