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スマイル20・王様とデート

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 お陰でおかあさんは無一文で放り出されたようで、ハナちゃんさえ産まなければ、と、何の罪も無いハナちゃんに辛く当たって、意味のない暴力や折檻を繰り返していたらしいの。
 当時ハナちゃんが住んでいたアパートの近所の人が児童相談所に通報してくれて、おかあさんの虐待がエスカレートする前に、ハナちゃんが保護されたの。
 受け入れ先が無く、私の所に来てくれたのよ。

 ハナちゃんは最初、全く笑わなかった。無表情で、全ての感情をシャットアウトした機械の様で、まるで昔の私を見ているようだった。

 優しいおとうさんとおかあさんが私を癒してくれたように、生きる力を与えてくれたように、私もハナちゃんに接した。
 解かるもの。とても辛いキモチ。暴言を吐かれ、ただ殴られて過ごす毎日に怯えて暮らす事。


 誰も助けてくれなくて、希望もなく感情の全てを押し殺して、部屋の隅にじっと膝を抱えて、息を潜めて生きてきた。幼い頃、私が経験してきた事だもの。


 両親の機嫌が良い時は、ほっとしたわ。今日は殴られなくてすむって。
 でも、それも突然豹変するの。機嫌が悪くなった途端、張り手が飛んでくる。それが当たり前の日常。

 弱い子供は、酷い親の玩具のように扱われる。
 マサキ施設に来てくれたハナちゃんとは、沢山お話した。自分の事も話した。
 私がハナちゃんと同じように、どれだけ酷い目に遭って、辛くて死にたくて、苦しかったって事。
 でも、私を助けてくれた人によって、今日まで生きてこれたって。
 ハナちゃんも、マサキ施設がそうなってくれたらいいのに、って必死に訴えた。

 身の上話をしたのが良かったのか、ハナちゃんは次第に私にだけは色々話をしてくれるようになった。
 今ではすっかり私の事を信頼してくれて、可愛い笑顔をみせてくれる。勿論、マサキ施設のみんなとも仲良くお喋りしたり、遊んだりできるようになったのよ。
 時々大きな声やガラスの割れる音に怯えてしまって、布団収納の所にもぐりこんで隠れて出てこなくなる時があるけど、それも随分減った。隠れていると、必ず誰かがハナちゃんを迎えに行くから。


 ハナちゃんは、私の小さい頃に本当によく似ている。
 でも、私が変えたい。
 久信おとうさんや美幸おかあさんのお陰で私が変わったように、ハナちゃんを辛く苦しい過去を忘れてしまえるくらい、楽しい毎日を過ごして、笑って、元気に立ち上がれるようにしたいの。
 ハナちゃんだけじゃないわ。今もこんな風に苦しんでいる子供は日本だけじゃなく、世界中に大勢いるわ。みんなが平等に、幸せに暮らせる日が訪れたらいいのにと、辛い目に遭った子供たちを見るたびに思うの。

 

「みゅー先生、あのね、ハナちゃんね、さっきひとりでしー(おしっこ)できたのぉ。リカちゃんに待っててもらって、できたぁ」


 小さな声で内緒話をするみたいに、ハナちゃんが私に教えてくれた。
 常に虐げられ、罵られて生きて来たハナちゃんは、弱々しく喋るのが特徴なの。でも、絶対私みたいにもっとハッキリとした強気な性格になるように育てるわ!
 今は無理でも、自信を沢山つけてもらうの。奪われてしまった自尊心を取り戻して、育てて、誰にも負けない位、強い子供になって欲しいって思う。たとえ一人でも、しっかり生きて行けるように。


 私が、その先頭になるから。


「すごお――いっ! 後で先生にも見せてね! やったねぇ!!」


 ハナちゃんの手を取って、大喜びした。
 恥ずかしそうにハナちゃんは俯いて、モジモジしている。本当に可愛い。

「じゃあ、沢山ご飯食べて、いっぱいまた、しー、しようね」

 今、ハナちゃんはトイレの練習中。この前までおしっこが上手に出来なかったのに、本当に頑張ったのね。
 ハナちゃんはオムツ代がもったいないからって、二歳になる前におかあさんにオムツを取り上げられたの。二歳にも満たない子が、ちゃんとトレーニングもせずおしっこが普通にトイレで出来るワケないのに、阻喪(そそう)してパンツを汚す度におかあさんに殴られていたんだって。
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