上 下
102 / 287
スマイル20・王様とデート

しおりを挟む
 お陰でおかあさんは無一文で放り出されたようで、ハナちゃんさえ産まなければ、と、何の罪も無いハナちゃんに辛く当たって、意味のない暴力や折檻を繰り返していたらしいの。
 当時ハナちゃんが住んでいたアパートの近所の人が児童相談所に通報してくれて、おかあさんの虐待がエスカレートする前に、ハナちゃんが保護されたの。
 受け入れ先が無く、私の所に来てくれたのよ。

 ハナちゃんは最初、全く笑わなかった。無表情で、全ての感情をシャットアウトした機械の様で、まるで昔の私を見ているようだった。

 優しいおとうさんとおかあさんが私を癒してくれたように、生きる力を与えてくれたように、私もハナちゃんに接した。
 解かるもの。とても辛いキモチ。暴言を吐かれ、ただ殴られて過ごす毎日に怯えて暮らす事。


 誰も助けてくれなくて、希望もなく感情の全てを押し殺して、部屋の隅にじっと膝を抱えて、息を潜めて生きてきた。幼い頃、私が経験してきた事だもの。


 両親の機嫌が良い時は、ほっとしたわ。今日は殴られなくてすむって。
 でも、それも突然豹変するの。機嫌が悪くなった途端、張り手が飛んでくる。それが当たり前の日常。

 弱い子供は、酷い親の玩具のように扱われる。
 マサキ施設に来てくれたハナちゃんとは、沢山お話した。自分の事も話した。
 私がハナちゃんと同じように、どれだけ酷い目に遭って、辛くて死にたくて、苦しかったって事。
 でも、私を助けてくれた人によって、今日まで生きてこれたって。
 ハナちゃんも、マサキ施設がそうなってくれたらいいのに、って必死に訴えた。

 身の上話をしたのが良かったのか、ハナちゃんは次第に私にだけは色々話をしてくれるようになった。
 今ではすっかり私の事を信頼してくれて、可愛い笑顔をみせてくれる。勿論、マサキ施設のみんなとも仲良くお喋りしたり、遊んだりできるようになったのよ。
 時々大きな声やガラスの割れる音に怯えてしまって、布団収納の所にもぐりこんで隠れて出てこなくなる時があるけど、それも随分減った。隠れていると、必ず誰かがハナちゃんを迎えに行くから。


 ハナちゃんは、私の小さい頃に本当によく似ている。
 でも、私が変えたい。
 久信おとうさんや美幸おかあさんのお陰で私が変わったように、ハナちゃんを辛く苦しい過去を忘れてしまえるくらい、楽しい毎日を過ごして、笑って、元気に立ち上がれるようにしたいの。
 ハナちゃんだけじゃないわ。今もこんな風に苦しんでいる子供は日本だけじゃなく、世界中に大勢いるわ。みんなが平等に、幸せに暮らせる日が訪れたらいいのにと、辛い目に遭った子供たちを見るたびに思うの。

 

「みゅー先生、あのね、ハナちゃんね、さっきひとりでしー(おしっこ)できたのぉ。リカちゃんに待っててもらって、できたぁ」


 小さな声で内緒話をするみたいに、ハナちゃんが私に教えてくれた。
 常に虐げられ、罵られて生きて来たハナちゃんは、弱々しく喋るのが特徴なの。でも、絶対私みたいにもっとハッキリとした強気な性格になるように育てるわ!
 今は無理でも、自信を沢山つけてもらうの。奪われてしまった自尊心を取り戻して、育てて、誰にも負けない位、強い子供になって欲しいって思う。たとえ一人でも、しっかり生きて行けるように。


 私が、その先頭になるから。


「すごお――いっ! 後で先生にも見せてね! やったねぇ!!」


 ハナちゃんの手を取って、大喜びした。
 恥ずかしそうにハナちゃんは俯いて、モジモジしている。本当に可愛い。

「じゃあ、沢山ご飯食べて、いっぱいまた、しー、しようね」

 今、ハナちゃんはトイレの練習中。この前までおしっこが上手に出来なかったのに、本当に頑張ったのね。
 ハナちゃんはオムツ代がもったいないからって、二歳になる前におかあさんにオムツを取り上げられたの。二歳にも満たない子が、ちゃんとトレーニングもせずおしっこが普通にトイレで出来るワケないのに、阻喪(そそう)してパンツを汚す度におかあさんに殴られていたんだって。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴方の事なんて大嫌い!

柊 月
恋愛
ティリアーナには想い人がいる。 しかし彼が彼女に向けた言葉は残酷だった。 これは不器用で素直じゃない2人の物語。

【完結】婚約者がパーティー中に幼馴染と不倫しているところを目撃しましたので、知人の諜報部隊が全力で調査を始めました

よどら文鳥
恋愛
 アエル=ブレスレットには愛する婚約者がいた  だが、事故で帰らぬ人となってしまった。  アエルが悲しんでいる中、亡くなった弟のブルライン=デースペルとの縁談の話を持ちかけられた。  最初は戸惑っていたが、付き合っていくうちに慕うようになってきたのだった。  紳士で大事にしてくれる気持ちがアエルには嬉しかったからだ。  そして、一年後。  アエルとブルラインの正式な婚約が発表され、貴族が集うパーティーが開かれた。  だが、そこで事件は起こった。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

私のことを愛していなかった貴方へ

矢野りと
恋愛
婚約者の心には愛する女性がいた。 でも貴族の婚姻とは家と家を繋ぐのが目的だからそれも仕方がないことだと承知して婚姻を結んだ。私だって彼を愛して婚姻を結んだ訳ではないのだから。 でも穏やかな結婚生活が私と彼の間に愛を芽生えさせ、いつしか永遠の愛を誓うようになる。 だがそんな幸せな生活は突然終わりを告げてしまう。 夫のかつての想い人が現れてから私は彼の本心を知ってしまい…。 *設定はゆるいです。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

待ち遠しかった卒業パーティー

しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢アンネットは、暴力を振るう父、母亡き後に父の後妻になった継母からの虐め、嘘をついてアンネットの婚約者である第四王子シューベルを誘惑した異母姉を卒業パーティーを利用して断罪する予定だった。 しかし、その前にアンネットはシューベルから婚約破棄を言い渡された。 それによってシューベルも一緒にパーティーで断罪されるというお話です。

【完結】あなただけが特別ではない

仲村 嘉高
恋愛
お飾りの王妃が自室の窓から飛び降りた。 目覚めたら、死を選んだ原因の王子と初めて会ったお茶会の日だった。 王子との婚約を回避しようと頑張るが、なぜか周りの様子が前回と違い……?

今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです) hotランキング1位入りしました。ありがとうございます

処理中です...