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スマイル19・王様ピンチに現る

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 話し合いも落ち着いたので、内藤さんはとりあえず帰ることになった。今日は施設の様子を見る為に、有休をとって会社を休んで来たんだって。

 準備を整え、すぐにでもサトル君を迎えに来ると約束して、彼は帰って行った。

 ただ、男一人の生活からいきなりサトル君を抱えた生活は、仕事をしている以上困難なので、サトル君が小学校に入るまでは、施設を保育園代わりに利用し、月謝を払うという事で話がまとまった。
 月謝は要らないって言い張ったんだけど、内藤さんが、施設に世話になりっぱなしじゃ流石に気が引けるから、せめてもの気持ちだということで、月謝を払ってくれる事になったの。
 仕方がないから、月謝は千円だけもらう事にした。もっと払うって言われたけど、これ以上は受け取れないって突っ撥ねた。

 もう、本当に要らないのに。

 サトル君は施設を出ると思ったけど、結局あまり変わらないの。一緒に夜寝る事が無くなるだけ。お別れしなくてもいいのは、嬉しい。
 今後、準備が出来たら仕事帰りに内藤さんがサトル君を迎えに来る。サトル君は、内藤さんと一緒に、これからの自分の家に帰るの。

 サトル君は、おうちが二つも出来て嬉しいって喜んでいた。お昼のお家は施設で、夜のお家はお父さんと暮らす家って。

 子供は無邪気ね。そんな風にこの複雑な生活を楽しんでしまうなんて。

 内藤さんを送り出し、一緒に帰ろうした王雅に声を掛けた。「せっかく来たんだから、お茶くらい飲んで行きなさいよ」

 王雅ともう少しだけ一緒にいたくて、どういう訳かつい引き留めてしまった。

 何時もの、アイスハーブティー。王雅も好きだって、美味しいって言ってくれるから、飲んで欲しくて淹れて出した。


「王雅。色々私達の事気にしてくれて、助けてくれて、本当にありがとう」


 お礼はきちんと言っておきたかったから、言えて良かった。
 貴方が来てくれなかったら、きっとサトル君はあのチンピラ男(坂崎って名前だったかしら)に連れて行かれて、大変な事になっていたと思うから。
 私一人じゃ、サトル君を守ってあげる事ができなかったでしょうね。こういう時、女は非力で悔しい思いをする。


 もっと強くなれたらいいのに。あんなクズ、一瞬で張り飛ばしてしまえるくらいに。


 え? それじゃ、危険だから誰も私に近づけない、ですって?
 それもそうね。普通の方がいいかしら。
 
 え? 私は強くて美しい、ですって?
 まあ、ありがとう。お世辞でも嬉しいわ!


「いいって、気にすんな。俺が勝手にやったんだ。内藤とも偶然会ったワケだし。結果オーライだったな。でもな・・・・正直に言うと俺、最初は内藤に、サトルの事話すの、躊躇しちまったんだ。サトルを渡したくねえって思っちまってさ。サトルの事言えなくて、グズグズ悩んでたら、リョウから坂崎が来たって電話があって、慌てて来たんだ。情けねえよな」

 そうだったの。
 王雅もサトル君の事、そんなに大切に想っていてくれたなんて。

「ううん、そんな事無い。それだけ王雅がサトル君の事、好きになってくれたって事じゃない。解るよ。私だって、お別れは辛いもん。子供たちの誰も、ご両親に返したくないって思うわ」

「美羽でも、そんな風に思ったりするんだ」

 意外だ、というような顔を王雅に向けられた。

「言わないだけよ。思うのは勝手でしょ。私の手から離れていくのは、淋しいわ。とっても」

 だって帰ってしまったら、もう私の子供じゃなくなってしまうもの。
 それにこの施設は小さいから、子供たちが大きくなったら他の施設に託さなければならない時が来るの。
 何時までも一緒にいる事は出来ないの。

 ずっと一緒に、この施設でみんなが暮らしていけたらいいけど、それはできないから。
 常に別れと隣り合わせで、私は生きている。
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