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スマイル17・王様の裸

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 私は隅の方で着替えを済ませて簡単に支度を整え、ホールの外へ出た。
 調理場に行き、お米を洗って御飯の釜に仕掛けてスイッチを入れた。
 ガスで炊くから美味しいのよね。昨日、夕方には飯盒炊爨してキャンプファイヤーもやって、みんなすごく楽しそうだったし、王雅も初めてのカレー作りに挑戦して、楽しそうだった。
 花火も綺麗だった。王雅は手持ち花火をやったことがないというから、沢山やらせてあげたら、子供みたいに喜んでいた。
 子供たちと一緒に走り回って、手持ち花火の煙で、空中に絵を描いたりして遊んでいたの。王雅って、本当に大きな子供よね。
 こんな花火やったことないから、ってすごく嬉しそうに喜んでいたわ。

 この手持ちの花火は、商店街のエコシール貯めて貰ったのよ。この日の為に、抜かりなく貯めておいたの。
 打ち上げ花火の方は、毎年子供たちの為に商店街の人達が、お祭りの時に使う花火を分けてくれるから、タダでゲットしているのよ。その代わり、お祭りは色々とみんなで協力してお手伝いをしているの。

 沢山遊べて、昨日は本当に楽しかった。
 何も写真が撮れなくて残念だったけどね。やっぱり充電器持ってくれば良かった。
 でも、貴重な充電器だから、壊れてしまったり失くしてしまったら、それこそ今後の写真が撮れないから、それを懸念して置いてきたのよね。
 さっさと集合写真だけでも、全員で撮っておけば良かったわ。なしくずしにバーベキューの準備始めちゃったし、終わってからゆっくり撮影すればいいかと思っていたから。

 まあ、まだ想い出はいつでも沢山作れるし、今日が最後っていうワケじゃないから。


 ご飯を炊く準備が出来たし、他の朝食の準備もある程度進めてホールへ戻った。
 ガラスの大きいホール特融の扉を押し開けて入ると、入口付近にいた王雅が目についた。


「あっ、王雅、おは・・・・きゃあぁあ――っ!」


 思わず悲鳴を上げてしまった。
 だってアイツったら、上半身裸でウロウロしていたの!!
 今朝の夢を思い出して、真っ赤になってしまった。


 夢とはいえ、あの広い胸に抱かれていたなんて、思い出しただけで動悸が――



 
「なんだよ、うるせーな」

「なんでハダカなのよっ!?」思わず叫んだ。

「汗かいたから、着替えようと思って。着替え取りに来ただけだよ」

「はっ、早く、服着てよね」

 刺激が強すぎて、視線を反らせた。美羽、好きだ、と囁かれたあの時の王雅が、脳内に蘇ってしまう。
 記憶から追い出したいのに、追い出せない。
 夢の中の私は素直で、王雅の愛を受け入れて、そのまま――


「何だ、美羽。お前そんな赤くなってさ・・・・もしかして、俺の裸見て興奮してんの?」

「なっ・・・・ち、違うわよっ!」

 王雅の裸に興奮しているのは、間違いなかった。
 図星だったことを悟られたくなくて、慌てて否定した。

 王雅はこれ幸いとばかりに私に近づいて、手を壁に付けて私を囲った。
 入口近くの壁に閉じ込められ、退路を断たれた上、更に顔を覗き込まれた。

「ん? 上だけじゃなくて、下もどうなってるか、何なら今すぐ、ココで見せてやろうか?」

 エロくて悪そうな顔で私を見つめ、王雅が挑発してくる。

「何考えてんのよっ!! バカッ! 変態っ」

「興奮して、俺が欲しくなっただろ?」

「じょっ、冗談言わないでっ。誰がアンタなんか!」


 もう止めて! もうこれ以上近づかないで!!
 じゃないと、おかしくなる。
 私が私でいられなくなる。

 王雅が欲しいって、口走ってしまいそうになる。

 

「ほっ、ほしっ・・・・欲しくないわよっ!!」


 声が震えた。
 しかも、欲しいって、危うく言いかけてしまった。


「声、うわずってんぞ。素直になれよ。俺が欲しそうな顔してるクセに」

 キスされそうな位、近くまで迫られた。

 どうしよう。私、そんなに王雅が欲しそうな顔してたの!?
 でも実際、そう思ってしまっているのには、違いないけど。
 あ、もしかして、これはまだ夢の続きなのかしら。
 貴方が欲しいって思うなんて、何時もの私じゃないもの。そうだわ。さっきのように、これもきっと夢なのよ。



 夢の続きだったら、このまま――・・・・



 王雅を受け入れようと思って、覚悟を決めてぎゅっと目を閉じた。


「お兄さん、ミュー先生、何してるの?」


 不意にリョウ君の声がした。
 うそっ!?
 やっぱり、夢なんかじゃないんだっ!

 慌てて目を開けると、王雅がエロくて悪い顔をそのまま声をかけたリョウ君に向け、とんでもない事を言い放った。「リョウ、女にはこうやって迫るんだよ。覚えとけ」


「バカッ! リョウ君にヘンな事教えないでよ――っ!!」


 考えるより先に手が出ていた。
 久々に王様の左頬に、私の強烈なビンタが炸裂した。


 焦っていたから普段以上の力が入ってしまい、王雅の頬が赤く腫れ上がったのだった。

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