上 下
46 / 287
スマイル11・王様とコロッケパーティー

しおりを挟む


「なっ、なんだよ」


 でも、不思議と不愉快じゃないのよね。
 王様らしい言葉に、思わず笑顔が零れた。


「ありがと。考えとく」


 ま、せいぜい頑張りなさい。無駄だと思うけど。


「お、おう。なるべく・・・・前向きに考えとけよ」


 王様は照れながら、再びおにぎりと格闘を再開した。


 準備が整ったので、早速コロッケパーティが始まった。
 近所の人が大勢押しかけて来て、施設の小さな広場が人で溢れていた。
 手持ちのデジタルカメラで何枚か写真を撮った。楽しい様子の写真が撮れたので、満足だ。
 王雅の様子を見ると、彼は人込みを避けて隅の方でパーティーの様子を見ていたから、声を掛けた。「食べないの?」

「ああ。どうも人ごみは苦手でな。別に、食わなくても平気だし」

「ダメよ。ちゃんと食べなきゃ! ホラ、みんな喜んでるんだから、アンタも来なさい」

 王雅を広場に押し出した。すると、王雅が子供達に一斉に取り囲まれた。
 口々に、お兄さんありがとう、コロッケ沢山食べれて嬉しいよ、お兄さんが作ってくれたおにぎり美味しいよ、なんてお礼を言っている。


 王雅は照れながら、嬉しそうにしていた。
 子供達には、本当に好かれているわね。


 子供って、わかるのよ。
 自分の事を好きでいてくれるかどうか、愛情を持って接してくれているかどうかって。
 貴方は、子供が好きなのね。
 自分では気が付いていないでしょうけど、貴方自身が子供みたいだもんね。


 マサキ施設の――私の子供たちを大切にしてくれて、ありがとう。


 暫くすると、さっきまで嬉しそうにしていた王雅が、空を見つめてぼんやりしていた。


「王雅。どうしたの? ぼんやりしちゃって」

「ん、あ、いや・・・・美羽の作ったおにぎりはメチャクチャ美味いのに、俺の作ったおにぎりはあんま美味くねーな、って思って。ガキも気ィ遣って無理して食ってるし」

「そんな事無いわよ。美味しいわ。私も食べた」

「えっ!? 食うなよ。そんなマズイもん! べちゃべちゃで、見た目も酷いし・・・・」

「そんな事気にしてたの? 私もそうだけど、子供たちはちゃんと解ってるのよ」

「何が」

「王雅が、心を込めて作ってくれた、って事をよ。確かに見た目はよくないけど・・・・でも、みんなの為に一生懸命作ってくれたでしょ。それを解ってるから、みんな美味しいって食べるのよ。誰も気なんか遣ってないわ」

 何だ。王様は、つまらない事気にするのね。
 最初から上手くできなくて当然なのよ、気にしないで、って笑い飛ばしておいた。

「今日は初めてだったから上手く出来なかったけど・・・・今度は、もっともっと上手く作ってやるよ」

 やっぱり負けず嫌いなのね。
 貴方、子供みたいな王様ね。


 その後、パーティーはコロッケが無くなるまで続き、近所の人たちがお礼に持ってきてくれたお菓子で、続いてお菓子パーティーになった。
 とっても楽しかった。

 今日は一日慌ただしかったけど、王雅のお陰で楽しいパーティーが出来た。
 商店街が閉鎖になっていたのは本当に驚いたし、最初はどうしようかと思ったけど、子供達も喜んでくれて、結果オーライだったけどね。


 王雅は何をしでかすか、先が読めなくて解らない。
 本当に子供みたいな男なんだから。


 私は、応接室に置いてあるアルバムを棚から取り出した。もう随分沢山になった、マサキ施設の今までの歴史と想い出。
 少しずつ撮りためては、写真をアルバムに貼っているの。何気ない日常の、大切な想い出。
 今日のパーティーも、その中のひとつ。


 さっきプリントアウトしたばかりの写真を、その中に収めた。



 王様が、子供達と楽しそうにコロッケやおにぎりを食べている写真を――



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴方の事なんて大嫌い!

柊 月
恋愛
ティリアーナには想い人がいる。 しかし彼が彼女に向けた言葉は残酷だった。 これは不器用で素直じゃない2人の物語。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

白い結婚はそちらが言い出したことですわ

来住野つかさ
恋愛
サリーは怒っていた。今日は幼馴染で喧嘩ばかりのスコットとの結婚式だったが、あろうことかバーティでスコットの友人たちが「白い結婚にするって言ってたよな?」「奥さんのこと色気ないとかさ」と騒ぎながら話している。スコットがその気なら喧嘩買うわよ! 白い結婚上等よ! 許せん! これから舌戦だ!!

頑張らない政略結婚

ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」 結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。 好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。 ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ! 五話完結、毎日更新

私はただ一度の暴言が許せない

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
厳かな結婚式だった。 花婿が花嫁のベールを上げるまでは。 ベールを上げ、その日初めて花嫁の顔を見た花婿マティアスは暴言を吐いた。 「私の花嫁は花のようなスカーレットだ!お前ではない!」と。 そして花嫁の父に向かって怒鳴った。 「騙したな!スカーレットではなく別人をよこすとは! この婚姻はなしだ!訴えてやるから覚悟しろ!」と。 そこから始まる物語。 作者独自の世界観です。 短編予定。 のちのち、ちょこちょこ続編を書くかもしれません。 話が進むにつれ、ヒロイン・スカーレットの印象が変わっていくと思いますが。 楽しんでいただけると嬉しいです。 ※9/10 13話公開後、ミスに気づいて何度か文を訂正、追加しました。申し訳ありません。 ※9/20 最終回予定でしたが、訂正終わりませんでした!すみません!明日最終です! ※9/21 本編完結いたしました。ヒロインの夢がどうなったか、のところまでです。 ヒロインが誰を選んだのか?は読者の皆様に想像していただく終わり方となっております。 今後、番外編として別視点から見た物語など数話ののち、 ヒロインが誰と、どうしているかまでを書いたエピローグを公開する予定です。 よろしくお願いします。 ※9/27 番外編を公開させていただきました。 ※10/3 お話の一部(暴言部分1話、4話、6話)を訂正させていただきました。 ※10/23 お話の一部(14話、番外編11ー1話)を訂正させていただきました。 ※10/25 完結しました。 ここまでお読みくださった皆様。導いてくださった皆様にお礼申し上げます。 たくさんの方から感想をいただきました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 今後はいただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。

行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される

めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」  ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!  テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。 『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。  新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。  アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。

妻のち愛人。

ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。 「ねーねー、ロナぁー」 甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。 そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

処理中です...