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スマイル9・王様の告白

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「でもいーじゃねーか」王雅に抱き寄せられた。「俺がいるぞ」

「頭、シバくわよ」

「バカか! 怪我人をいたわれ!! お前のパンチなんか喰らったら間違いなく死ぬぞ! そんなだから、アニキにも見捨てられんだよ」


 恭ちゃんに、見捨てられた――


 王雅の言葉が、何故か心に刺さった。


「一回くらい死んだら?」

「テメー! この怪力オンナが何を・・・・」


 その時、目に涙が滲んだ。
 ヤダ。どうして涙なんか出てくるの。
 うっすら目じりに溜まっていく涙を、どうしても止める事が出来なかった。


「なっ・・・・泣くことねーだろが! 言い過ぎたな。悪かった」

「・・・・ご、ゴメンなさい。違うの。何でもない」

 王様の前で泣くなんて。
 私、恭ちゃんの事、本当に引きずっていて、自分でも知らないうちに限界まで来ていたんだ。


「何でも無い訳ねーだろ。じゃ、何泣いてんだよ」


 答えられなかった。

 だって、誰が言えるの?


 恭ちゃんが好きだから、行き場のない悲しみを抱えているのが辛いって――



「・・・・そんなに、あのアニキが好きなのかよ」



 王雅が私の心を読んだかのように、本心を言われた。
 どうして解ったのかしら。

「お前見てりゃ解るよ。恭一郎が好きなんだろ? でも、アイツは実のアニキだぜ。ムリだろ。幾ら惚れてもさ」

「違うわよ。・・・・恭ちゃんは、本当のお兄ちゃんじゃないの。でも、ずっと好きだった」

「ふうん。ま、なんかワケありっぽいな。話してみろよ。俺様が特別に聞いてやるから」

「エラソーね」

 流石王様だわ。
 特別に聞いてやるからって・・・・。でも、王雅らしい。

「そうか? 普通だけど。どちらかと言えばお前の方がエラソーだろ。なあ、それよりホラ、話せ?」

「・・・・アンタしつこいから、話すまで付きまとわれそうね」


 重い溜息が出た。
 まあ、いい機会だわ。誰かに話すと、ラクになるのかもしれない。


「恭ちゃんは、訳あって真崎家の養子に貰われた子だったの。小さい頃からずっと一緒で、私の事、ずっと守ってくれたわ。血は繋がっていなくても、戸籍上は兄妹だから、結ばれる事は無い事くらい解ってた。・・・・だけど、何があってもずっと傍に居てくれるって、そう、約束していたの。ずっと私の事だけを大切にしてくれるって・・・・。なのに、遠くへ・・・・もう、二度と手の届かないところへ、恭ちゃんは行ってしまったのよ」


 ずっと独りで抱えていた想いが、悲しみが、赤裸々になっていく。
 施設の為にって、子供たちの為にって頑張ってきたけど、やっぱり恭ちゃんを失くしてしまったことは・・・・想像以上に大きな負担になっていたんだわ。

 気が付かないようにしていたけど、恭ちゃんに久々に会って、想いが再燃してしまった。


 自分で決めた事なのに。


 行かないで、って縋りついて泣いたりするような女になりたくなかったから、恭ちゃんと別れるあの日、笑顔で、今までありがとうって、伝えたのに――



「・・・・頭では解ってるの。恭ちゃんの事は諦めなきゃいけない事も、施設を守っていくための結婚だって事も・・・・。でも、ずっと、ずっと一緒だった。私、体が半分なくなっちゃったみたいで・・・・やっぱり、恭ちゃんがいないと・・・・」



「いいか、ミュー!」



 大声で私の言葉を遮り、王雅が私を力強く抱きしめてくれた。

「俺がいる! 恭一郎がいなくても安心しろ。俺が、これからはお前を守ってやる!」

「何・・・・言ってんのよ・・・・」


 アンタが?
 この私を守るって?


 ・・・・金持ちのお坊ちゃま風情が、熱にでもうかされているのかしら。
 こんな貧乏女、まともに相手をするワケが無いわ。


 こんな状況で、笑わせないでよ。
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