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スマイル9・王様の告白

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「せんせい――っ! 大変なのぉっ!! お兄さんがっ、お兄さんが死んじゃうぅっ!! わあぁぁぁ――んっ!!」



 王雅を追い出してから、暫く経ってからの事。
 大声で泣きながら、リカちゃんが仕事部屋に駆け込んできた。
 あまりの取り乱し様に、ただならぬ事が起きたのだと判った。

「どうしたのっ!? 死んじゃうって・・・・王雅に何かあったの!?」

「うぇぇぇーん、わぁあぁ――ん!」

 リカちゃんに連れられてきた、マーサ君も大泣きしている。
 マーサ君はもうすぐ二歳になる男の子。最近あちこちウロウロするのが好きで、ちょっと目を離すと、すぐに居なくなってしまうの。
 イタズラっ子の割に、虫が苦手ですぐ小さな虫を見ては悲鳴を上げて泣いちゃう、ちょっと泣き虫のカワイイ男の子。

「ううっ・・・・お兄さんと恭先生が・・・・サッカーでPK対決していたの。でもっ・・・・その最中に、マーサ君が・・・・ひっく、広場にっ・・・・歩いてきて・・・・ボールに当たりそうで危なかったから、私、思わず飛び出したら・・・・ひっく、お、お兄さんが・・・・わ、私をかばって・・・・っ、うわーんっ! お兄さんが死んじゃうよぉ――っ」


 あまりよろしくない事態のようね。
 とりあえずリカちゃんとマーサ君の手を引いて、どうなったか外へ様子を見に行こうとすると、美羽、急いで来てくれー、と恭ちゃんの大きな声が玄関の方でした。
 走って行くと、恭ちゃんが意識のない王雅を抱えて、丁度玄関から入ってくるところだった。

「櫻井君、脳震盪を起こしてる! とりあえずソファーに寝かせよう。応接室のソファーを並べてくれないか! 早くっ」

「わ、わかった!」

 応接室のテーブルをどかせて、リカちゃんにも手伝ってもらって、ソファーを二つくっつけて、長身の王雅が横になれるようにした。
 恭ちゃんがその上に王雅を寝かせている間に、患部を冷やせるように、冷たいタオルを用意して王雅の頭に当てた。彼は、まだ目を覚まさない。


「恭ちゃん。これ、一体どういうコト?」恭ちゃんを思い切り睨んだ。

 恭ちゃんがついていながら、どうしてこんな事になったのかしら!

「すまない。僕がやり過ぎたんだ」

「一体、何をやったの!?」

「ちょっと・・・・サッカーでPK勝負を・・・・」

 
「PKって・・・・王雅もサッカーやってたの? 経験者?」

「いや、彼はサッカー未経験者だよ。素人だと思う。ボールの蹴り方に異常に力が入ってたから、多分違う」

「じゃあ、その素人相手に勝負したってコト? 恭ちゃんが?」

「・・・・すまない」

 面目なさそうに恭ちゃんが項垂れた。
 もう・・・・どうしてこう面倒な事になっちゃうのよ!

「それより、脳震盪起こしてるって言ったけど、王雅、ちゃんと脈はあるのよね? 大丈夫なの?」

 病院に連れて行かなくても大丈夫なのかしら。

「ああ。頭に衝撃を受けたから、一時的に気を失っているだけだと思う。リカちゃんを庇って僕の本気で蹴ったボールに当たってしまったんだ。それで、こんな事に」

「こんな事に、じゃないでしょ! もうっ、恭ちゃん何やってんのよ! 素人が恭ちゃんの蹴った凄いボールなんか、取れるワケないじゃないの! そりゃあ、幾ら王雅に腹が立つからって、こんな卑怯なやり方しちゃ、可哀想じゃない!」


 まあ、ボールぶつけてもいいかなーと思うくらいの事は、王雅のヤツ、恭ちゃんにやったと思うけどね。

 
「うん、ごめん。悪かった。でも櫻井君、PK勝負で僕が蹴ったボール全部取ったんだよ! 凄いんだ。中々根性ある。それで僕もつい本気を出してしまって」

 恭ちゃんが嬉しそうに笑った。

「笑っている場合じゃないでしょっ!! もうっ、王雅が目を覚ますまで私がついて見ておくから、恭ちゃんはそれまで子供達の事見ててっ」

 怒って恭ちゃんを応接室から追い出した。


 全く・・・・恭ちゃんのサッカーバカは、死んでも直りそうにないわね。
 サッカーが絡むと見境無くなって、人が変わっちゃうんだもん。
 普段の温厚な恭ちゃんからは、考えられないくらい攻撃的で野性的になる。
 本当に、サッカーが好きなんだから。



 夢、追いかけさせてあげたかったな。




 私のせいで夢を諦めさせてしまって、ごめんね、恭ちゃん――





 
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