33 / 287
スマイル9・王様の告白
1
しおりを挟む「せんせい――っ! 大変なのぉっ!! お兄さんがっ、お兄さんが死んじゃうぅっ!! わあぁぁぁ――んっ!!」
王雅を追い出してから、暫く経ってからの事。
大声で泣きながら、リカちゃんが仕事部屋に駆け込んできた。
あまりの取り乱し様に、ただならぬ事が起きたのだと判った。
「どうしたのっ!? 死んじゃうって・・・・王雅に何かあったの!?」
「うぇぇぇーん、わぁあぁ――ん!」
リカちゃんに連れられてきた、マーサ君も大泣きしている。
マーサ君はもうすぐ二歳になる男の子。最近あちこちウロウロするのが好きで、ちょっと目を離すと、すぐに居なくなってしまうの。
イタズラっ子の割に、虫が苦手ですぐ小さな虫を見ては悲鳴を上げて泣いちゃう、ちょっと泣き虫のカワイイ男の子。
「ううっ・・・・お兄さんと恭先生が・・・・サッカーでPK対決していたの。でもっ・・・・その最中に、マーサ君が・・・・ひっく、広場にっ・・・・歩いてきて・・・・ボールに当たりそうで危なかったから、私、思わず飛び出したら・・・・ひっく、お、お兄さんが・・・・わ、私をかばって・・・・っ、うわーんっ! お兄さんが死んじゃうよぉ――っ」
あまりよろしくない事態のようね。
とりあえずリカちゃんとマーサ君の手を引いて、どうなったか外へ様子を見に行こうとすると、美羽、急いで来てくれー、と恭ちゃんの大きな声が玄関の方でした。
走って行くと、恭ちゃんが意識のない王雅を抱えて、丁度玄関から入ってくるところだった。
「櫻井君、脳震盪を起こしてる! とりあえずソファーに寝かせよう。応接室のソファーを並べてくれないか! 早くっ」
「わ、わかった!」
応接室のテーブルをどかせて、リカちゃんにも手伝ってもらって、ソファーを二つくっつけて、長身の王雅が横になれるようにした。
恭ちゃんがその上に王雅を寝かせている間に、患部を冷やせるように、冷たいタオルを用意して王雅の頭に当てた。彼は、まだ目を覚まさない。
「恭ちゃん。これ、一体どういうコト?」恭ちゃんを思い切り睨んだ。
恭ちゃんがついていながら、どうしてこんな事になったのかしら!
「すまない。僕がやり過ぎたんだ」
「一体、何をやったの!?」
「ちょっと・・・・サッカーでPK勝負を・・・・」
「PKって・・・・王雅もサッカーやってたの? 経験者?」
「いや、彼はサッカー未経験者だよ。素人だと思う。ボールの蹴り方に異常に力が入ってたから、多分違う」
「じゃあ、その素人相手に勝負したってコト? 恭ちゃんが?」
「・・・・すまない」
面目なさそうに恭ちゃんが項垂れた。
もう・・・・どうしてこう面倒な事になっちゃうのよ!
「それより、脳震盪起こしてるって言ったけど、王雅、ちゃんと脈はあるのよね? 大丈夫なの?」
病院に連れて行かなくても大丈夫なのかしら。
「ああ。頭に衝撃を受けたから、一時的に気を失っているだけだと思う。リカちゃんを庇って僕の本気で蹴ったボールに当たってしまったんだ。それで、こんな事に」
「こんな事に、じゃないでしょ! もうっ、恭ちゃん何やってんのよ! 素人が恭ちゃんの蹴った凄いボールなんか、取れるワケないじゃないの! そりゃあ、幾ら王雅に腹が立つからって、こんな卑怯なやり方しちゃ、可哀想じゃない!」
まあ、ボールぶつけてもいいかなーと思うくらいの事は、王雅のヤツ、恭ちゃんにやったと思うけどね。
「うん、ごめん。悪かった。でも櫻井君、PK勝負で僕が蹴ったボール全部取ったんだよ! 凄いんだ。中々根性ある。それで僕もつい本気を出してしまって」
恭ちゃんが嬉しそうに笑った。
「笑っている場合じゃないでしょっ!! もうっ、王雅が目を覚ますまで私がついて見ておくから、恭ちゃんはそれまで子供達の事見ててっ」
怒って恭ちゃんを応接室から追い出した。
全く・・・・恭ちゃんのサッカーバカは、死んでも直りそうにないわね。
サッカーが絡むと見境無くなって、人が変わっちゃうんだもん。
普段の温厚な恭ちゃんからは、考えられないくらい攻撃的で野性的になる。
本当に、サッカーが好きなんだから。
夢、追いかけさせてあげたかったな。
私のせいで夢を諦めさせてしまって、ごめんね、恭ちゃん――
0
お気に入りに追加
113
あなたにおすすめの小説
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
【完】愛していますよ。だから幸せになってくださいね!
さこの
恋愛
「僕の事愛してる?」
「はい、愛しています」
「ごめん。僕は……婚約が決まりそうなんだ、何度も何度も説得しようと試みたけれど、本当にごめん」
「はい。その件はお聞きしました。どうかお幸せになってください」
「え……?」
「さようなら、どうかお元気で」
愛しているから身を引きます。
*全22話【執筆済み】です( .ˬ.)"
ホットランキング入りありがとうございます
2021/09/12
※頂いた感想欄にはネタバレが含まれていますので、ご覧の際にはお気をつけください!
2021/09/20
溺愛されて育った夫が幼馴染と不倫してるのが分かり愛情がなくなる。さらに相手は妊娠したらしい。
window
恋愛
大恋愛の末に結婚したフレディ王太子殿下とジェシカ公爵令嬢だったがフレディ殿下が幼馴染のマリア伯爵令嬢と不倫をしました。結婚1年目で子供はまだいない。
夫婦の愛をつないできた絆には亀裂が生じるがお互いの両親の説得もあり離婚を思いとどまったジェシカ。しかし元の仲の良い夫婦に戻ることはできないと確信している。
そんな時相手のマリア令嬢が妊娠したことが分かり頭を悩ませていた。
【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」
そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。
彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・
産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。
----
初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。
終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。
お読みいただきありがとうございます。
白い結婚はそちらが言い出したことですわ
来住野つかさ
恋愛
サリーは怒っていた。今日は幼馴染で喧嘩ばかりのスコットとの結婚式だったが、あろうことかバーティでスコットの友人たちが「白い結婚にするって言ってたよな?」「奥さんのこと色気ないとかさ」と騒ぎながら話している。スコットがその気なら喧嘩買うわよ! 白い結婚上等よ! 許せん! これから舌戦だ!!
頑張らない政略結婚
ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」
結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。
好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。
ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ!
五話完結、毎日更新
行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される
めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」
ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!
テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。
『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。
新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。
アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる