上 下
29 / 287
スマイル8・王様の宣言

しおりを挟む
 今日は久々に朝から心が穏やかだった。
 ホテルの件もカタ着いたから、立ち退き要請の為に毎日来ていた王雅も暫く来ないと思うし、子供達とゆっくり楽しくお遊戯をしようと思った。
 恭ちゃんも私の事が心配だって、忙しいのに、今日も朝早くから施設に来てくれた。

 王雅の事、一応報告しておいた。
 施設の土地は彼のものになった事、今後は無償でこの土地を貸してくれる事を伝えた。

 王雅の夜の相手をしなければならない事については、お互い触れなかった。
 言ってもどうしようもないし、恭ちゃんを傷つけるだけになってしまうだろうから。
 私だって好きな男に、別の男に抱かれなきゃならないような話はしたくないし。


 朝ごはんを食べさせて、恭ちゃんと手分けして片付けを行って、九時からお遊戯をした。

 最初は紙芝居を読むことにした。
 みんなが大好きな、桃太郎のお話。

 私もずっと、美幸おかあさんや久信おとうさんに読んでもらったな。
 読んでーって言うと、二人のうちのどちらかが、必ず私の要望に応えてくれた。
 この紙芝居を見ると、優しくて、大好きな両親を思い出す。


「みんなー、今日は紙芝居を先生が読むから、静かに聞いてねー」

「やったー!!」

「はーいっ!」

 子供達は元気よく返事をしてくれて、私の目の前に迫ってきた。
 

「みんな、ちょっと近すぎるわ」


 圧迫感、凄いって。
 子供達に囲まれて、更にずいずい迫って来られた。


「せんせーい、早く読んでーっ!」

「みーちゃん、早くーぅ」

「せー」

「ミュー先生っ! ももたろー、歌って―っ!」

「はやく、はやくーっ」


「わかった。もう、みんな、ちょっと落ち着いて」

 口々にあれこれ言われて、みんなを落ち着けるのに時間がかかってしまった。


「むかしむかし あるところに――・・・・」


 紙芝居を読みだすと、みんなキラキラと目を輝かせて、絵に釘付けになっている。
 かわいい、かわいい、私の子供達。

 みんなと過ごすこの時間が、何よりの幸せよ。
 恭ちゃんもいてくれるし、本当に幸せ。


「もー! もーっ!!」


 大きな桃が流れて来る絵を見ると、決まって興奮するのは、まだ二歳のキューマ君。
 キューマ君はちょっと発達遅れなところがあって、同じ二歳の子供達より随分お喋りが遅く歩くのも遅い。

 でも、誰よりもカワイイ笑顔で笑う、悪戯好きの男の子。
 目が大きくて、少しだけカールのかかった柔らかく短い黒い髪をしていて、まるでお人形みたいにカワイイの。
 歩くのが上手じゃないから、私が手を離せない時、他のみんながキューマ君を助けてくれる。移動する時なんかは、必ず誰かが傍について、手を繋いでくれるの。


 マサキ施設では、みんなで助け合って、肩を寄せ合って生きている。


 貧乏だから節約料理が多いし、玩具とか沢山買ってあげる事はできないけど、それでも、愛情は誰にも負けないくらいにたっぷりかけて育てているわ。それだけは、唯一自慢できる事よ。

 だから、子供達はみんな優しい。お友達を大切にできる心を持っている。
 傷ついた過去があるからこそ、他人を傷つけたり、差別したり、そんな事は絶対にしない。
 まあ、子供ならではのケンカは絶えないけどね。
 仲がいい証拠。


「キューちゃん、もも、美味しそうだねぇー。アイリ、もも食べたーい」


 アイリちゃんがキューマ君の傍で笑った。
 アイリちゃんは、お喋りがとっても大好きな、のんびり屋さんの四歳の女の子。
 ゆるい天然パーマがかかった肩までくらいの黒い髪をしていて、ちょっとタレ目でカワイイ女の子なの。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴方の事なんて大嫌い!

柊 月
恋愛
ティリアーナには想い人がいる。 しかし彼が彼女に向けた言葉は残酷だった。 これは不器用で素直じゃない2人の物語。

2番目の1番【完】

綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。 騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。 それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。 王女様には私は勝てない。 結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。 ※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです 自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。 批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

御機嫌ようそしてさようなら  ~王太子妃の選んだ最悪の結末

Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。 生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。 全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。 ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。 時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。 ゆるふわ設定の短編です。 完結済みなので予約投稿しています。

〖完結〗私が死ねばいいのですね。

藍川みいな
恋愛
侯爵令嬢に生まれた、クレア・コール。 両親が亡くなり、叔父の養子になった。叔父のカーターは、クレアを使用人のように使い、気に入らないと殴りつける。 それでも懸命に生きていたが、ある日濡れ衣を着せられ連行される。 冤罪で地下牢に入れられたクレアを、この国を影で牛耳るデリード公爵が訪ねて来て愛人になれと言って来た。 クレアは愛するホルス王子をずっと待っていた。彼以外のものになる気はない。愛人にはならないと断ったが、デリード公爵は諦めるつもりはなかった。処刑される前日にまた来ると言い残し、デリード公爵は去って行く。 そのことを知ったカーターは、クレアに毒を渡し、死んでくれと頼んで来た。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全21話で完結になります。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...