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スマイル5・王様と義理兄

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 リョウ君の誕生日から、早くも二週間という月日が流れた。
 王雅ったら、手酷く追い返したにも関わらず、性懲りもなく毎日毎日施設に来るの!
 本当にしつこい男。ゴキブリみたいな男ね。追い払っても追い払っても、またやって来るの。
 施設にいるとまた王雅に捕まるから、今日は黙って近くの畑に野菜を取りに行くことにして、留守にすることにした。諦めて帰ってくれる事を願うわ。

 近くの畑というのは、商店街の八百屋さんの畑なんだけど、一部を無料で貸してもらっている。
 野菜の育て方とか教えてもらって、大事に育てているの。
 一人じゃなかなか子供達を置いて手入れに来れないから、八百屋さんがついでにお水や肥料をあげてくれている代わりに、ちょくちょくやって来て、草むしりなんかを引き受けて子供達と一緒に出来ることをお手伝いしている。

 プチ遠足みたいで子供達は喜ぶから、早速準備を整えて、全員で出かけた。


「おかーをこーえーゆこーうよー くちーぶえーふきつーつー」


 有名な童謡――ピクニックを誰かが歌い出したので、みんなで一緒になって歌った。
 子供の足で十分程の畑は、小さいけれど色々な野菜が実っていた。

 私が借りている所には、美味しそうなキュウリが出来上がっていた。
 収穫して、わかめとツナの酢の物にしよう。子供用に甘くすると、結構食べてくれるのよね。
 茄子も出来ていたから、これも収穫しよう。さっぱりおひたしにでもしようかな。

 子供達に軍手をはめさせて、一緒に収穫した。

 丁寧に草むしりをして、一人一つずつ好きな野菜を収穫して、持ってきたビニール袋に入れて、施設に戻った。
 戻っている最中に、錆びた鉄門を押し開けて王雅が中に入っていくのが見えた。


 案の定、来たのね。


 もう少しゆっくりしてくれば良かった。でも結構日差しが熱くなってきたから、熱中症が心配で早めに切り上げたのよね。げんなりしながら門を開けると、施設の玄関付近で私の義理兄――真崎恭一郎――と、王雅が何やらモメていた。


 ドキン、と久しぶりに会う恭ちゃんの立ち姿に、思わず心臓が高鳴った。


 彼等の声が聞こえてくる。
 
「まだ何か御用ですか? 貴方も暇人なのですね」

「御用? あるぜ。今、花井ってヤツに地代交渉して来たところだ。お前だったら解るだろ?」

「花井・・・・」

 恭ちゃんが花井の名を呟いた途端、穏やかだった顔に怒りが滲んだ。


 花井――私の心がどす黒い感情で覆われていく。この世で一番聞きたくない名前だ。
 本当に最低の、憎い男。



「お前等がゴネるんだったら、こっちも手段は選らばねえから。契約更新で地代、せいぜいふっかけられ――」

 そこまで王雅が言ったところで、恭ちゃんが思い切りアイツの胸倉を掴んだ。
 花井と地代交渉したあの時以来だ。あんな恭ちゃんの怒った顔を見たのは。
 恭ちゃんは優しいし、滅多な事では怒らない。そんな恭ちゃんを怒らせるなんて、王雅、アンタ一体何したのよ――

「花井は契約時に僕達とちゃんと約束したんだ。僕達の大事なものを奪う代わりに、地代は値上げしたり、他人に譲渡しないってな!! チンピラの取引には応じないさ!」

 恭ちゃんの剣幕にもひるむことなく、王雅は笑っている。「約束? アイツと?」

「何がおかしい!」

 恭ちゃんが怒って王雅につっかかっていったが、アイツは軽く恭ちゃんをあしらった。
 
「悪いが花井の事は、俺がよく知ってる。アイツは性根が腐った奴だから、例え書面で契約を交わしたとしても、それを偽造するとか、本物の書類を誰かを使って盗み出す、なんてのは平気でやるからな。俺みたいにアイツと長く取引をした事をある人間ならまだしも、素人同然のお前等が結んだそんな契約なんて、無効だ。今度の更新でせいぜいムチャな地代払えって言われて、お終いなんだよ」

「何っ!?」

「ウソだと思うなら、書面の内容確かめて、花井と直接交渉することだな」

 言い争いが収まりそうになかったから、私はつい声を荒げた。「なにしてるの! ちょっと、大王、恭ちゃんに何を乱暴してんのよ! 離れなさい!!」

「何もしてねーよ。ビジネス(施設立ち退き)の話をしてただけ。しかも突っかかってきたの、ソイツの方だし」

「またその話!? いい加減にしてよね! それより邪魔! どいて!」

 ドン、と王雅を突き飛ばして、恭ちゃんに駆け寄った。
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