上 下
9 / 287
スマイル3・王様がコロッケに興奮

しおりを挟む
 買い出しを終えて施設に戻ってきたら、私の帰りを待ってましたとばかりに、子供達が出迎えてくれた。
 門のカギを開けてくれて、問題なく今日もちゃんと留守番をしていてくれた。
 兄の真崎恭一郎――私は恭ちゃんと呼んでいる――が施設を出て一人になってからは、子供達を残して買い出しに出かけるっていうこのスタイル、本当に心配だから何とかしたい。

 行政に見つかったら、アウトなやり方だと思う。
 昨日の事もそうだけど、無関係な人を巻き込んで留守番させるなんて無責任なやり方になっているから何とかしなきゃいけないのは解っているんだけど、人を雇うお金の余裕も無いし、留守番を頼める親しい身内も恭ちゃん以外いないし本当に困っている。

 施設を立ち退きすれば金銭的な問題は解決するのは解っていても、この施設はどうしても両親が私の為に建ててくれた大切な施設だから、絶対に、手放したりすることは出来ない。


 私はマサキ施設を、命を懸けて守っているの。


 でも、私の経営のやり方がマズいから、殆ど赤字になってしまう。
 お金がもう少しあればな、って何時も思う。無駄遣いはしていないつもりだけれど、支出に対しての収入が少なすぎるのが原因。


 解っていても、困っている人からどうしてもお金を貰う事ができない。


 私が頑張れば何とかなることなら、何でもやるんだけどな。
 いい内職の仕事無いか、また募集のチラシチェックしよう。そうだわ。足りない分は別に私が稼げばいいのよ。
 これからはもっと、頑張って出来る仕事こなしていこう。
 目標は、留守番くらい雇えるようになりたいわ。


「皆、お腹空いたでしょ? ゴメンねっ、すぐご飯にするから、お手伝いお願いね!」


 施設内に入って時計を見ると、十一時半だった。
 既にオムライスの下準備はしてあるから、後はチャッチャと卵焼いて、子供達に食事の用意を手伝ってもらおう。
 コロッケを荷物持ちに持たせたままだというコトに気が付いて、私は慌ててセクハラ大王を呼んだ。


「ちょっとー、アンタも来なさいよー!」


 私の声にいち早く反応してくれたガックンと同じ六歳の、毎朝欠かさず髪を結ってツインテールにしているおしゃまな女の子――リカちゃんの二人が、セクハラ大王を連れてきてくれた。

「ミュー先生、お兄さん連れて来たよー!」

「有難う。じゃあ、皆でスプーン用意してくれる? お兄さんから包み受け取って、こっちにお願い」

 皆を食堂に誘導するように二人にお願いして、私はオムライスの準備に取り掛かった。
 保温の釜に入れてあるチキンライスと温めておいた手作りのデミグラスソースを確認して、卵を手際よくかき混ぜて焼いていく。
 並べた十三枚のお皿にチキンライスを均等に盛っていると、さっきのお兄さんの分は? ってガックンに聞かれてしまった。

「あぁ・・・・さっきのお兄さんの分は無いの」

「ええーっ、ミュー先生、お買い物も手伝ってくれたのに、お兄さん一人だけ食べられないの可哀想です。こんなに美味しいオムライスなんだから、お兄さんにも食べさせてあげて下さい」

 ガックンは本当にいい子。優しいし、真面目。
 でも、あんなセクハラ大王に優しくする必要なんて無いのよ?

「ガックン、ありがとう。でも、お兄さんが来るって先生知らなかったから、お兄さんの分は作ってないの」

「じゃあ、みんなの少しずつ分けてあげたら、お兄さんの分も出来ますか? 困った時は、みんなで分ける――先生がいつも僕たちに教えてくれます!」

「・・・・そうね、そうだったわね。解ったわ、ガックン。じゃあ、お兄さんの分もスプーン用意してあげて?」

「はーい!」

 ガックンは嬉しそうに人数分のスプーンを用意して、食堂へ走って行った。


 はあー。何であのセクハラ大王に、私達の貴重な昼食をご馳走してやらなきゃいけないのよ。
 でも、アイツを何も食べさせずに追い返したりしたら、ガックンが悲しむわ。


 昼食代として、二、三百円くらい払って欲しいところだけど・・・・まあ、荷物持ちのお礼と思いましょう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈 
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる

春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。 幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……? 幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。 2024.03.06 イラスト:雪緒さま

わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない

鈴宮(すずみや)
恋愛
 孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。  しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。  その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

メイドから家庭教師にジョブチェンジ~特殊能力持ち貧乏伯爵令嬢の話~

Na20
恋愛
ローガン公爵家でメイドとして働いているイリア。今日も洗濯物を干しに行こうと歩いていると茂みからこどもの泣き声が聞こえてきた。なんだかんだでほっとけないイリアによる秘密の特訓が始まるのだった。そしてそれが公爵様にバレてメイドをクビになりそうになったが… ※恋愛要素ほぼないです。続きが書ければ恋愛要素があるはずなので恋愛ジャンルになっています。 ※設定はふんわり、ご都合主義です 小説家になろう様でも掲載しています

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

処理中です...