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ラストスマイル
世界一の男・4
しおりを挟む「オフクロがこんな顔に産んだんだろーが。知るか。おーたんはおーたんだ」
「ぷっ・・・・あはははっ!! 王雅がおーたんなんて、全っっっ然似合ってないわ! ああ、おかしい」
俺にそっくりの顔で――あの、お菓子の家で写真を撮った時の俺と同じ顔で、オフクロが笑った。
オフクロのそんな笑ったところ、俺、生まれて初めて見た――
「驚いた。小夜、君がこんなに笑うなんて」
黙って俺達のやりとりを見ていた、オヤジの方も笑っている。
マサキ施設は、魔法の施設だな。
俺達みたいな笑う事に無縁だった冷たい人間でさえ、ここに来ると、誰でも笑えることができるんだ。
オフクロも、オヤジも、俺と一緒じゃねーか。
ちゃんと血が通っていて、笑う事が出来るじゃねーか。
ただ、あの広くて寒い家じゃ、出来なかっただけなんだな。
「おーたんママ、パパ、こんにー」
こんにちは、と言いながらチイが腕を伸ばした。
オフクロが戸惑って俺の方を見つめてきたから、抱いてやってくれよ、と、オフクロにチイを託した。
「おーたんママー」
チイがオフクロに笑いかけてくれた。何時もの満面の笑み。俺様もメロメロになっちまう、チイの最高の笑顔で。
「まあ・・・・なんて可愛いの」
慣れない手つきで、壊れ物に扱うように丁寧な様子で、オフクロがチイを抱いた。
「王雅もこれくらい可愛かったら・・・・」オフクロがため息を吐いた。
「何だよ。俺が全然可愛くないみたいに言いやがって」
「そうよ。全然可愛くなかったわよ。もう、可愛さ皆無」
「はあっ!? 我が子が可愛くないってどーいう見解だよ」
「だって王雅ってば、本当に、なんっっにも可愛くなかったのよ! 全然笑わないし、泣かないし、何時でも仏頂面だし。話しかけても、あっそう、とか、うんとか、ふんとか。生返事みたいなのばっかり!」
「そりゃ仏頂面にもなるっつーの! 全然俺に構ってくれなかったのは、そっちじゃねーか!」
「しょうがないでしょう! 仕事が忙しかったのよ! たまに構おうと思ったら、ブスっとして全然笑わないし、全く可愛げ無いし」
ケンカになった。
「おーたん、おーたんママ、ケン、めー」
ケンカはダメとチイに止められた。
ちょっと怒った顔をしている。でも、怒った顔もカワイイ。
「ちょっと貸してくれないか」オヤジが横から口を挟んで、オフクロからチイを取り上げた。「まあこれは、何とも可愛らしい・・・・」
うっとりとため息を漏らしている。
オイ、オヤジ。お前にそんな事、俺は一度もされた覚えはねーぞ。
「小夜の言う通りだ。王雅は感情の起伏も無くて、全然可愛くなかったからなぁ。チイちゃーん、おーたんパパですよー」
うわっ!! オヤジまで壊れたっ!!
おーたんパパとか自分で言って、デレデレの顔してチイに笑いかけてるっ。
俺が可愛くないって、何だそりゃ!
俺が悪いのかよっ!?
信じらんねーっ!!
今のでヒジョーに傷ついたっ!!
また金目のモン、元自宅に取りに行って根こそぎ売っぱらってやる!!
誰かが身内のモンでも窃盗罪になるから気をつけろ、とかアドバイスしてくれてたけど、構うもんか!
櫻井家から犯罪者が出たら、アイツ等の方が困るんだ!!
だから絶対、俺は訴えられない。大丈夫だ。心配してくれて、ありがとよ。
「あなた・・・・」
オフクロもオヤジの様子を見て、驚いている。
多分お互い、初めて素の部分っつーか、見たこと無い部分を見たからだろーな。
満面の笑みで笑いあってる俺等なんて、あの家じゃ想像も出来なかった。
オフクロと言い合ってケンカしたのも、俺は初めてだし。
こんな事、出来るんだな。
スゲー、嬉しいな。
「返せよ。何時まで抱いてんだ。チイは俺のだ」
オヤジからチイを取り返した。「おーたんママもおーたんパパも、俺をずーっとほったらかしにしていた悪いヤツだから、近寄っちゃダメだぞ。チイ」
「ちょっと王雅っ、何てこと言うのっ!! こんな可愛いチイちゃんに向かって! 悪いヤツっていうのは、王雅の方でしょう!」
「そうだぞ、王雅! チイちゃんを返しなさい」
珍しくオヤジも声を荒げている。
「バーカ。何が返せだ。チイは俺のだっつってんだろ。お前等に大事なチイを渡せるかっつーの! なー、チイ?」
「まっ! やっぱり王雅は可愛くないわ!」
「そうだぞ、王雅。小夜の言う通りだ」
「何と言われようが、貸さね――」
「おーたん」チイが俺の口元を小さな手で塞いだ。「おーたん、ケン、めー。ちー、おーたんママ、おーたんパパ、しゅきー」
チイがニコっと笑った。
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