コロッケスマイル

さぶれ@6作コミカライズ配信・原作家

文字の大きさ
上 下
144 / 150
ラストスマイル

世界一の男・4

しおりを挟む
 
「オフクロがこんな顔に産んだんだろーが。知るか。おーたんはおーたんだ」

「ぷっ・・・・あはははっ!! 王雅がおーたんなんて、全っっっ然似合ってないわ! ああ、おかしい」



 俺にそっくりの顔で――あの、お菓子の家で写真を撮った時の俺と同じ顔で、オフクロが笑った。




 オフクロのそんな笑ったところ、俺、生まれて初めて見た――




「驚いた。小夜、君がこんなに笑うなんて」

 黙って俺達のやりとりを見ていた、オヤジの方も笑っている。


 マサキ施設は、魔法の施設だな。
 俺達みたいな笑う事に無縁だった冷たい人間でさえ、ここに来ると、誰でも笑えることができるんだ。


 オフクロも、オヤジも、俺と一緒じゃねーか。

 ちゃんと血が通っていて、笑う事が出来るじゃねーか。


 ただ、あの広くて寒い家じゃ、出来なかっただけなんだな。
 
「おーたんママ、パパ、こんにー」

 こんにちは、と言いながらチイが腕を伸ばした。
 オフクロが戸惑って俺の方を見つめてきたから、抱いてやってくれよ、と、オフクロにチイを託した。

「おーたんママー」

 チイがオフクロに笑いかけてくれた。何時もの満面の笑み。俺様もメロメロになっちまう、チイの最高の笑顔で。


「まあ・・・・なんて可愛いの」


 慣れない手つきで、壊れ物に扱うように丁寧な様子で、オフクロがチイを抱いた。

「王雅もこれくらい可愛かったら・・・・」オフクロがため息を吐いた。

「何だよ。俺が全然可愛くないみたいに言いやがって」

「そうよ。全然可愛くなかったわよ。もう、可愛さ皆無」

「はあっ!? 我が子が可愛くないってどーいう見解だよ」

「だって王雅ってば、本当に、なんっっにも可愛くなかったのよ! 全然笑わないし、泣かないし、何時でも仏頂面だし。話しかけても、あっそう、とか、うんとか、ふんとか。生返事みたいなのばっかり!」

「そりゃ仏頂面にもなるっつーの! 全然俺に構ってくれなかったのは、そっちじゃねーか!」

「しょうがないでしょう! 仕事が忙しかったのよ! たまに構おうと思ったら、ブスっとして全然笑わないし、全く可愛げ無いし」

 ケンカになった。

 
「おーたん、おーたんママ、ケン、めー」

 ケンカはダメとチイに止められた。
 ちょっと怒った顔をしている。でも、怒った顔もカワイイ。

「ちょっと貸してくれないか」オヤジが横から口を挟んで、オフクロからチイを取り上げた。「まあこれは、何とも可愛らしい・・・・」


 うっとりとため息を漏らしている。
 オイ、オヤジ。お前にそんな事、俺は一度もされた覚えはねーぞ。


「小夜の言う通りだ。王雅は感情の起伏も無くて、全然可愛くなかったからなぁ。チイちゃーん、おーたんパパですよー」


 うわっ!! オヤジまで壊れたっ!!
 おーたんパパとか自分で言って、デレデレの顔してチイに笑いかけてるっ。


 俺が可愛くないって、何だそりゃ!
 俺が悪いのかよっ!?
 信じらんねーっ!!


 今のでヒジョーに傷ついたっ!!
 また金目のモン、元自宅に取りに行って根こそぎ売っぱらってやる!!
 誰かが身内のモンでも窃盗罪になるから気をつけろ、とかアドバイスしてくれてたけど、構うもんか!

 櫻井家から犯罪者が出たら、アイツ等の方が困るんだ!!

 だから絶対、俺は訴えられない。大丈夫だ。心配してくれて、ありがとよ。
 

「あなた・・・・」


 オフクロもオヤジの様子を見て、驚いている。
 多分お互い、初めて素の部分っつーか、見たこと無い部分を見たからだろーな。
 満面の笑みで笑いあってる俺等なんて、あの家じゃ想像も出来なかった。
 オフクロと言い合ってケンカしたのも、俺は初めてだし。

 こんな事、出来るんだな。

 スゲー、嬉しいな。


「返せよ。何時まで抱いてんだ。チイは俺のだ」

 オヤジからチイを取り返した。「おーたんママもおーたんパパも、俺をずーっとほったらかしにしていた悪いヤツだから、近寄っちゃダメだぞ。チイ」

「ちょっと王雅っ、何てこと言うのっ!! こんな可愛いチイちゃんに向かって! 悪いヤツっていうのは、王雅の方でしょう!」

「そうだぞ、王雅! チイちゃんを返しなさい」

 珍しくオヤジも声を荒げている。

「バーカ。何が返せだ。チイは俺のだっつってんだろ。お前等に大事なチイを渡せるかっつーの! なー、チイ?」

「まっ! やっぱり王雅は可愛くないわ!」

「そうだぞ、王雅。小夜の言う通りだ」

「何と言われようが、貸さね――」

「おーたん」チイが俺の口元を小さな手で塞いだ。「おーたん、ケン、めー。ちー、おーたんママ、おーたんパパ、しゅきー」


 チイがニコっと笑った。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

それは、ホントに不可抗力で。

樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。 「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」 その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。 恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。 まさにいま、開始のゴングが鳴った。 まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

処理中です...