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ラストスマイル
世界一の男・3
しおりを挟むさあ、美羽の準備は進んでいるかな。
俺の方は既に白いスーツに着替えて、セットもバッチリで、スタンバイオーケーだ。
普通は式前にこんな格好で招待客の前をウロウロしないけど、施設だから仕方ない。
俺が一人でスタンバイしておける場所が無いから、追い出されたんだ。今は美羽が食堂の方で準備中だからな。
仕事部屋は大切な書類なんかがあるから封鎖してあるし、応接室やキッチンは準備の為に色々利用しているから、俺がいると邪魔になっちまうんだ。
美羽の花嫁姿、きっと世界一綺麗だろうな。
そんな美羽の花嫁姿なんか見たら、恭一郎とか平岡のヤツは泣くんじゃねーの。あっ、横山も泣くかもな。
それにしても横山は、美羽の命の恩人だったんだな。
そりゃー俺が工場助けたら、あんなに感謝されるハズだ。
お陰で変な夢を見ちまったけど、それもまあ今となっちゃ、想い出のひとつだ。
施設一筋だった美羽も、これからは俺一筋になってくれりゃーいいんだけどな。
俺はもう、随分前から美羽一筋だ。これは一生変わらないと思う。
美羽以上にイイ女なんて、この世にいないから。
まあもし、万が一美羽以上の女がいたとしても、俺にとったら美羽が世界一だから。
「おーたん!」
広場で商店街の奴らと談笑していた俺の元へチョコチョコと走って来たのは、チイだった。その後ろには佳奈美がいて、会釈してくれた。
チイは随分めかしこんでいて、ピンクの幼児用ドレスを着ている。短い柔らかな髪にリボンが付けられていて、超キュートだ。
「チイっ!!」
俺は一目散にチイに駆け寄った。
「チイ・・・・暫く見ない間にお前・・・・大きくなったなぁ」
抱きしめた感覚が、数か月前と全然違っていた。
柔らかい抱き心地は変わらずだったが、身長も少し伸びて随分発達したと思う。
「おーたん、あーにきた!」
お喋りも上手になっている。マジ感激だ。
「俺様に会いに来てくれたのか!? ありがとう、チイ。マジで嬉しー」
あぁあぁー。ごめんな、チイ。俺、今から美羽のモンになっちまうんだ。
もうお前と結婚はできねーんだ。
でもな、お前のコト、赦されるなら嫁にしてーよ。
W結婚とかムリかな? 美羽のヤツ、チイとも結婚してもいいかっつったら怒るかな・・・・。
「王雅、貴方・・・・」
満面の笑みでチイを抱きしめている俺を見て、声をかけて来たのはオフクロだった。隣にはオヤジもいる。
「えっ、オフクロ・・・・オヤジも、何でココにいるんだよ」
呼んだ覚え、ねーんだけど。
「美羽さんが呼んで下さったのよ。王雅の晴れ姿、私達に是非見に来て欲しいって。それより王雅・・・・そんなに笑えたの? 私、王雅がそんなに幸せそうに笑う顔、初めて見たわ」
心底驚いた顔で、オフクロが俺に向かって言った。
俺もオフクロがそんなに驚いた顔をしているの、初めて見たぞ。
「そりゃ、あんなクソ広寒い家で、笑えるかっつーの。誰も笑わねー上に二人共いねーし、笑う要素、皆無な家だろが。俺は美羽に出逢って、初めてこんな風に笑うコトができるようになったんだ。あ、コイツ、チイって言うんだ。かわいーだろ? ま、俺の娘みたいなモンだ! 施設にいるガキは、全部俺の子供だ。みんな俺を慕って、必要としてくれる。オヤジやオフクロに貰えなかった、あったかい愛情でいつも包んでくれるんだ。サイコーに幸せだぜ!」
「おーたん、だー?」
チイが俺の方を向いて、オフクロやオヤジが誰か聞いてきたから、俺の母親(ママ)と父親(パパ)だと教えてやった。
「おーたん?」オフクロが目を丸くした。「おーたんって・・・・もしかして、王雅の事?」
「そーだけど。チイが呼んでくれるんだ。おーたんって」
「おっ・・・・おーたん・・・・」
そう呟いて、オフクロが肩を奮わせて必死に笑いを堪えている。
なっ・・・・なんつー事だ!
気難しい顔して仕事の打ち合わせばかりで、デザイン画を起こすのに何時も必死で、幼い頃、たまに家にいる時一緒に遊んで欲しくて傍に行ったら、気が散るからあっちへ行けと、鬼の形相で俺を追い払っていたあのオフクロが――
わっ・・・・笑いを堪えてるなんて!!
俺の方が驚きだ。オフクロのそんな顔、マジで初めて見た。
そんな顔、出来るんだ。
俺の両親はいっつも冷たくて、何の温かみも感情も無い人間だと思っていたのに。
「櫻井小夜(さくらいさよ)の一人息子のおーたんだけど、何か?」
こーなりゃ、オフクロを笑わせてやろう。
「ちょっと、王雅! 止めなさい」
「俺、おーたん」
「もうっ・・・・おーたんって・・・・王雅、貴方、そんな可愛い顔じゃないでしょ・・・・」
もう一押しか。敵(ヤツ)は大分震えてるぞ。
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