コロッケスマイル

さぶれ@6作コミカライズ配信・原作家

文字の大きさ
上 下
143 / 150
ラストスマイル

世界一の男・3

しおりを挟む
 
 さあ、美羽の準備は進んでいるかな。

 俺の方は既に白いスーツに着替えて、セットもバッチリで、スタンバイオーケーだ。
 普通は式前にこんな格好で招待客の前をウロウロしないけど、施設だから仕方ない。

 俺が一人でスタンバイしておける場所が無いから、追い出されたんだ。今は美羽が食堂の方で準備中だからな。
 仕事部屋は大切な書類なんかがあるから封鎖してあるし、応接室やキッチンは準備の為に色々利用しているから、俺がいると邪魔になっちまうんだ。


 美羽の花嫁姿、きっと世界一綺麗だろうな。
 そんな美羽の花嫁姿なんか見たら、恭一郎とか平岡のヤツは泣くんじゃねーの。あっ、横山も泣くかもな。


 それにしても横山は、美羽の命の恩人だったんだな。
 そりゃー俺が工場助けたら、あんなに感謝されるハズだ。
 お陰で変な夢を見ちまったけど、それもまあ今となっちゃ、想い出のひとつだ。

 施設一筋だった美羽も、これからは俺一筋になってくれりゃーいいんだけどな。
 俺はもう、随分前から美羽一筋だ。これは一生変わらないと思う。

 美羽以上にイイ女なんて、この世にいないから。
 まあもし、万が一美羽以上の女がいたとしても、俺にとったら美羽が世界一だから。


「おーたん!」


 広場で商店街の奴らと談笑していた俺の元へチョコチョコと走って来たのは、チイだった。その後ろには佳奈美がいて、会釈してくれた。
 チイは随分めかしこんでいて、ピンクの幼児用ドレスを着ている。短い柔らかな髪にリボンが付けられていて、超キュートだ。


「チイっ!!」


 俺は一目散にチイに駆け寄った。

「チイ・・・・暫く見ない間にお前・・・・大きくなったなぁ」

 抱きしめた感覚が、数か月前と全然違っていた。
 柔らかい抱き心地は変わらずだったが、身長も少し伸びて随分発達したと思う。

「おーたん、あーにきた!」

 お喋りも上手になっている。マジ感激だ。

「俺様に会いに来てくれたのか!? ありがとう、チイ。マジで嬉しー」

 あぁあぁー。ごめんな、チイ。俺、今から美羽のモンになっちまうんだ。
 もうお前と結婚はできねーんだ。

 でもな、お前のコト、赦されるなら嫁にしてーよ。

 W結婚とかムリかな? 美羽のヤツ、チイとも結婚してもいいかっつったら怒るかな・・・・。
 


「王雅、貴方・・・・」



 満面の笑みでチイを抱きしめている俺を見て、声をかけて来たのはオフクロだった。隣にはオヤジもいる。

「えっ、オフクロ・・・・オヤジも、何でココにいるんだよ」

 呼んだ覚え、ねーんだけど。

「美羽さんが呼んで下さったのよ。王雅の晴れ姿、私達に是非見に来て欲しいって。それより王雅・・・・そんなに笑えたの? 私、王雅がそんなに幸せそうに笑う顔、初めて見たわ」

 心底驚いた顔で、オフクロが俺に向かって言った。
 俺もオフクロがそんなに驚いた顔をしているの、初めて見たぞ。

「そりゃ、あんなクソ広寒い家で、笑えるかっつーの。誰も笑わねー上に二人共いねーし、笑う要素、皆無な家だろが。俺は美羽に出逢って、初めてこんな風に笑うコトができるようになったんだ。あ、コイツ、チイって言うんだ。かわいーだろ? ま、俺の娘みたいなモンだ! 施設にいるガキは、全部俺の子供だ。みんな俺を慕って、必要としてくれる。オヤジやオフクロに貰えなかった、あったかい愛情でいつも包んでくれるんだ。サイコーに幸せだぜ!」

「おーたん、だー?」

 チイが俺の方を向いて、オフクロやオヤジが誰か聞いてきたから、俺の母親(ママ)と父親(パパ)だと教えてやった。


「おーたん?」オフクロが目を丸くした。「おーたんって・・・・もしかして、王雅の事?」

 

 
「そーだけど。チイが呼んでくれるんだ。おーたんって」

「おっ・・・・おーたん・・・・」

 そう呟いて、オフクロが肩を奮わせて必死に笑いを堪えている。



 なっ・・・・なんつー事だ!



 気難しい顔して仕事の打ち合わせばかりで、デザイン画を起こすのに何時も必死で、幼い頃、たまに家にいる時一緒に遊んで欲しくて傍に行ったら、気が散るからあっちへ行けと、鬼の形相で俺を追い払っていたあのオフクロが――



 わっ・・・・笑いを堪えてるなんて!!



 俺の方が驚きだ。オフクロのそんな顔、マジで初めて見た。

 そんな顔、出来るんだ。
 俺の両親はいっつも冷たくて、何の温かみも感情も無い人間だと思っていたのに。


「櫻井小夜(さくらいさよ)の一人息子のおーたんだけど、何か?」

 こーなりゃ、オフクロを笑わせてやろう。

「ちょっと、王雅! 止めなさい」

「俺、おーたん」

「もうっ・・・・おーたんって・・・・王雅、貴方、そんな可愛い顔じゃないでしょ・・・・」


 もう一押しか。敵(ヤツ)は大分震えてるぞ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

それは、ホントに不可抗力で。

樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。 「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」 その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。 恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。 まさにいま、開始のゴングが鳴った。 まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

処理中です...