135 / 150
スマイル40
世界一の女・2
しおりを挟む無駄にだだっ広いリビングダイニングに行くと、既に両親は揃って俺達を待っていた。
「王雅。わざわざ私達を呼び出して、話って何なの? 次のスケジュールがあるから、手短にして頂戴」
オフクロから話について聞いてきた。
相変わらず隙の無い身のこなし。俺とよく似た切れ長の目の上に引かれた、紫のアイシャドウにワインレッド色の口紅。きっちりアップにまとめた長く黒い髪は、何時見ても同じだ。
流石はデザイナーだと思うが、家でオフクロの崩れた姿を、俺は一度も見たことが無い。
久々に会うっつーのに、挨拶もなけりゃ、お帰りも言ってもらえない。
ま、そんな事を言ってもらった事、今まで一度もねーけどな。別に今更言って欲しくもねーし。
オフクロは俺の隣にいる美羽に気づいているクセに、その女性は誰かと聞いてもこない。
やっぱ、美羽やマサキ施設とは違う。
俺がどんなに功績を残しても、どんなに仕事で大成しても、この二人から褒められた事も、ねぎらわれた事も、叱られた事さえ一度も無い。俺に関心が無いんだ。
美羽は、未来プロジェクトの事を立派だって褒めてくれた。
大変な事を一人で背負って頑張る王雅は凄いねって、抱きしめてくれたんだ。
美羽がくれる言葉は、今まで何もなかった無機質で冷たい俺の心を、いつも温かく包んでくれるんだ。
そんな彼女を大切にしたいって、心から思う。
「俺、この女性と結婚しようと思うんだ。彼女は、真崎美羽さん。施設経営をしてる、一般の女性だけど」
オフクロが美羽を一瞥した。「そう。話はそれだけ?」
オヤジに至っては、一言も無い。
「いや、話はそれだけって・・・・俺、この人と結婚するけど、いいのかよ?」
「貴方が自分で決めたのでしょう。好きになさい。そんなつまらないことで、いちいち呼び出さないで。私達、忙しいの。王雅も、もういい大人なのだから、解るでしょう?」
何だコイツ等。マジで俺に興味ねーっつーか、俺はどーでもいー存在なんだな。
結婚に反対もしなけりゃ、賛成もしないってか。
俺って一体、何なんだろう。
一人息子が結婚するんだぜ? つまんない用事か?
お前等と家族になる女、目の前に連れてきてんだけど。
それとも、俺は家族じゃないのか?
一応、実子的な立ち位置だし、櫻井グループとか、どーすんだよ。
俺に継がせる気ねーのか?
別にいーけどさ。
なんかもう今の一言で、櫻井家が自分の中で本当にどうでもよくなった。
「お忙しい中、お時間を取って頂きありがとうございます。私、真崎美羽と申します。両親は他界しており、貧乏な上に血筋も誇れるものではありませんが、どうか、王雅さんとの結婚を許して頂きたく、お願いに上がりました。これ、つまらないものですけれど、受け取って頂けないでしょうか」
来る途中で買った手土産をオヤジの方に差し出しながら、美羽が頭を下げた。
「もういい、美羽。頭なんか下げなくても。今の聞いただろ? コイツ等は俺の事についてはずっとこんな調子だ。今に始まった事じゃない。昔から俺の事なんて、どーでもいーんだ。誰と結婚しようが、何しようが、二人には何の関係もねーし、不祥事起こさず、不利益な事さえしなきゃ、別に構わねーんだ。とりあえず報告はしたんだ。もう行こうぜ」
俺の言葉に、両親も立ち上がろうとしたその時――
0
お気に入りに追加
202
あなたにおすすめの小説

それは、ホントに不可抗力で。
樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。
「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」
その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。
恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。
まさにいま、開始のゴングが鳴った。
まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。

ワケあり上司とヒミツの共有
咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。
でも、社内で有名な津田部長。
ハンサム&クールな出で立ちが、
女子社員のハートを鷲掴みにしている。
接点なんて、何もない。
社内の廊下で、2、3度すれ違った位。
だから、
私が津田部長のヒミツを知ったのは、
偶然。
社内の誰も気が付いていないヒミツを
私は知ってしまった。
「どどど、どうしよう……!!」
私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる