コロッケスマイル

さぶれ@6作コミカライズ配信・原作家

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スマイル36

決戦の時・2

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「櫻井さん、お帰りなさい! よくお戻りになりましたね!」


 俺を迎えにきてくれた横山が、空港に現れた俺の姿を見つけて駆け寄ってくれた。
 俺の計画を話した時、帰国後のアシになってくれると、迎えを買って出てくれたんだ。
 櫻井家の人間や車を手配するより、力になれるだろうからって。

「横山さん、こんな朝早くからすみません。でも花井は絶対、開庁同時の朝八時半には役所に行って、手続きをすませようとするでしょう。その直前が、チャンスなんです」

「それは櫻井さんから、もう何度も聞きました。気にしないでください。私は櫻井さんに命も工場も救ってもらったんです。どんな事でもお手伝いすると、貴方が出発前にも言ったはずです。それに、美羽ちゃんが絡んでいるなら尚更だ」

「そうでしたね。じゃあ、早速お願いします。花井が行動を開始した直後に、施設に乗り込みます」

 横山は自分の車ではなく、レンタカーで迎えに来てくれていた。
 花井に見られても大丈夫なように、色々考えて手配してくれている。
 彼を信頼し、希望を託して良かったと思う。俺一人だけじゃ、正直美羽を取り戻すことはできなかっただろう。
 人と人との繋がりに、こんなに感謝した事はない。


 俺は今回の件で、色々な大切な事に気が付けたと思う。
 無事に美羽を取り戻せたその時は、俺を助けてくれた全ての人間に感謝し、精一杯尽力してそれを返せるようにしたいと思う。
 横山は空港から施設近辺まで運転してくれて、近くのパーキングにレンタカーを止め、セントラル商店街の方へ行くように俺に言って来た。ついてきて欲しいと言う事なので彼についていくと、ヒラメオヤジの店の前に着いた。
 現在早朝の六時だ。勿論店はまだ開いていない。

「横山さん、ヒラメ・・・・じゃなかった、魚屋になんの用事があるんです? 一体これは?」

「色々考えたんですけどね。平岡さんに相談したら、是非家を使ってくれって言ってくれましたから。櫻井さんと早朝にお邪魔することは既に話をしています。さあ、行きましょう」

 ヒラメオヤジは、どうやら平岡という名前らしい。名字、平目に改名したらいいのにな、とかどうでもいい事を思ってしまった。

 横山は店のシャッターの横の勝手口に付けられた呼び鈴を押した。ピンポーンとチャイムが中で響いているのが、外からでも聞こえた。
 よく見ると勝手口と思われた小さなドアの横に、平岡という表札と赤い郵便受けが取り付けられていた。

「施設に乗り込むには、近くの喫茶店や車内で待つよりも、近くの個人宅の方がいいと思いましてね。これなら絶対、花井君には見つからないでしょうから。それで、平岡さんに相談を」

「横山さん・・・・」

 驚いた。本当に色々考えてくれているんだな。

「はいはーい」

 ヒラメオヤジ――平岡が中から出てきてくれた。
 
「王雅君、待っていたよ。さあさあ、どうぞどうぞ。狭いところだけど、上がって」

 平岡が笑うと、ただでさえ細い目が無くなる。魚のヒラメによく似た顔の笑顔を湛え、自宅へ案内してくれた。
 彼の家は一階が魚屋、二階・三階が自宅になっていた。三階の一室が物置部屋になっているらしく、そこを貸してくれた。四畳半程のスペースで物が色々置いてあるから狭いところだったが、十分な拠点スペースだった。
 折り畳み式の机を用意して貰って、俺は早速ノートパソコンで花井の株取引の動向をチェックした。

 何度も念入りに調査を行い、しつこいくらいに確認した。抜かりはない。

 更に、花井が施設付近に現れたら警報が鳴るようにセットした。警報は勿論まだ鳴っていない。
 恐らく花井が施設に現れるのは、午前七時半前後だと睨んでいる。準備の時間はまだ十分にあった。


 最終の証券取引のチェックも行った。
 俺の仕掛けた株価は上昇したままだ。真秀や他の協力者にも頼んで、更に買いの手続きを今も進めている。
 有名なトレーダーにも協力してもらい、偽のトレーダーもふんだんに用意して、花井を追いつめる為の準備を行っている。



 現在、花井から売りの気配は無い。


 
 
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