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スマイル36
決戦の時・1
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聞きなれた機械音が鳴った後、日本へ向けて飛び立つというアナウンスが機内に流れた。
アメリカでの仕事も無事に終え、花井を潰す準備を整え、俺は今、日本へ向かう機内の中だ。
この二か月近く、毎日血を吐く思いで過ごしてきた。実際に吐いた日もある。
ようやくなんだ。
長かった。
真秀から逐一連絡を貰っていたが、美羽が花井に怯えて泣いていると思うだけで、また、花井が美羽に近づいて触れたり壊したりしないか、心配で仕方なかった。
入籍までは一切手を出さないで――美羽が花井に条件を出したと、真秀から聞いた。
美羽は俺との約束を守ってくれたようだ。どんな理由をつけたか知らねーけど、花井のヤツも入籍以降は美羽を好きにできる事は解っているから、入籍までの少しの間、ゴネるくらい構わないとでも思ってるんだろう。
だから入籍日――クリスマスがタイムリミットっつーワケだ。
入籍したら花井は間違いなく美羽を・・・・嫌がる彼女が引き裂かれる姿を想像すると、マジで気が狂いそうだった。
そんな中でのプロジェクト遂行、花井を潰す計画の実施は、精神的に非常に堪えた。
でもこれを乗り切らなきゃ、美羽を取り返したりできねーんだと思って、気持ちを奮い立たせた。
どんな作業する時でも、何時でも見れるよう、またこの気持ちを忘れたりしないよう、お菓子の家でガキ共や美羽と一緒に撮影したものを、パソコンのデスクトップの壁紙に設定した。
これを見る度に現状が余計に辛く感じたが、この幸せを絶対に取り返すんだ、と、毎日呪文のように繰り返して、アメリカでの日々を送った。
それでも辛い時は、とっておきのDVDを見た。ライタの為のヒーローショーや、俺の為に美羽とガキ共が開いてくれたパーティー。
幸せな過去に浸ると、覚めた時に辛くなる。でも、見ずにはいられなかった。
はっきり言って、地獄だった。
そんな地獄の日々をようやく終える為に、日本へ帰る。
俺が今できることは、全てやり遂げたと思う。
あとは勝利の女神が俺に微笑みかけてくれることを、祈るだけだ。
機内のリクライニングシートを倒し、目を閉じた。
あの日、日本を発つ前にやり取りした横山との会話を思い出した。
それが花井を追い詰める為の、最後の切り札になるとはな。
言っとくがこれは、俺が殺人を犯す切り札ではねーぞ。
まあこれは、できれば使いたくねーけど。
苦痛の別離からあれからそう時間は流れていないハズなのに、何年も経ったような気がする。
もう少しで花井の息の根を止める事ができるのかと思うと、神経が高ぶってとても眠れそうにない。
抜かりはないか。
手配は完璧か。
あと数時間で何もかもが本当に終わるのか。
チャンスは一度切り。絶対上手く行かせる。
花井の神経が美羽に向く時、入籍を進めようと、俺が周到に用意した証券を気にしなくなる瞬間のその時が、お前の最後だ――
日本へのフライトは、ニューヨークから十三時間程あるにも関わらず、あっという間だった。
花井の事をずっと考えていたからだろうか、最終調整を行っていたからだろうか、時間が経つのが早かった。
日本に降り立ち、遂に帰って来たのか、と、胸が高鳴った。
美羽を本当に取り戻すことができるのかどうか、不安だけれどやるしかない。
スマホを取り出し、連絡を入れる。
首尾は上々。上手くやってくれると、返事を貰った。
本当にいよいよなんだ。ああ、不安だ。俺の一番大切なものを取り上げられているワケだからな。
何を弱気になってるんだ。ここまで来て、怖気づくな!
死ぬ気で取り返せ!!
何度も死にそうな思いをして、今日まで過ごしてやってきたんだろ!
寒いクリスマスの明け方の時間なのに、手のひらにじんわりと汗をかいた。
緊張しているんだ。
でも、これを乗り切って美羽を、ガキ共を、俺の居場所を取り戻すんだ!!
アメリカでの仕事も無事に終え、花井を潰す準備を整え、俺は今、日本へ向かう機内の中だ。
この二か月近く、毎日血を吐く思いで過ごしてきた。実際に吐いた日もある。
ようやくなんだ。
長かった。
真秀から逐一連絡を貰っていたが、美羽が花井に怯えて泣いていると思うだけで、また、花井が美羽に近づいて触れたり壊したりしないか、心配で仕方なかった。
入籍までは一切手を出さないで――美羽が花井に条件を出したと、真秀から聞いた。
美羽は俺との約束を守ってくれたようだ。どんな理由をつけたか知らねーけど、花井のヤツも入籍以降は美羽を好きにできる事は解っているから、入籍までの少しの間、ゴネるくらい構わないとでも思ってるんだろう。
だから入籍日――クリスマスがタイムリミットっつーワケだ。
入籍したら花井は間違いなく美羽を・・・・嫌がる彼女が引き裂かれる姿を想像すると、マジで気が狂いそうだった。
そんな中でのプロジェクト遂行、花井を潰す計画の実施は、精神的に非常に堪えた。
でもこれを乗り切らなきゃ、美羽を取り返したりできねーんだと思って、気持ちを奮い立たせた。
どんな作業する時でも、何時でも見れるよう、またこの気持ちを忘れたりしないよう、お菓子の家でガキ共や美羽と一緒に撮影したものを、パソコンのデスクトップの壁紙に設定した。
これを見る度に現状が余計に辛く感じたが、この幸せを絶対に取り返すんだ、と、毎日呪文のように繰り返して、アメリカでの日々を送った。
それでも辛い時は、とっておきのDVDを見た。ライタの為のヒーローショーや、俺の為に美羽とガキ共が開いてくれたパーティー。
幸せな過去に浸ると、覚めた時に辛くなる。でも、見ずにはいられなかった。
はっきり言って、地獄だった。
そんな地獄の日々をようやく終える為に、日本へ帰る。
俺が今できることは、全てやり遂げたと思う。
あとは勝利の女神が俺に微笑みかけてくれることを、祈るだけだ。
機内のリクライニングシートを倒し、目を閉じた。
あの日、日本を発つ前にやり取りした横山との会話を思い出した。
それが花井を追い詰める為の、最後の切り札になるとはな。
言っとくがこれは、俺が殺人を犯す切り札ではねーぞ。
まあこれは、できれば使いたくねーけど。
苦痛の別離からあれからそう時間は流れていないハズなのに、何年も経ったような気がする。
もう少しで花井の息の根を止める事ができるのかと思うと、神経が高ぶってとても眠れそうにない。
抜かりはないか。
手配は完璧か。
あと数時間で何もかもが本当に終わるのか。
チャンスは一度切り。絶対上手く行かせる。
花井の神経が美羽に向く時、入籍を進めようと、俺が周到に用意した証券を気にしなくなる瞬間のその時が、お前の最後だ――
日本へのフライトは、ニューヨークから十三時間程あるにも関わらず、あっという間だった。
花井の事をずっと考えていたからだろうか、最終調整を行っていたからだろうか、時間が経つのが早かった。
日本に降り立ち、遂に帰って来たのか、と、胸が高鳴った。
美羽を本当に取り戻すことができるのかどうか、不安だけれどやるしかない。
スマホを取り出し、連絡を入れる。
首尾は上々。上手くやってくれると、返事を貰った。
本当にいよいよなんだ。ああ、不安だ。俺の一番大切なものを取り上げられているワケだからな。
何を弱気になってるんだ。ここまで来て、怖気づくな!
死ぬ気で取り返せ!!
何度も死にそうな思いをして、今日まで過ごしてやってきたんだろ!
寒いクリスマスの明け方の時間なのに、手のひらにじんわりと汗をかいた。
緊張しているんだ。
でも、これを乗り切って美羽を、ガキ共を、俺の居場所を取り戻すんだ!!
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