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スマイル35
本心・4
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その時突然、会社を守るために土下座をしてきた男達の姿が、脳裏に浮かんだ。
助けてください、お願いです――俺の足に縋りつく男の姿、幾度となくこの目で見てきた。
気に入らないヤツは虫けらのように踏みつぶし、容赦なく壊してきたこの俺が、その時の男達の気分をこんな局面で、自身が味わうなんてな。
こんな気持ちだったのか。
必死で、プライドや尊厳もかなぐり捨てて、どんなことをしてでも大切なものを守ろうとしていたんだ。
それを何の感情もなく蹴散らしてきた今までの俺は、本当に最低な男だったんだな。
やってきた過去は消せない。だから、これからは数多くの辛く苦しい思いをしている彼等を救うために、立ち上がろう。
この局面で大切な事に気が付けた事に、感謝しよう。
「王雅、顔上げてくれ。土下座なんかしなくていい。そんな事しなくても、何でも協力するつもりだ! 俺のせいでこんな事になってしまって言うのもおかしいけど、美羽ねーちゃんを苦しめたりしたくないんだ! どんなことでも協力して償う。何でもやらせてくれ。挽回させて欲しい!」
真剣な真秀の表情を見て、俺は信じる事にした。
もう、キノコと呼ぶのはやめる事にする。コイツも一人の大事な女を守ろうとした、ただの男だったんだ。
結果としてメチャクチャ切羽詰まった事態になっちまったが、こうなった以上は仕方ない。
あとはどう切り抜けるか、だ。
疑ってばかりじゃ、花井は潰せない。勿論、真秀が裏切ることも考えた上で計画は考えるが、出来る限り花井の動きは掴んでおきたい。なら、真秀はうってつけだ。このまま花井の傍に置いておくのが得策だと考えた。
動いてくれる人数は多けりゃ多い程いい。
特に真秀は、花井の懐に入り込んでいるんだ。尚更使いたい。
真秀を、信じよう。
でなきゃ、今閃いたこの計画は使えない。恐らくこれが一番、タイムリミットまでに花井を潰せる確実な方法だと思う。
それでも真秀が万が一俺を裏切った時は、地獄を見させてやるけどな。
SPを気づかれないように、真秀に張り付かせておこう。
念には念を、だ。容赦はしねーぞ。
真秀がおかしな動きをした時点でこの計画は破たんするだろうから、とっ捕まえて地獄へ送ってやる。
でも、もしそうなったら、俺は花井を殺すしか道が無くなるだろうな。
それしか、花井から美羽を守る方法がもう無いだろう。期限が決まってんだ。
美羽の戸籍を一瞬たりとも花井なんかの性にさせたくねーし、指一本触れさせたくねーんだ。
美羽が幸せに暮らしていけるなら、俺はどうなってもいい。腹も括った。
そうなった時の覚悟は、とっくに出来てる。
「頼むぞ。お前を信じるからな」
「任せてくれ」
「パソコンは出来るか?」
「割と得意な方だ」
「よし。証券取引とか、難しい事を頼むと思う。でも、取引に関する細かい指示は俺がするから心配ない。パソコンの基本的な操作ができりゃそれでいい」
それなら問題ない、と真秀が頷いた。賽は投げられた。
「そしたら、連絡専用の携帯と取引を行う為のパソコンをすぐ用意してお前に届けさせるから、これ以外の携帯で俺に連絡はしないように注意してくれ。諸々指示は別途パソコンの方にメールする。お前は花井側の立場でコトを進め、ヤツの動向をチェックして逐一報告してくれ。まさか俺がお前と繋がったりしてるとは、花井も思わねーだろ。でも、勘づかれたりしないでくれよ。アイツも相当頭はキレるからな。下手打ちゃ終わりだ。だから美羽に弁解したり、俺と繋がってるような事は絶対に言うなよ。施設に行ったらガキ共や美羽から冷たくあしらわれると思うが、そこは堪えて上手く立ち回ってくれ。この案件がカタついたら、誤解はちゃんと解いてやるから」
「解った。気をつける」
「美羽がどんなに苦しんでいても、絶対に手を貸したり、俺と繋がってお前が動いてるなんて事、言うなよ。花井に感づかれたら、マジで終わりだからな。美羽は結構解り易いから、アイツの変化を花井が見抜く可能性もある。俺が水面下で動いてる事を感づかれて入籍を早められたりしたら、それこそもう二度と美羽を取り返したりできねーから、慎重に頼む。ただ、美羽を一人で俺が戻るまで放っておくのも心配だから、これについてはサポートを他で手を打っておく。とにかく今まで通りにやってくれ。美羽に情を出す方が却って苦しい結果になること、忘れないでくれ」
「心得ておく」
まあ、この俺も欺かれていたくらいだ。真秀なら上手く立ち回ってくれるだろう。
助けてください、お願いです――俺の足に縋りつく男の姿、幾度となくこの目で見てきた。
気に入らないヤツは虫けらのように踏みつぶし、容赦なく壊してきたこの俺が、その時の男達の気分をこんな局面で、自身が味わうなんてな。
こんな気持ちだったのか。
必死で、プライドや尊厳もかなぐり捨てて、どんなことをしてでも大切なものを守ろうとしていたんだ。
それを何の感情もなく蹴散らしてきた今までの俺は、本当に最低な男だったんだな。
やってきた過去は消せない。だから、これからは数多くの辛く苦しい思いをしている彼等を救うために、立ち上がろう。
この局面で大切な事に気が付けた事に、感謝しよう。
「王雅、顔上げてくれ。土下座なんかしなくていい。そんな事しなくても、何でも協力するつもりだ! 俺のせいでこんな事になってしまって言うのもおかしいけど、美羽ねーちゃんを苦しめたりしたくないんだ! どんなことでも協力して償う。何でもやらせてくれ。挽回させて欲しい!」
真剣な真秀の表情を見て、俺は信じる事にした。
もう、キノコと呼ぶのはやめる事にする。コイツも一人の大事な女を守ろうとした、ただの男だったんだ。
結果としてメチャクチャ切羽詰まった事態になっちまったが、こうなった以上は仕方ない。
あとはどう切り抜けるか、だ。
疑ってばかりじゃ、花井は潰せない。勿論、真秀が裏切ることも考えた上で計画は考えるが、出来る限り花井の動きは掴んでおきたい。なら、真秀はうってつけだ。このまま花井の傍に置いておくのが得策だと考えた。
動いてくれる人数は多けりゃ多い程いい。
特に真秀は、花井の懐に入り込んでいるんだ。尚更使いたい。
真秀を、信じよう。
でなきゃ、今閃いたこの計画は使えない。恐らくこれが一番、タイムリミットまでに花井を潰せる確実な方法だと思う。
それでも真秀が万が一俺を裏切った時は、地獄を見させてやるけどな。
SPを気づかれないように、真秀に張り付かせておこう。
念には念を、だ。容赦はしねーぞ。
真秀がおかしな動きをした時点でこの計画は破たんするだろうから、とっ捕まえて地獄へ送ってやる。
でも、もしそうなったら、俺は花井を殺すしか道が無くなるだろうな。
それしか、花井から美羽を守る方法がもう無いだろう。期限が決まってんだ。
美羽の戸籍を一瞬たりとも花井なんかの性にさせたくねーし、指一本触れさせたくねーんだ。
美羽が幸せに暮らしていけるなら、俺はどうなってもいい。腹も括った。
そうなった時の覚悟は、とっくに出来てる。
「頼むぞ。お前を信じるからな」
「任せてくれ」
「パソコンは出来るか?」
「割と得意な方だ」
「よし。証券取引とか、難しい事を頼むと思う。でも、取引に関する細かい指示は俺がするから心配ない。パソコンの基本的な操作ができりゃそれでいい」
それなら問題ない、と真秀が頷いた。賽は投げられた。
「そしたら、連絡専用の携帯と取引を行う為のパソコンをすぐ用意してお前に届けさせるから、これ以外の携帯で俺に連絡はしないように注意してくれ。諸々指示は別途パソコンの方にメールする。お前は花井側の立場でコトを進め、ヤツの動向をチェックして逐一報告してくれ。まさか俺がお前と繋がったりしてるとは、花井も思わねーだろ。でも、勘づかれたりしないでくれよ。アイツも相当頭はキレるからな。下手打ちゃ終わりだ。だから美羽に弁解したり、俺と繋がってるような事は絶対に言うなよ。施設に行ったらガキ共や美羽から冷たくあしらわれると思うが、そこは堪えて上手く立ち回ってくれ。この案件がカタついたら、誤解はちゃんと解いてやるから」
「解った。気をつける」
「美羽がどんなに苦しんでいても、絶対に手を貸したり、俺と繋がってお前が動いてるなんて事、言うなよ。花井に感づかれたら、マジで終わりだからな。美羽は結構解り易いから、アイツの変化を花井が見抜く可能性もある。俺が水面下で動いてる事を感づかれて入籍を早められたりしたら、それこそもう二度と美羽を取り返したりできねーから、慎重に頼む。ただ、美羽を一人で俺が戻るまで放っておくのも心配だから、これについてはサポートを他で手を打っておく。とにかく今まで通りにやってくれ。美羽に情を出す方が却って苦しい結果になること、忘れないでくれ」
「心得ておく」
まあ、この俺も欺かれていたくらいだ。真秀なら上手く立ち回ってくれるだろう。
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