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本心・1

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 施設を出た。
 ボロ門を開けると、やかましい音を立てて門が開いた。
 この音も暫く聞けなくなるのか、淋しくなるな――などという感傷に浸る暇もなくしてくれたおかげで、俺の神経は花井を潰す事だけに集中していた。

 花井を潰す計画は、既に頭に描けつつある。但しこれを遂行するには、どうしてもある程度の時間と協力者が必要だ。
 入念な用意をする時間が足りないが、仕方ない。今から早急に手を打って、何とかクリスマスまでに間に合わせるしかない。これを失敗したら、終わりだ。

 とにかく今から至急連絡し、訳を話して協力して貰おう。
 この時間なら会えるだろう。とりあえず連絡して、アポ取ったら向かうか。


 車へ戻ろうと左へ向いた時、施設の塀に凭れてキノコが俺を待っているのが視界に入った。
 どんな事情があったかは知らねえが、昔世話になった美羽を売り飛ばすような真似をしたキノコは赦せねえ。


 ただ、これは全て俺の推測でしかない。
 盗みを働いたという確証も無いんだ。話は聞いておく必要があるな。


「真秀、話せるか。どういう事か説明しろ」

「そのつもりで待っていたんだ」

「ここじゃ何だろ。どうする?」

「俺の家、近いから来てくれ。真凛も今、出かけさせた。王雅と二人で話がしたい」

「解った。案内してくれ」
 話次第では、マジでキノコ殺傷事件になりかねないだろーが、恐らくコイツも相当追い詰められての結果だろう。盗みを働いた前提で俺は考えているが、予想は外れていないと思う。
 キノコも、花井に何か弱みでも握られてるに違いない。



 あの男は、そうやって人を追い詰め、動かすことにかけては天下一品だからな。



 商店街を抜け、密集した団地を横切って歩いていくと、二階建てのアパートが見えてきた。
『しあわせ壮』と、アパートの塀の横に木札で名前が書いてある。それにしてもボロいアパートだな。築年数何年だろう。かなり古そうだ。

 一階の、三号室と書かれた部屋に案内された。中に入ると、三畳くらいのスペースの手狭なキッチンから六畳くらいの部屋が見えた。その部屋の奥に、扉がついていた。もう一部屋あるのだろう。
 あまり物は置かれていなかった。


「王雅、こんな事になってしまって、本当に申し訳ない!」

 六畳の方の部屋に入るなり、キノコに土下座された。

「お前の土下座なんて何の価値もねーし、いらねーよ。とにかく説明しろ。話次第では、お前、覚悟しろよ?」

「全部話す」

 体制を整えて、キノコが話し出した。「今回の事は、俺一人でやった。真凛は関係ない。施設の権利書を盗んで、花井に渡したのは俺だ」

 読みは当たっていたようだ。

 
「花井にどんな風に脅されてんだよ?」

「・・・・本当に王雅は頭がキレるな。俺が権利書盗んだって言っても、顔色一つ変えないどころか、脅されてるって事情まで・・・・花井が嫌がるワケだ」

「ゴチャゴチャうるせーよ。こっちは時間がねーんだ。さっさと話せ。殺されてーのか!」

 俺の剣幕にキノコが少しひるんだ。

「ゴメン。実は、真凛が・・・・」

 キノコは顔を歪めて唇を噛みしめ、俯いた。
 しかし意を決して俺を見つめ、口を開いた。「乱暴されそうになった時や、俺が暴れた時の経緯を花井に入手されて、脅されてる」


 なかなかの切り札だな。どーやったかは知らねえが、花井はそれを何らかの方法で知り、キノコを脅して手下として使ったというワケか。
 どうせ金をふんだんに使って調べ上げたんだろう。

「真凛がそんな事に巻き込まれたのは、俺のせいなんだ」

 キノコが過去を話し始めた。

「俺達はマサキ施設を出てから、色んな所を転々としたんだ。高校生くらいの時、一番荒んでた。生活も酷くて、悪い事もいっぱいした。食い物が無く万引きして捕まった時だ。警察に突き出されるのを俺が嫌がった時、そのスーパーの店長だった男が、真凛を抱かせてくれたら警察に言わずに勘弁してやるって・・・・とりあえず俺を迎えに来た真凛を、目の前でそのまま乱暴に・・・・」

 言葉に詰まっている。
 辛い話だろうが、時間が無いから「それで?」と続きを促した。
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