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スマイル34
奪われた権利書・2
しおりを挟む美羽。お前はそうまでして、この施設を守るのか。
他の場所じゃダメなのか。
どうしても、ここじゃないといけないのか。
好きでもないあんな卑劣な男に屈して、身体を投げ出してまでも、お前は施設を守り通そうとするのか――
「んー、素直でよろしい。坊ちゃん、何もこんな貧乏施設に拘ることはありません。貴方ならもっと素敵な女性に出逢う機会が多いでしょう。坊ちゃんは然るべき場所で活躍なさればいい。美羽さんは、私が幸せにします」
最低のクズが不愉快な笑みを見せた。
俺は唇から血が出る程強く噛みしめ、この男を殺してしまいそうになる衝動を必死に抑えた。
堪えろ!!
こんなところで花井を殺したりしたら、美羽が命を懸けて守ろうとしている施設を、俺のせいで潰すことになるんだぞ!
今までにない冷たい感情が、俺の心を支配しようとしていた。
花井。俺は絶対にお前を赦さねえ!!
美羽を手に入れる為に様々な卑怯な手段を取り、キノコ兄妹も利用し、ガキ共を泣かせ、自由を奪い、彼女を苦しめるお前を。
身体が震えた。震える程の怒りに包まれたのは、生まれて初めてだ。
お前を容赦なく叩き潰し、死ぬよりも酷い目に遭わせ、地獄を見させてやる。
たとえ俺が破滅しようと、どうなろうと、お前という卑劣な男から美羽を守ってみせる。
アイツが心から笑ってガキ共と幸せに暮らして行けるなら、俺はどうなってもいい。
誰からも愛されなかった俺に、あったかい愛情をかけてくれた彼女達の幸せは、
絶対に、何があっても、俺が守ってみせる!!
「そうだったな。花井、お前の言う通りだ。美羽がなかなか俺のモンにならないからやっきになってたけど、俺らしくなかったと思う。あんな貧乏女、もうどーでもいーや。お前にくれてやるよ。ただ、これでも結構世話になったんだ。最後に話だけさせてくんねーかな。時間は取らせねえ。俺も色々予定が入ってて忙しいーんだ。もう帰るから」
俺がアメリカに発つことを解っていて、どーにも手出しできない事を知っていたから、今日この日をわざわざ選んで話をしてきたんだろ。
お前は、そういう根回しができる男だ。
まずは花井を安心させる必要があったから、心にもない言葉で嘘をつき、冷たく言い放った。
昔の俺が戻ってきたようだ。感情が無くて、冷たく目の光も消え、全てに投げやりで虚ろで、カラッポだった昔の俺。
以前の俺らしく振舞えば、花井も疑ったりしねーだろ。
昔の俺を知っているヤツから見れば、今の俺の方が、どちらかといえば嘘みたいなモンだから。
「流石坊ちゃん、話がわかる。まあ、挨拶もあるでしょうから、どうぞ」
了承を得たので、応接室を後にした。赦されるなら、キッチンから包丁を取り出してきて、花井をメっタ刺しにしてやりたい。
殺して処分できるなら、俺はどんな方法でも使ってやり遂げるのに。
応接室を出ると、俺を待っていてくれた美羽と目が合った。
誰にも邪魔されずに二人で話をしたかったから、美羽の腕を取り、彼女の仕事部屋の方に行って鍵を開けさせてそのまま中に入り、鍵を掛けて誰も入って来れないようにした。
「王雅・・・・ごめんなさい・・・・っ、貴方の権利書、花井に盗られてしまって・・・・名義も書き換えられてしまったの」
部屋に入るなり、美羽が謝ってきた。
「謝るな、美羽。俺がちゃんとしてやらなきゃいけなかったんだ。土地の権利書はお前の大切なモンなのに、ずさんなコトしてたから・・・・俺の方こそ、お前に辛い思いさせちまって、ごめん」
大きな瞳から涙を零す美羽を抱きしめた。
「なあ。どうしても、この施設じゃないとダメなのか? 他に移転とか、移築とか、考えられねーのか? お前がいいって言ってくれるなら、俺が何とでもしてやるぞ」
美羽は静かに首を振った。「・・・・ごめんなさい。この施設は私のおとうさんとおかあさんが、私の為に遺してくれた大切な宝物なの。絶対に、何があっても手放したりできない。この施設は、私の生きていく支えなのよ。だから花井の言う事を聞くしかないの。王雅を待ってるって、約束・・・・守れなくて・・・・ごめんなさいっ・・・・」
再び泣き出した美羽の唇を、そっと塞いだ。
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