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スマイル33
美羽のキモチ・5
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あれから月日が経った。もう、出発前日だ。
俺の為にやってくれたパーティーから、美羽やガキ共に逢えてない。淋しいが仕方ない。今後もっと淋しくなるだろう。
現状は辛くなったら、スマホに収めた『いってらっしゃい』と『お帰りなさい』の動画を見て凌いでいる。
ライタの誕生日パーティーや、俺の為にやってくれた行ってらっしゃいパーティーの動画は、アメリカで見ようと思って取ってある。ここに手を出すと、アメリカが乗り越えられない気がして、大事に置いてあるんだ。
プロジェクト自体は順調だ。アメリカでの交渉も上手く行くと思っている。っつーか、俺の手腕で行かせる。
準備を整えている最中だった。最終チェックを行っていたら、ジャケットの胸ポケットが震えた。俺のスマホが音を立てて振動している。
ディスプレイを見ると、マサキ施設からだった。
明日の見送りに来てくれるっつー時間の確認か、それともリョウ辺りが俺と話したいとでも思ってかけてきてくれたのかな――そう思いながら電話に出た。
「はい?」
『・・・・おう・・・・が・・・・ごめんなさっ・・・・明日・・・・行けなくなっちゃった・・・・』
美羽だった。声が酷く震えて、泣いているようだ。
「どーしたっ!? 何があった!?」
『もうっ・・・・貴方を・・・・待てなくな・・・・っちゃった・・・・』
「美羽っ、とりあえず施設に行く! 待ってろっ!!」
『ダメ・・・・』
「今すぐ行くからっ!!」
ただ事じゃない雰囲気と察したので、面倒な再着信等が無いようスマホの電源を落とし、自宅を飛び出して施設に向かった。
近くのパーキングに車を停め、施設へ急いだ。走るたびに耳につく砂利の音が、何時もはドキドキして施設が見えるのが嬉しくなるハズなのに、今はただ不安を掻き立てた。
施設に行くと灯りは点いていたが、門が閉まっていた。
何時もは俺が入れるように開けてくれているのに。
呼び鈴を押したが、応答は無かった。
「美羽っ、いるんだろ! 開けろっ、開けろ――っ!!」
近隣住民の迷惑なんか、考えている余裕なんか無かった。夢中で門をガチャガチャと大きな音を立てて揺らし、大声で美羽を呼んだ。
暫く続けていると、ガラガラと横開きの扉が開いて、泣きはらしたリカが飛び出してきた。
こっちにやって来て、俺を見るなり再び大きな目から涙を零した。
「リカ・・・・どーした? とりあえず、中に入れてくんねーかな?」
リカは無言で門を開け、俺を中に入れてくれた。すぐにまた門を閉め、俺を引っ張って玄関まで入ったところで、いやだよー、と俺に抱きついて泣き崩れた。
こんな状態では何があったか聞き出すことができないので、じっとリカが落ち着くまで抱きしめて背中を撫でてやろうと思った。しかし、いくら背中を撫でても、声をかけても、リカは泣き止まなかった。
どうしようかと思っていると、リカと同じように泣きはらした美羽が玄関に現れた。「リカちゃん・・・・王雅は入れちゃダメって言ったのに・・・・」
「どーいうコトだよ! 何があったんだ!? まさか・・・・ガキの誰かに何かあったのか!?」
美羽やリカがこれだけ取り乱して泣いてんだ。悪い予感が当たらなきゃいいのに、と、俺は神に必死に願った。
マサキ施設のガキの誰かに、もしものことがあったりしたら・・・・
――いいやっ! そんな事あるハズがない!!
俺も悲痛な顔を向けて、美羽の回答を待った。嫌な予感なんか、当たらないでくれ!!
「子供達は・・・・大丈夫よ。でも・・・・」そう言って、美羽は涙を零した。「ごめんなさい・・・・王雅・・・・・・・・」
「ごめんって・・・・どーしたんだよ。見送りくらい、都合が悪くなったんなら別に無くても構わねーからさ。そんなに・・・・泣くなよ」
見送りがダメになった程度でここまで泣いている訳ではない事くらい、美羽の様子を見れば解る。
リカもこんだけ泣いてんだ。
ただ、ガキ共の誰かに何かがあった訳じゃないっつーことについては、本当に安心した。
じゃあ一体、何が彼女をここまで追い詰め、泣かせているのだろう。
「お兄さんっ・・・・うわあああーん!! いやだよーっ!! もうお兄さんが帰ってきちゃダメなんて――っ!!」
玄関にやってきたリョウも俺を見て、火がついたように泣き出した。
一体、何が起こったんだ!?
俺が帰っちゃダメって・・・・ワケわかんねー!
「中に入って貰えよ」キノコが現れた。「玄関でゴチャゴチャやってても、しょうがないし。美羽ねーちゃん、この状況、王雅に説明しなきゃいけないだろ」
美羽は泣きはらした目でヤツを睨んだ。
「王雅、入れよ。オーナーが待ってるから」
「オーナー?」
「そっ。この施設の持ち主。新しいオーナーだ」
「施設の持ち主って・・・・土地は俺が持って・・・・」
まさか。
「その顔――流石、王雅は頭がキレるね。新しいオーナーが中で待ってる。特別に入ってもいいって。美羽ねーちゃんじゃ説明できそうにないから、新オーナーに詳しく説明聞いたらどうだ?」
そんなバカな。
「悪いな。こっちも切羽詰まった事情があったんだ」
キノコは俺を欺くための、カムフラージュだったのか――
俺の為にやってくれたパーティーから、美羽やガキ共に逢えてない。淋しいが仕方ない。今後もっと淋しくなるだろう。
現状は辛くなったら、スマホに収めた『いってらっしゃい』と『お帰りなさい』の動画を見て凌いでいる。
ライタの誕生日パーティーや、俺の為にやってくれた行ってらっしゃいパーティーの動画は、アメリカで見ようと思って取ってある。ここに手を出すと、アメリカが乗り越えられない気がして、大事に置いてあるんだ。
プロジェクト自体は順調だ。アメリカでの交渉も上手く行くと思っている。っつーか、俺の手腕で行かせる。
準備を整えている最中だった。最終チェックを行っていたら、ジャケットの胸ポケットが震えた。俺のスマホが音を立てて振動している。
ディスプレイを見ると、マサキ施設からだった。
明日の見送りに来てくれるっつー時間の確認か、それともリョウ辺りが俺と話したいとでも思ってかけてきてくれたのかな――そう思いながら電話に出た。
「はい?」
『・・・・おう・・・・が・・・・ごめんなさっ・・・・明日・・・・行けなくなっちゃった・・・・』
美羽だった。声が酷く震えて、泣いているようだ。
「どーしたっ!? 何があった!?」
『もうっ・・・・貴方を・・・・待てなくな・・・・っちゃった・・・・』
「美羽っ、とりあえず施設に行く! 待ってろっ!!」
『ダメ・・・・』
「今すぐ行くからっ!!」
ただ事じゃない雰囲気と察したので、面倒な再着信等が無いようスマホの電源を落とし、自宅を飛び出して施設に向かった。
近くのパーキングに車を停め、施設へ急いだ。走るたびに耳につく砂利の音が、何時もはドキドキして施設が見えるのが嬉しくなるハズなのに、今はただ不安を掻き立てた。
施設に行くと灯りは点いていたが、門が閉まっていた。
何時もは俺が入れるように開けてくれているのに。
呼び鈴を押したが、応答は無かった。
「美羽っ、いるんだろ! 開けろっ、開けろ――っ!!」
近隣住民の迷惑なんか、考えている余裕なんか無かった。夢中で門をガチャガチャと大きな音を立てて揺らし、大声で美羽を呼んだ。
暫く続けていると、ガラガラと横開きの扉が開いて、泣きはらしたリカが飛び出してきた。
こっちにやって来て、俺を見るなり再び大きな目から涙を零した。
「リカ・・・・どーした? とりあえず、中に入れてくんねーかな?」
リカは無言で門を開け、俺を中に入れてくれた。すぐにまた門を閉め、俺を引っ張って玄関まで入ったところで、いやだよー、と俺に抱きついて泣き崩れた。
こんな状態では何があったか聞き出すことができないので、じっとリカが落ち着くまで抱きしめて背中を撫でてやろうと思った。しかし、いくら背中を撫でても、声をかけても、リカは泣き止まなかった。
どうしようかと思っていると、リカと同じように泣きはらした美羽が玄関に現れた。「リカちゃん・・・・王雅は入れちゃダメって言ったのに・・・・」
「どーいうコトだよ! 何があったんだ!? まさか・・・・ガキの誰かに何かあったのか!?」
美羽やリカがこれだけ取り乱して泣いてんだ。悪い予感が当たらなきゃいいのに、と、俺は神に必死に願った。
マサキ施設のガキの誰かに、もしものことがあったりしたら・・・・
――いいやっ! そんな事あるハズがない!!
俺も悲痛な顔を向けて、美羽の回答を待った。嫌な予感なんか、当たらないでくれ!!
「子供達は・・・・大丈夫よ。でも・・・・」そう言って、美羽は涙を零した。「ごめんなさい・・・・王雅・・・・・・・・」
「ごめんって・・・・どーしたんだよ。見送りくらい、都合が悪くなったんなら別に無くても構わねーからさ。そんなに・・・・泣くなよ」
見送りがダメになった程度でここまで泣いている訳ではない事くらい、美羽の様子を見れば解る。
リカもこんだけ泣いてんだ。
ただ、ガキ共の誰かに何かがあった訳じゃないっつーことについては、本当に安心した。
じゃあ一体、何が彼女をここまで追い詰め、泣かせているのだろう。
「お兄さんっ・・・・うわあああーん!! いやだよーっ!! もうお兄さんが帰ってきちゃダメなんて――っ!!」
玄関にやってきたリョウも俺を見て、火がついたように泣き出した。
一体、何が起こったんだ!?
俺が帰っちゃダメって・・・・ワケわかんねー!
「中に入って貰えよ」キノコが現れた。「玄関でゴチャゴチャやってても、しょうがないし。美羽ねーちゃん、この状況、王雅に説明しなきゃいけないだろ」
美羽は泣きはらした目でヤツを睨んだ。
「王雅、入れよ。オーナーが待ってるから」
「オーナー?」
「そっ。この施設の持ち主。新しいオーナーだ」
「施設の持ち主って・・・・土地は俺が持って・・・・」
まさか。
「その顔――流石、王雅は頭がキレるね。新しいオーナーが中で待ってる。特別に入ってもいいって。美羽ねーちゃんじゃ説明できそうにないから、新オーナーに詳しく説明聞いたらどうだ?」
そんなバカな。
「悪いな。こっちも切羽詰まった事情があったんだ」
キノコは俺を欺くための、カムフラージュだったのか――
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