コロッケスマイル

スマイル２９

双子の兄妹・４

　まずいな。どうやって手を打ったらいーんだ。
　この調子じゃキノコのヤツ、施設に頻繁に出入りしてきそうな気がする。
　キノコが施設に来たら、俺のスマホが鳴るように、後でセットしておこう。

　あ、いや、待て。そんなことしたら、キノコが施設に来る度に、俺は平日、仕事を中断して、施設に来なきゃいけなくならねーか？
　キノコじゃSPは使えねーからな。SPを、キノコが来るその都度施設に向かわたりしたら、美羽に怒られそーだ。
　だからもし、プロジェクトの会議中とかにキノコが施設に来たっていう事実がこのアラームで判明したら、俺、気が気じゃなくなって、多分プロジェクト（仕事）失敗すると思う。


　キノコをスマホにターゲットセットするのは、やめておいた方がいいな。


　でも、何時、美羽を狙ってやって来るかわかんねーからな。用心しなきゃいけねーのは確かだ。
　どっちにしろ気が気じゃねえけど、知ってしまう方が仕事に差し障りがある。
　平穏無事を、神に祈るしかない。俺はまた、神に頼む願い事が増えてしまった。


「とああーっ！」


　遊戯室の隅で小さな幼児用の椅子に腰かけ、どんよりしていた俺の頭に、ポコン、と間抜けな音を立てて、広告紙を利用して作った、紙の剣先というか棒状の先が命中した。
　こんな事をしてくるのは、ライタだ。
　

「宇宙怪獣・王雅にぃをやっつけたぞ！」


　ライタは、ウルトライダーQの主人公キュウが何時も見せる、両手を上げて円を描き、ファイティングポーズでカッコよく魅せる、決めポーズを取っている。
　満面の笑顔で、得意気になっているライタ。カワイイ。

　はあぁぁぁ。
　お前と楽しく遊びたいのに、キノコの動向が気になって仕方ねーんだよ。
　美羽と二人きりじゃないにしても、さっきみたいに美羽を抱きしめるかもしんねーだろ。
　イカン。美羽と同じ空間にキノコが居ると考えただけで、俺はどうにかなりそうだ。


　胸が苦しい。どうしよう。突然の強敵登場で、俺の落ち込みぶり、ハンパ無い。
　重苦しいこの気持ちの、持っていく場所がねえ。

　ウルトライダーQが、キノコ怪獣を成敗して、山に追い返してくれないかな、とか、バカみたいな事、マジで考えちまう。
　困った男程度だったら、総力挙げて俺が追い返してやるのに。
　二度と施設に近づけないように、俺が何とでもしてやるのに。

　でも、キノコは違う。
　美羽が幼い頃から知っている、関係者的存在なんだ。そんな男を、施設と関わらせないようにすることは不可能だ。
　仮に俺の権力でそんな事をすれば、俺の好感度がたちまち下がる。

　それはマズい。だから、できない。八方塞がりだ。
　キノコは幼い美羽の事を知っていて、更に美羽と結婚の約束まで取り付けてある――考えただけで目の前が暗くなって、この世の終わりかと思うような、悲惨な気持ちになる。


　どーしてそんな男が、急に現れたりするんだ。何の陰謀だ。


　そんなの、聞いてない。お前等読者も、こんな男が登場するなんて、聞いてねーだろ。予想してなかったと思う。
　このままダラダラ、それなりに楽しめる話が続いて、適当な所で美羽と俺が結ばれ、エンディングを迎える――そんな風に予想していたハズだ！

　だから、それでいーんだ！　俺はそれでいいっ!!
　平穏な話に、波風立たせる必要は無いんだ。
　こんなライバル男をわざわざ登場させなくても、この話は十分、俺様の活躍だけで楽しめるからいいんだぁ――っ!!


　だってな、今、俺と美羽は、メチャクチャいーかんじで、男女関係になるべく、歩みを進めているところなんだ。
　もう、それはまさにカメの歩みだけどさ。美羽が鈍感過ぎて、お前等もヤキモキする程、メチャクチャトロイ進み具合だけどさ。


　キノコ風情が、急に現れて横やり入れてくんなよ、って思うだろ？


　カメみたいな歩みじゃなく、特急列車とかに乗ってさっさとゴール（結婚）できりゃ、俺もこんな苦労しねーんだよ！