コロッケスマイル

さぶれ@6作コミカライズ配信・原作家

文字の大きさ
上 下
64 / 150
スマイル27

涙・3

しおりを挟む
 俺は全員を家まで運べるように、大型のリムジンバスを用意させ、自宅まで急いだ。

 ガキ共は、チイとの悲しい別れがあると分かっていながらも、初めて乗るリムジンバスに乗れたことで遠足気分が抜けないらしく、キャアキャア言っていた。
 それを見て、俺もドン底まで落ち込まずに済んだ。やっぱり、喜びだけじゃなく、痛みも苦しみも、みんなで分かち合う方がいいんだな。喜びは倍に、苦しみは半減するんだと判った。


 ガキ共や美羽は、俺の家に初めて来るから、門の所から家までの距離を車で走らないと辿り着けないという事に興奮し、更に広大な敷地に大きく建てられた城のような家を見て、全員口を開けて驚いていた。
 今度かくれんぼして遊びたいってリョウが言い出したから、オーケーしてやったら喜んでたけど、俺の家でかくれんぼなんかしたら、多分、ガキ共を見つけることは困難だと思う。俺が鬼になることになると思うが、この俺でも、下手すりゃ誰も探し当てられないような気がする。ゲストルームも含めて、部屋数がハンパねえからな。

 それから、庭にある大きなプールでも泳ぎたいって言うから、それもオーケーしたら喜んでくれた。

 ま、俺の住んでいる家は、そんくらい広い家だ。でも、俺はこの広寒い家が嫌いだ。施設の方が落ち着いて良い。手を伸ばせば、すぐ傍にあったかいお前達が居るからな。
 それに、俺の事を何時でも待っていて受け入れてくれる――それが凄く、嬉しいんだ。


 あったかいお前達が居ない、寒くて凍えそうなこの家を、俺は早く脱出したいんだ。


 自宅横に併設している自家用機専用の敷地に案内して、用意させていたヘリに佳奈美とチイを乗せる準備をした。
 用意した近辺ホテルまでSPが警護することは既に説明してある。だから俺も一緒に、ここでチイとお別れだ。
 ガキ共が思い思いの言葉を溢れる涙を拭うことなく、チイに伝えていた。



 元気でね、また会おうね、忘れないでね、大好きだよ、さようなら――



 俺の涙腺は既に限界だった。涙が溢れそうになるのを、必死で堪えるしかできなかった。
 美羽もチイを抱きしめて、また会う約束を交わしていた。
 彼女の瞳も、涙で濡れていた。
 
「おーたん」

 チイがちょこちょこ歩きで、俺の所へやって来た。

「チイ、元気でな。お前・・・・俺様のコト、忘れんじゃねーぞ」

「あーい」

 ぎゅっと、チイは自分の何倍もある俺の大きな身体を、小さな手いっぱいに抱きしめてくれた。
 普通、逆だろ。

「おーたん、ちゃーい!」チイが俺に向かって手を振った。

「バーカ。チイ、ちゃーいって、それ、何時も俺様に言ってくれる、いってらっしゃいだろーが・・・・」

 チイの一言で、遂に、涙腺が崩壊した。堪えていた涙が溢れた。
 俺は溢れる涙をそのままに、チイを抱きしめた。


 これで最後なんだな。チイ。本当に、もう終わりなんだな。マサキ施設から、お前が居なくなってしまうんだな。

 お前のちゃーい――いってらっしゃいが、もう聞けなくなっちまうんだな。

 俺の事慕って、くっついてきて、俺が帰る時には何時も大泣きして、そんなカワイイお前のコト、もう見れなくなってしまうんだな。
 この腕から離れてしまって、遠い所に行ってしまうんだな。


 本当はお前をドコにもやりたくないけど、そーいうワケにはいかねーもんな。


 だから、辛く苦しい別れを乗り切って、また、笑顔で会おうぜ、チイ。
 元気でな。
 佳奈美と幸せに暮らせよ。
 
「チイ、ほら、行けよ。佳奈美(ママ)が待ってんだろ。お前が困ったら、俺様が何時でも助けてやるからな」

 俺は、泣きながら精一杯の笑顔を見せた。涙が溢れてくるのは、もう、どーしよーもなかった。
 自分では、止めることが出来なかった。


「あーい」


 チイが手を振って、俺に笑顔を見せてくれた。
 何時もは、お前がここで大泣きするのに、今日は逆だな。
 お前と離れたくなくて、俺様の方が泣いちまうなんてな。


 チイ、ありがとう。
 お前が俺に教えてくれた大切なことは、絶対に、絶対に忘れないから。


 佳奈美と落ち着いて暮らせるようになったら、俺がお前に会いに行ってやるから。


 だけどな、お前が大きくなって、メチャクチャ美人になって、嫁に行くなんて事になっても、俺は絶対赦さねーからな。
 お前の結婚式なんて、絶対に出席してやんねーからな。


 佳奈美とチイがヘリに乗り込んだ。二人が大きく手を振った。
 俺達は定位置まで下がって、ヘリが上昇して見えなくなるまで手を振って、彼女たちを見送った。




 チイが居なくなってしまった淋しさだけが、全員の心に残った。



 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない

鈴宮(すずみや)
恋愛
 孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。  しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。  その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語

ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ…… リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。 ⭐︎2023.4.24完結⭐︎ ※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。  →2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...