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スマイル26
頼れる場所・4
しおりを挟む「そのまま寝かせとくか。布団敷いてやろう」
俺は適当に布団を一セット引っ張り出してそれを敷き、チイを遊戯室の隅に寝かせた。
ガックンに手厚く礼を言って、俺は応接室に向かいながら、さっきの出来事を反芻させた。それにしても、実の父親ってあんなおかしな行動を取るものなのか? サトルの親父と全然違うぞ。
訳ありっぽかったし、どういう事なんだろう。
ま、親父にも色々種類があるんだな。
事情も分からないから、深く考えない事にした。
応接室に行くと、中から話声が聞こえて来た。美羽は誰かに電話をしていたから、ノックをせずに中に入った。
「そうなんです。さっき・・・・ええ。間違いありません!」
切羽つまったような声で、美羽が誰かと話をしている。
「・・・・はい。すぐ? いえ、もう少し様子を見られた方が・・・・今来られても、まだ近くにいるかもしれないし・・・・」
何の事だろう。内容は良く解らなかった。
「わかりました。すぐ来ていただけるよう、準備だけはしておいてください。様子を見て、また連絡します。それでは、失礼します」
美羽はそう言って、受話器を置いた。
「おい」
俺が声をかけると、美羽が驚いて肩をすくめた。振り返って俺だと確かめると、ほっと安堵の息を吐いた。
「脅かさないでよ」
「悪いな。電話中だったから声をかけずに入ったんだ。脅かそうと思ったワケじゃねーんだ」
「ううん、いいの。それより・・・・チイちゃんは?」
「ああ、布団収納のトコに隠しておいたんだ。寝ちまったから、布団敷いて遊戯室に寝かせて来た」
あまり上手く隠せていなかったことは、ガックンの名誉のために黙っておくことにした。
今後気を付ければいいんだ。何も無かったワケだし、わざわざ言う必要はないだろう。
「そう、ありがとう」
そう言って、美羽は珍しく大きなため息を吐いた。
「どうしたんだよ。さっきの男、やっぱり本当の、本物のチイの親父なのか?」
「そうよ。何度も写真見て顔を覚えておいたから、間違いないわ。会うのは初めてだけど」
「写真? どういう事だ?」
やっぱ、色々訳アリなんだな。そういや、チイの親父は問題アリだっつーことを、美羽が言ってたもんな。
「ごめんなさい、まだ色々説明してなかったわね――」そう言って、美羽が今までの経緯を話し始めた。
「チイちゃんのお母さんは、さっきの男――チイちゃんのお父さんから、酷いDVと監禁みたいな生活を強要されてて、ここに逃げて来たの。みんな彼の見た目に騙されて、人当たりも良いから、全然信用して貰えなくて、お母さん、ここに来た時本当に憔悴してたの。だから、お母さんと一緒に落ち着ける先が見つかるまで、チイちゃんだけをマサキ施設で預かっているんだけど・・・・お父さんは、もうここにチイちゃんがいるって事、どうにかして嗅ぎつけたのよ。今電話してたのは、チイちゃんのお母さんよ。この事を話したら、すぐ施設に来るって言ったけど、危ないからめどが立つまでもう少し様子を見ましょうって言ったの。グズグズしてたら、チイちゃんを取り返されて、お母さんも家に連れ戻されちゃうわ。そうなったらきっと、凄く酷い目に遭うと思う。だから、早く別の施設に移れるように手配しないといけないんだけど、でも・・・・私の所みたいにすぐ対応して受け入れてくれるような施設って、殆ど無いのよ。どうしよう・・・・」
美羽はほとほと困った顔で、広げていた他の施設の一覧名簿に顔を落とした。
帳面には、色々な書き込みがしてある。きっと、今までにもこう言う事があった時、相談できる先のリストとして置いているのだろうと察した。
その美羽が、相談できる先が無く、難しいと言っているんだ。
今すぐに対応できるような所は、彼女が言う通り、無いんだろうな。
施設っつーのは、色々手続きや受け入れ先の空き状況等、条件も揃わないと難しいんだと思う。
でも、美羽はきっと違う。
もし困った人間がこの施設の門を叩いた時、絶対に、どんな事があっても受け入れられるように、その門を開けているんだろうな、と思った。
だったら俺も、お前が困った時に力を貸してやれる、頼れる場所になってやろーじゃねーか。
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