上 下
53 / 150
スマイル25

週末のビジネスマン・4

しおりを挟む
 美羽の提案通り、ガックンとリカに挟まれて、美羽が作ってくれた飯を食った。
 相変わらず美味い飯だ。何食っても美味い。予想通り、ちゃんと俺の分も用意してくれていたしな。


 なあ、これってさ、もう俺等夫婦みたいじゃねーの?


 俺、ずっとここに帰って来ても、いーんじゃねーの?


 大人だけど、ここに居るガキ共と同じで、淋しい子供なんだ、俺。それじゃダメかな。施設に住まわせてくんねーかな。
 
 今日、思い切って話つけてやろうかな。

 結婚しようって言って、同意取って、今日から俺も、ここに住むんだ。
 そんでもって夜は――お泊り保育のリベンジだ!!
 初夜到来だっ!

 やり遂げろ、櫻井王雅!
 このミッションは、絶対に成功させるんだ!!

 でもっ、もしまだ俺の事信じてなくて、前みたいに断られたら――今みたいに、気軽に施設出入りできなくなるかもしんねーな。


 そーなったら、メチャクチャ気まずくなるだろーな。


 それはイヤだ。
 そう考えると、怖い。
 もの凄く怖い。


 俺様ともあろうものが、今、もの凄く恐怖を感じている。
 怖いと思って怖気づいたことなんて、今まで一度だってねーのに。


 ただ、今すぐ俺が美羽に話しつけると、どっちにしろこの小説は終わるな。
 ハッピーエンドで終わるか、バッドエンドで終わるか、どっちかわかんねーけど。

 美羽が俺と結婚してもいいっつったら、じゃあ今日から施設で幸せに暮らします、めでたしめでたし――で終わり。
 ダメだって言われたら、俺は路頭に迷って、ストーカーになったりして、今後の人生、想像も絶するような悲惨な運命を辿りました――で終わり。


 俺様の活躍も、ここまでというわけか。


 それも困るな。
 話つけるのは、ちょっと延期だ。今は無理だな。
 もっと俺が素晴らしい活躍をして、世界一の本物の男になって、美羽だけじゃなくて、読者のお前等が、死ぬほど俺の事を好きになってからにしよう。

 えっ、もう惚れてる?

 フッ、ありがとよ。

 でも、もっともっと惚れさせてやるから、まあ見てろ。



 って、そうじゃなくて。



 美羽から同意を取るって話だ。今日話つけるのは、やっぱまだ時期尚早な気がする。成功確率百パーセントではないからな。むしろ成功率のパーセンテージ、かなり低いだろ。
 ビジネスなら、絶対にそんな危ない案件、俺なら手を出さない。

 もう少し施設通いして、親密度を上げて、信頼してもらえるように努力して、アイツが俺の事好きオーラを出し始めたら、もう一回結婚の話をすることにしよう。
 俺のアンテナでは、まだ美羽からのそーいったオーラ、一切関知できねえからな。
 今は多分、俺が淋しい男だから、ガキ共と同じように受け入れて接してくれてるだけなんだろーな。

 男としてじゃなく、子供みたいに思われてるんだろーな。きっと。
 道のりは長そうだ。
 今日、干からびた身体と、ようやくおさらばできると思ったけど、難しそうだな。
 でも、早くしないと俺の身体、干物になっちまうぞ?

 いつまでこの状態でいればいいんだろう。それだけでも、美羽に聞けたらいーのにな。

 手を出さないように我慢すんの、結構辛いんだぜ。男じゃねーと、この辛さはわかんねーだろ。

 この際、他の女で潤い成分だけ、何とかできりゃいーけどな。
 でも、俺、多分他の女ではもう出来ないと思う。
 前に接待でクラブ行って、リョウコが傍に来た時、何の魅力も感じ無かったんだ。あんなに美人でイイ女でも、ダメなんだ。そん時、ハッキリ解ったしな。美羽じゃなきゃって。

 リョウコだけじゃなくて他の女を見ても、何とも思わなくなってしまったし、性的魅力を感じない。

 もう、美羽しか欲しくないんだ。

 これも、一点集中型になっちまったんだな。いいのか悪いのか・・・・エロ魔神の俺様ともあろうものが、こんなにモヤモヤくすぶるなんて、どーかしてる。前代未聞だぜ、全く。




 というワケで悲しいかな、俺の身体の日照りはまだまだ続きそうだ――




 朝食を終え、片付けを手伝い、今日も買い出しに行こうかと思ったが、先週大量に必要なものを買ったから、そんな大した量の買い物は無いらしく、今日は少しの切れた調味料を、美羽一人だけで買いに行くことになった。
 こんな少しの買い物に行くのに、ガキ共の面倒を見ながら留守番してくれる方が助かるとのことで、俺が残ることになった。

 商店街のデートは二人きりになれるから、結構楽しみにしてたのにな。

 まっ、また来週だってあるんだ。今日だけが全てじゃねえ。それより、嫌な顔せずいう通り引き受けた方が、好感度が上がるんだ。俺は極上の微笑みで、気にせず買い出し行って来いよ、っつってやったんだ。
 そしたら美羽のヤツ、ありがとう、すごく助かる、って喜んでたしな。今日のコロッケスマイルは見れたワケだ。


 俺は、施設に来たら、一日一回はコロッケスマイルを見ようと思っている。


 でも、何かコレって、恋愛シュミレーションゲームみたいな感じだな。
 美羽を喜ばせて、コロッケスマイルを見る。そうしたら、ピロリロリン、と音楽が鳴って好感度が上がるんだ。
 俺はそんなゲームやったこと無いけど、何か、そんな感じがする。
 百コロッケスマイル貯めたら、クリア、みたいな?
 そう考えると、今、どれくらい貯まってんだろ。うーん、十個も無いだろうな。
 いや、美羽の場合、百コロッケスマイルじゃ無理だな。多分、もっと必要だな。超難易度が高い、一番攻略しにくいパターンの女だろう。
 だから手に入れた時、頑張った甲斐があったな、って思うんだ。


 でも、俺の場合、そんな遊びのゲームなんかじゃねーぞ。


 俺は自分のペースで、俺のやりたいように、お前との間合いを詰めていく。何時までも淋しい子供でいる訳にはいかねーんだ。俺は大人の男だからな。
 何時、どんな恐ろしいライバルが現れるか、わかんねーだろ。
 そんで、安心して近づいたら最後、同意取った上で、全部残らずお前のコト喰ってやるからな。覚悟しとけ。

 でも、それは顔に出しちゃお終いだから、俺は優しくて頼れる男を全面アピールすることにしようと思う。この作戦、いーだろ? 惚れるだろ?
 優しい男はモテるからな。でも、俺らしく振舞うぜ。
 だから美羽が俺様に惚れるのも、時間の問題だ。こうなったら、こっちのモンだ。


 見てろよ、美羽!

 週末のビジネスマンになって、お前を喰うのはもう、時間の問題だからなっ!!
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない

鈴宮(すずみや)
恋愛
 孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。  しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。  その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈 
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

処理中です...