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スマイル24
本当の自分・3
しおりを挟むお前が俺以外の誰かと――なんて、ほんの少し考えただけでも息苦しくなって、心が嫉妬で押し潰されそうになって、発狂しそうになるっ!!
美羽。他の男を、好きになったりしないでくれ。
俺以外の男に、その笑顔を見せたりしないでくれ。
俺を独りにしないでくれ。
離したくない。誰にもやりたくない。
お前が欲しい。
でもお前は全然、どうやっても手に入らないんだ。
買い占めておくこともできないし、今は、誰のものでもない。
だから、怖いんだ。俺以外のものになっちまったりしたら、どうしようかって。
だったら今ここで、無理矢理奪ってお前を壊してでも手に入れるか、それができないなら、黙って指を咥えて見ているか、二つに一つだ。
どっちもイヤだ。出来ない。
不安で、どうしようもなくて、
どす黒い嫉妬の感情で心が押し潰されて、
壊れそうだ――
「あっ、おーちゃんだぁー! おかえりー。早いねぇ。もうおしごと、おわりなのぉ?」
なかなか戻って来ない美羽を心配してか、食事を抜け出してきたアイリまでが、声を上げながら俺の傍にやって来てくれた。
俺が悲痛な顔で美羽を抱きしめている姿を見て、あっ、そっか、と手を打って、アイリはにっこり笑ってくれた。
「おーちゃん、昨日じぶんのおうちに帰ったから、おうちが寒くて、かなしかったのねっ! おーちゃんには、冷たいおうちトモダチの、アイリがいるよー。おーちゃん、寒かったけど、がんばったんだぁ。エライねぇっ! アイリも、みーちゃんと一緒に、おーちゃんのコト、あっためてあげる。もうだいじょうぶだよぉー」
アイリが手を伸ばしてくれた。
「アイリ――・・・・」
アイリのくれるあったかい言葉や優しい気持ちが、俺の黒く歪んで壊れそうな心を包んでくれた。
優しいな、アイリ。
ありがとう。
俺は美羽から離れて、アイリを抱きしめた。
「アイリ、お前、メチャクチャあったかいな」
アイリを抱きしめながら、ゆるく天然パーマのかかった、黒く柔らかい髪を撫でた。
本当に優しくて、あたたかい。
「ありがとう。アイリのおかげで、もう寒くなくなったぜ」
俺は笑った。
アイリのおかげで、嫉妬にまみれていたどうしようもなく歪んだ心が浄化されて、俺はまた、何時ものように笑う事ができた。
「よかったぁ。おーちゃんが寒くなったら、いつでもアイリがあっためてあげるよぉ」
お前、結婚やめるって俺の事フッた癖に、優しいじゃねーか。
いい女だな、アイリ。
大好きだ。
「そうよ、王雅。淋しいなら、いつでも施設に来ればいいわ。ここは貴方の、二つ目の新しい自分の家だとでも思えばいいのよ。私は、どこにも行かないし、いつでもここに居るから。遠慮しないで、いつでも帰って来てくれてかまわないのよ。子供達だって貴方を必要としてるんだし、何も不安に思う事なんて無いの。大丈夫、心配要らないわ。ホラ、それより食堂に行きましょ。あっ、大変! 王雅が朝御飯を食べる時間が無くなっちゃう!」
美羽が優しく笑って、俺の手を取って歩き出してくれた。
お前は、俺が不安に思ってる気持ちとか、淋しくて仕方ないって思ってる気持ちとか、色々、全部理解してくれてんだな。お見通しなんだな。
それでいて、それでも俺の事を面倒とか思わずに、受け入れてくれるんだな。
不安で、ありもしない醜い嫉妬で埋め尽くされそうだった俺の黒い心は、お前達の前にかかると、すぐ浄化されちまうんだな。
今はもう、穏やかな気持ちに戻ってる。
でも、知らなかった。
俺は、こんなに感情の起伏が激しかったんだな。
今までずっと、物事を冷めて見ていたから、自分の性格は何事にも動じることなく、非道で冷徹だと思っていたんだ。
こんなに熱くなって嫉妬に狂ったことも無かったし、不安で仕方なくなってしまった時、悪い事しか考えられずに、暴走してどーしようもなくなるんだって、初めて知った。
楽しみな事があったら眠れないし、淋しがり屋で嫉妬深いし、エラソーで王様だし、随分面倒くさい、子供みたいな性格なんだな、俺。
今までは、誰にも執着した事なかったから、嫉妬することも無かっただけなんだな。
美羽の事になると、どーにも我慢できなくて、歯止めが利かなくなる。
お前等と一緒に居ると、俺も知らなかった自分の一面が見えてくる。
それでも呆れず俺を受け入れて、一緒に居ようとしてくれるんだな。
スゲー嬉しい。
もう、不安になることない。
お前達が、ずっと変わらない愛情で、俺の傍に居てくれるって、信じる事にする。
ここは、お帰りって、俺を受け入れてくれる大切な場所だって、思う事にするから――
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