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スマイル22
お菓子の家・5
しおりを挟む「先生っ、お菓子の家だよーっ、すごいねーっ!」
「早くたべたーいっ」
「あ、待って、みんな。折角だから、写真撮りましょう。先生カメラ持ってくるね。お家、まだ食べちゃダメよ。みんな、わかった?」
「はーい!」ガキ共は、全員元気よく返事した。
「王雅っ、みんなの事、見張っといてね! 目を離したら、すぐ約束破っちゃうからっ」
美羽が走って遊戯室を出て行った。
アイツ、ガキ共の事も信用してねーんだな。
一体誰なら信用するんだよ。
でも、美羽の言った事は本当だった。
美羽が居なくなったらすぐ、隙を見てアイリがお菓子の家に手を伸ばしている。
「コラ、アイリ。美羽先生の言う事、ちゃんと聞かなきゃダメだろーが」
「はぁ~い」
「アイリが家を食っちまったら、写真に写る家が食べかけの家になるだろ?」
ポンポンと子供独特の柔らかい髪を撫で、アイリの手を取った。
アイリはちょっとたれ目が特徴で、ゆるい天然パーマがかかっている肩くらいまでの髪で、色は綺麗な黒、年齢は四歳。はっきり言っておてんばだ。手をつないでおかないと、また隙を見て家をかじりに行くだろう。
「美羽先生が戻ってくるまで、ちゃんと待ってよーぜ」
「ウン!」
アイリがにっこり笑った。その横を、チョコチョコとチイが歩いて行った。
「あっ、コラ、チイ! まだ食うなよっ」
家に突撃しようとしているチイを、空いている方の左手で拾い上げた。「ダメだろ、チイ。まだだっつーの」
「やー、おーたん、やあー」
チイは俺の腕の中でジタバタ暴れている。
「やーじゃないって。暴れたら落ちるだろーが」
「うぅ・・・・おーたん、きぁい」
涙目で、チイが俺の事をきぁい(きらい)って・・・・!
ウソだろっ、チイ!
昨日まで、俺の事ちゅきー(すき)って言ってたクセに!
あれはウソだったのかっ!?
なんつーヒドイ女なんだ、お前っっ。
そんな事言わないでくれよ。今、美羽の見込みがわかんねーんだ。美羽だけじゃなく、お前にまでフラれたら、俺、どーしたらいーんだよ!
涙目で俺を見ても、ダメだぞっ。それより、お前に傷つけられた俺の方が泣きたいぜ・・・・。
「おい、サトルっ。お前、家に触んじゃねーぞっ」
隙を見て手を伸ばしていたサトルに、足でけん制をかけた。両手が塞がってるからな。止めるものが足しかねーんだ。
サトルは肩をすくめて、へへへ、と笑っている。
そりゃ、早く食いたいよな。
美羽、写真なんてどーでもいーから、早く戻ってきてくれよ。
チイは相変わらずバタバタして、おーたんきぁい(きらい)を連発してるし、このままじゃ俺、チイにマジで嫌われちまうっ。
「ごめんね、おまたせっ!」
手いっぱい足いっぱいでガキ共を防いでると、息を切らせて美羽が戻ってきた。
三脚と小さなデジカメを手にしている。すぐ用意するから、と言って、三脚にデジカメをセットした。
その間に、美羽以外の全員がお菓子の家の前に並んで、写真が撮れるようにこちらも準備した。
「じゃ、みんなで写真撮るよーっ。はい、並んでニッコリスマイル! にこーっ」
「にこーっ」
何やら掛け声らしい。にこーって言ったら、全員が思い思いの笑顔をデジカメに向けている。
タイマーをセットし、慌てて俺の横にやって来た美羽が、脇をつついた。「ほら、王雅も笑顔っ」
「あ、ああ」
にこーってな。俺には向かねえっつーの。
不敵に笑うと何時もの端正な顔が整うから、これでいーや。格好もつくし。
デジカメのタイマーがチカチカ点灯している。そろそろシャッターが切れる合図だ。フラッシュが光ったらデジカメのシャッターが下りて、一枚写真が撮れた。
「何枚か連続で撮るから、みんなもっとカワイイ笑顔ね! ニッコリスマイル」
「にこーっ」
全員がにこーっとポーズを決めている。再びデジカメのタイマーがチカチカ点灯しだしたその時、美羽に脇をくすぐられた。
「ちょっ、美羽っ、くすぐってーだろっ、やめろって」
俺が堪えきれずに笑った瞬間、シャッターが切れた。
「あははっ、大成功! 楽しい写真なんだから、何時もの王様みたいにエラソーに恰好つけるより、こっちの方がずっといいわよ」
「お前な・・・・」
お返ししてやる。
再びデジカメのタイマーがチカチカし出したのを見て、俺は美羽の脇をくすぐってやった。
「きゃあっ、もうっ! 王雅、やめてよっ、あははっ」
「さっきのお返しだ、美羽」
「くすぐったぁい、もうっ」
美羽が笑った。満面のコロッケスマイルだ。
俺もつられて笑った。
スゲー楽しい瞬間が、絵が、写真に収められた。
こんな風に大勢で、楽しく笑って写真を撮ったこと、俺は一度も無かったんだ。
お前と一緒に居ると、楽しくて仕方ない。
愛情に飢えてた俺に、お前は沢山の愛を惜しみなく与えてくれて、優しく包んでくれるんだ。
冷たく乾いていた心に、お前達がくれる温もりが降り注ぎ、潤してくれるんだ。
こんなに、生きてて楽しいって、嬉しいって、心から笑ったの、本当に初めてなんだ。
ありがとう、美羽。
お前を好きになれて、本当に良かった。
何時かお前に、俺のキモチが届くといいな――
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