コロッケスマイル

さぶれ@6作コミカライズ配信・原作家

文字の大きさ
上 下
40 / 150
スマイル22

お菓子の家・5

しおりを挟む
 
「先生っ、お菓子の家だよーっ、すごいねーっ!」

「早くたべたーいっ」

「あ、待って、みんな。折角だから、写真撮りましょう。先生カメラ持ってくるね。お家、まだ食べちゃダメよ。みんな、わかった?」

「はーい!」ガキ共は、全員元気よく返事した。

「王雅っ、みんなの事、見張っといてね! 目を離したら、すぐ約束破っちゃうからっ」

 美羽が走って遊戯室を出て行った。
 アイツ、ガキ共の事も信用してねーんだな。
 一体誰なら信用するんだよ。


 でも、美羽の言った事は本当だった。
 美羽が居なくなったらすぐ、隙を見てアイリがお菓子の家に手を伸ばしている。

「コラ、アイリ。美羽先生の言う事、ちゃんと聞かなきゃダメだろーが」

「はぁ~い」

「アイリが家を食っちまったら、写真に写る家が食べかけの家になるだろ?」

 ポンポンと子供独特の柔らかい髪を撫で、アイリの手を取った。
 アイリはちょっとたれ目が特徴で、ゆるい天然パーマがかかっている肩くらいまでの髪で、色は綺麗な黒、年齢は四歳。はっきり言っておてんばだ。手をつないでおかないと、また隙を見て家をかじりに行くだろう。

「美羽先生が戻ってくるまで、ちゃんと待ってよーぜ」

「ウン!」

 アイリがにっこり笑った。その横を、チョコチョコとチイが歩いて行った。
 
「あっ、コラ、チイ! まだ食うなよっ」

 家に突撃しようとしているチイを、空いている方の左手で拾い上げた。「ダメだろ、チイ。まだだっつーの」

「やー、おーたん、やあー」

 チイは俺の腕の中でジタバタ暴れている。

「やーじゃないって。暴れたら落ちるだろーが」

「うぅ・・・・おーたん、きぁい」


 涙目で、チイが俺の事をきぁい(きらい)って・・・・!


 ウソだろっ、チイ!
 昨日まで、俺の事ちゅきー(すき)って言ってたクセに!
 あれはウソだったのかっ!?
 なんつーヒドイ女なんだ、お前っっ。
 そんな事言わないでくれよ。今、美羽の見込みがわかんねーんだ。美羽だけじゃなく、お前にまでフラれたら、俺、どーしたらいーんだよ!

 涙目で俺を見ても、ダメだぞっ。それより、お前に傷つけられた俺の方が泣きたいぜ・・・・。


「おい、サトルっ。お前、家に触んじゃねーぞっ」


 隙を見て手を伸ばしていたサトルに、足でけん制をかけた。両手が塞がってるからな。止めるものが足しかねーんだ。
 サトルは肩をすくめて、へへへ、と笑っている。

 そりゃ、早く食いたいよな。
 美羽、写真なんてどーでもいーから、早く戻ってきてくれよ。
 チイは相変わらずバタバタして、おーたんきぁい(きらい)を連発してるし、このままじゃ俺、チイにマジで嫌われちまうっ。


「ごめんね、おまたせっ!」


 手いっぱい足いっぱいでガキ共を防いでると、息を切らせて美羽が戻ってきた。
 三脚と小さなデジカメを手にしている。すぐ用意するから、と言って、三脚にデジカメをセットした。
 その間に、美羽以外の全員がお菓子の家の前に並んで、写真が撮れるようにこちらも準備した。

「じゃ、みんなで写真撮るよーっ。はい、並んでニッコリスマイル! にこーっ」

「にこーっ」

 何やら掛け声らしい。にこーって言ったら、全員が思い思いの笑顔をデジカメに向けている。
 タイマーをセットし、慌てて俺の横にやって来た美羽が、脇をつついた。「ほら、王雅も笑顔っ」

「あ、ああ」

 にこーってな。俺には向かねえっつーの。
 不敵に笑うと何時もの端正な顔が整うから、これでいーや。格好もつくし。
 デジカメのタイマーがチカチカ点灯している。そろそろシャッターが切れる合図だ。フラッシュが光ったらデジカメのシャッターが下りて、一枚写真が撮れた。

「何枚か連続で撮るから、みんなもっとカワイイ笑顔ね! ニッコリスマイル」

「にこーっ」

 全員がにこーっとポーズを決めている。再びデジカメのタイマーがチカチカ点灯しだしたその時、美羽に脇をくすぐられた。
 
「ちょっ、美羽っ、くすぐってーだろっ、やめろって」

 俺が堪えきれずに笑った瞬間、シャッターが切れた。

「あははっ、大成功! 楽しい写真なんだから、何時もの王様みたいにエラソーに恰好つけるより、こっちの方がずっといいわよ」

「お前な・・・・」

 お返ししてやる。
 再びデジカメのタイマーがチカチカし出したのを見て、俺は美羽の脇をくすぐってやった。

「きゃあっ、もうっ! 王雅、やめてよっ、あははっ」

「さっきのお返しだ、美羽」

「くすぐったぁい、もうっ」


 美羽が笑った。満面のコロッケスマイルだ。
 俺もつられて笑った。


 スゲー楽しい瞬間が、絵が、写真に収められた。
 こんな風に大勢で、楽しく笑って写真を撮ったこと、俺は一度も無かったんだ。

 お前と一緒に居ると、楽しくて仕方ない。
 愛情に飢えてた俺に、お前は沢山の愛を惜しみなく与えてくれて、優しく包んでくれるんだ。
 冷たく乾いていた心に、お前達がくれる温もりが降り注ぎ、潤してくれるんだ。


 こんなに、生きてて楽しいって、嬉しいって、心から笑ったの、本当に初めてなんだ。


 ありがとう、美羽。


 お前を好きになれて、本当に良かった。



 何時かお前に、俺のキモチが届くといいな――



 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない

鈴宮(すずみや)
恋愛
 孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。  しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。  その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語

ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ…… リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。 ⭐︎2023.4.24完結⭐︎ ※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。  →2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

処理中です...