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スマイル22
お菓子の家・4
しおりを挟む「お兄さーん」
深いふかーいため息をついていると、ガックンが俺の足にタックルをかましてきた。
「おっと、あぶねーだろが」
わざとやってきたのは、分かってる。ガックンは俺様が抱き上げるのをわかってて、わざとこうやって突進してくるんだ。
軽々と抱き上げ、くすぐってやった。
きゃはははー、とガックンは大笑いして俺の腕の中で暴れる。
もう、やめたやめた。
色々考えすぎだ。俺も。
なるようになんだろ。もう、成り行きに任せるしかねーんだ。
他にもガキ共が俺の周りに集まって来たから、めいっぱい一緒になって遊んでやった。
そんな風に遊んでいると、午前十時少し前、お菓子の家を作る業者が施設にやって来た。
面白いものを今から作るから、絶対に見るなと禁止令を出して遊戯室を封鎖し、食堂の方へ行かせた。
始めてくれ、と業者に頼み、食堂の方で待っている間、美羽がガキ共に絵本を読み聞かせていた。
楽しそうに絵本に夢中になるガキ共を見つめて、俺はこんな絵本なんか、一度も、誰からも読んでもらったことがねーんだな、と幼少期を思い出した。
本当に、愛情のカケラも無い家で育ったんだな、俺。
そりゃ性格も歪んで、冷徹にもなるっつーの。
だって、こんなあったかいモンがこの世の中にあるって事、今まで知らなかったからな。
誰にも教えてもらわなかったし、誰も俺に教えてくれなかったし。
俺が読んでいた本は、参考書とビジネス書ばっかりだったもんな。
まあ、自分でも興味なかったのもあったけど――もしかしたら、こういうのが羨ましいって気が付きたくないから、背を向けてたただけなのかもしんねーな。
楽しそうに絵本に夢中になるガキ共を見ながら、これまた楽しそうに絵本を読む美羽を見て、幸せだな、って思った。
ずっと、こうしてお前達を見つめていたい。
それだけで、心がこんなにも温かくなるんだ。
だから、ずっとずっと、俺の傍で笑っててくれ。
俺が、お前等を守ってやる。
その為だったら、どんなことでもやってやるぜ。たとえ泥水を啜らされても、どんな酷い目に遭っても、だ。
だからお前達の幸せを壊しに来る奴は、誰であろうと、この俺が容赦なく叩き潰してやるからな。
用意が出来たとのことで、仕上がりの確認の為に、俺だけが遊戯室に呼ばれた。
業者が素早く仕上げてくれたので、一時間足らずでお菓子の家が出来上がった。
出来栄えを見ると、想像以上だ。ヘンゼルとグレーテルのお菓子の家を再現してもらったんだ。なかなか良い感じだ。大きさもガキに合わせて小さめだから、全員で食いにかかりゃ、あっという間に無くなるだろう。
それより、早く見せて喜ばせてやろう。俺は食堂に全員を呼びに行った。
「用意できたから、お前等、早く来いよ。スゲーぞ!」
わーいなんだろう、とガキ共は大喜びで食堂を飛び出していった。
遊戯室にいち早く入っていったアイリが、すごぉーいっ、と大声を上げた。
続いて他のガキ共も、うわー、とか、スゲーとか、嬉しい歓声が聞こえて来た。
「何が出来てるの? 先生にも見せて」
美羽もガキ共の後から続いて、遊戯室の中に入っていった。
「わあっ・・・・すごい・・・・」
お菓子の家を見た美羽が、感嘆の声を漏らした。
「どーだ、スゲーだろ」
ポン、と美羽の肩を叩いて言ってやった。「俺からのプレゼントだ。本物だから、食えるんだぜ」
「王雅・・・・」
「一緒に食うか。俺達も」
「うん。いつも楽しい事考えてくれて、本当にありがとう! 王雅って、楽しい事考える天才ねっ」
美羽が、俺の好きなコロッケスマイルを見せてくれた。
俺は、お前のその顔が見れるだけで満足だ。
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