コロッケスマイル

さぶれ@6作コミカライズ配信・原作家

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商店街デート・2

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 施設に入ると、まずはキッチンへ向かった。思った通り、洗い物をしている美羽が居た。一番にお前に会いたくて、ガキ共が居るって判ってる遊戯室をすっとばして来ちまった。

「よお、美羽」

「おはよう。あれっ、王雅・・・・もう約束の時間? おかしいわね・・・・確かまだ八時くらいのハズ・・・・」
 
「うん。まだ八時過ぎ。約束の九時までは、あと一時間近くもあるぜ。荷物とか置かせてもらおうと思って、勝手に早めに来たんだ。何か手伝ってやれること、ねーかな?」

「あ・・・・えっと、じゃあ、食堂のテーブル片付け、頼んでもいいかな?」

「オーケー、任せとけ。他は?」

「他は別にいいわ。私の準備が出来るまで、ゆっくりしてて。せっかくの休みでしょ? 色々付き合わせてごめんね」

「何言ってんだよ。俺が好きで勝手にやってんだ。気にすんな。これからここに来たときは、お前の為に、タダで働いてやるから」

「ありがとう。そしたら、遠慮なくやってもらうわ。とりあえずじゃあ、食堂の方、お願いね」

 俺の方を振り返っていた、美羽が微笑んだ。メチャクチャ可愛い。


 ああ、このまま後ろから抱きしめて、キスしてやりたい。


 でも、そんな事しちゃったら、多分――マズイな。やめとこ。心の拠り所を失う訳にはいかねえからな。
 今失ったら、多分、間違いなくこの小説は終わるぞ。
 あっ、違うか。


 いや、冗談じゃねーんだ。失ったら、マジで困るんだ。
 今進めてるプロジェクトとかやる気力なくなって、多分案件を進めることができなくなっちまうだろうからさ。

 そうなったら、企画自体が頓挫だ。櫻井グループも危なくなるかもしんねえな。
 そんで俺は多分、もう立ち直れなくて、今まで以上に冷徹になって荒れると思う。
 誰も手がつけらんなくなんじゃねーのか。自分で考えていても恐ろしくて、想像がつかねえ。

 仕方ない。強引に手出しできねーんだったら、今後は俺の中で妄想することにしよう。
 あー、でも、そんな事したら余計辛いかもな。

 ムズムズしそうだ。あちこちが。


 でも、ちょっと考えてみよう。


―――――・・・・


『美羽』

 俺は洗い物をしている美羽を、後ろから抱きしめた。

『きゃっ、何っ?』

 美羽が驚いて顔だけを俺の方に向けた。
 抱きしめると、何時ものシャンプーの良い香りがする。お前は貧乏だから、どうせその辺のスーパーで売っている、徳用一パック何百円程度の安物シャンプーを使っているんだろうけど、スゲー良い香りだ。何時もの、清潔な美羽の香り。

『好きだ、美羽』

 耳元で囁くと、また、冗談はやめてよっ、って真っ赤な顔をして怒るんだろ。
 でも、冗談なんかじゃないってこと、わからせてやるんだ。
 
『冗談なんかじゃねーよ。なあ、美羽。今すぐ結婚してくれよ。俺、もう淋しくて仕方ないんだ。お前が傍にいなきゃ、生きていけない。俺、お前や、ガキ共とずっと一緒に暮らしたい。俺じゃダメか? こんなにお前が好きなんだ。一生、ずっと大切にするから。信じてくれないなら、俺も今日から、ここで暮らす。櫻井家に未練は無いんだ。お前とガキ共が一緒に居てくれたら、それでいい』

『王雅・・・・本当なの? 信じていいのね?』

『ああ、勿論本当だ。俺様がウソなんか言う訳ねーだろ。美羽、結婚しよう。俺と幸せな家庭、築いていこう』


 重なる唇。優しく美羽を抱きしめて、イエスの返事を貰って――・・・・




 ちょっ、今の、良い感じじゃね?
 想像通りにいくかな。とりあえずやってみよう。

 後ろから抱きしめようと近づいたら、美羽が振り向いた。「あれっ。王雅、まだいたの? どうかした?」

「あっ、いやっ、べ、別にっ。なっ、なんでもねーよっ」

 抱きしめようと腕を広げたら、本物は振り向いて声かけてきやがった。
 おかげで、焦っちまった。

 ダメだな。想像通りに行かなくて、もし結婚の申し込みが断られたら、ココでこの小説が終わっちまう――じゃなくて、俺も、櫻井グループも終わりだ。

 危険な橋は渡れねえ。やめとこ。

 
「変な王雅」

 振り向いていた美羽が、再び体制を戻した。
 洗い物が終わったようで、美羽はキッチンの片付けに入った。あちこち忙しく動き回りだしたから、仕方なく食堂の片付けに向かった。
 はあぁ。思い通り上手くいかねーな。
 まっ、めげずに頑張るか。何かこーゆーのも、ビジネスとは違う駆け引きで面白い。

 いかに美羽に気持ちを傾けてもらって、俺の事を好きになってもらうか、だ。


 とにかく今日のデート、頑張るぜ!


 荷物を置いて食堂の片付けを終わらせ、遊戯室に向かった。中を覗くと、ガキ共が思い思いに遊んでいた。

「おーたん! おーたん!」

 俺をいち早く見つけたチイが、ちょこちょこ走って来て、俺の足にしがみついてきた。

「チイ、元気だったか?」

 ひょい、と小さなチイを抱き上げた。

「あーい」

 腕の中のチイは、にっこりカワイイ笑顔を見せてくれた。
 ヤベー、何この可愛さ!!
 俺は今まで、こんな愛らしい生き物を見たことが無い。

「俺様に会いたかったか? 俺もチイに会いたかったぜ」俺は満面の笑みで、チイに伝えた。

「んー、おーたん、ちゅきー」

 再びチイ、笑顔。そして俺様をぎゅー。




――おい、チイ。俺様に向かってちゅきー(好き)、と、ぎゅー、は反則だろ!! 




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