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スマイル19
父親・2
しおりを挟む「実は・・・・僕には今年で五歳になる子供が居るんです。今は、行方が分からずに探しています。興信所に頼んで、ようやくマサキ施設に居るらしいという事を突き止めました。・・・・話すと長くなりますが、櫻井さん、聞いていただけますか?」
「勿論。話してください」行方不明とはどういう事だろう。続きを促した。
「三年前、僕は仕事で大きなトラブルを抱えてしまい、体調を崩し、身体を悪くしまってたんです。それで・・・・専業主婦だった妻が働きにでるようになったんです。でも、お恥ずかしながらぐうたらな妻だったもので・・・・仕事は続きませんでした。最初は病院にも来てくれていたんですが、彼女は次第に見舞いにも来なくなりました。生活費も任せきりだったので、入院費の支払い等も滞るようになりました。仕方なく、一人で実家がある地方の病院に転院したんです。ただ、暫くすると彼女とはもう連絡が取れなくなってしまって・・・・一人息子の悟(さとる)――あ、すみません、子供の名前は悟と言います――も一緒に、前まで住んでいた住所から勝手に居なくなってしまって・・・・入院の身で、地方からではどうにも探せずにいたんです」
ただの種親ではないようだな。ぐうたらな妻か。納得だ。千夏のせいで、サトルだけじゃなく、内藤も苦労したんだな。
「それで、内藤さんの息子のサトルが、マサキ施設に居ると知って様子を見に来られた、という訳ですか?」
「おっしゃる通りです。身体の方も回復しましたので、再就職もできました。今の会社で貯蓄を作りながら、悟をずっと探していました。正直、妻の方はもういいです。でも、子供は・・・・悟だけは、何とか取り返して、一緒に暮らしたいと思っています。でも、僕が居ない間、悟もあんな妻についていて苦労しただろうし、もう僕の事なんて忘れて、幸せに暮らしているかもしれません。だからせめて一目、本当に悟が居るかどうか、様子を見ようと思いました。それだけなんです。壁が思いのほか高くて、ちょっとウロウロして怪しい動きをしてしまいましたが、施設にご迷惑をかけようとか、そんな事を思っていた訳ではありません。本当に、申し訳ありませんでした」
内藤は、俺に向かって深々と頭を下げた。
やっぱ俺の思った通り、内藤はサトルの血の繋がった親父なんだな。
サトルを取り返す――か。
っつーことは、万事上手くいけば、サトルは内藤のトコへ帰っちまうのか。
もう、施設で会えなくなっちまうのか。
今、サトルと内藤が親子で、手を伸ばせばすぐ近くに居るって事、俺しか気づいていねえ。
もし俺が本当の事を話さなければ、内藤はサトルを取り返したりできねーんじゃねーのか。
施設にそんな子供は――サトルは居ないっつって、内藤をこのまま追い返したら、サトルはずっとマサキ施設で暮らして行ける――・・・・
――何を最低な事考えてんだ、俺は!!
でも、サトルを内藤に返してしまうなんて・・・・スゲー嫌だ。
サトルは俺のものでも何でもないけど、マサキ施設から、ガキの誰か一人でも欠けちまうのが辛い。
もう施設に行っても、俺を慕って飛びついてきてくれることが無くなってしまうなんて。
そんな・・・・そんなの嫌だ!!
こんな時、お前ならどうするんだ、美羽――そう、彼女の事を考えて、気が付いた。
美羽は絶対に、俺が今思っているような卑怯な事、考えつきもしないだろう。
サトルと離れるのが嫌だからって、そんな事は絶対に思わない。
美羽は、サトルの幸せを一番に考える筈だ。
アイツは、そういう女だ。
ダメだな、俺。
全然、カッコよくない。
美羽、お前みたいに、カッコよくなんて、なれない。
だって、初めてなんだ。誰かをこんなに大切に思ったこと。
サトルを内藤に渡したくない――そんな思いが溢れて仕方なくて。
こんな気持ち、初めてだった。
切なくて、苦しくて、正しい判断を歪めてしまってる。
一言、たった一言、内藤に伝えるだけで、誰もが幸せになれるっつーのに・・・・何で俺は、それができねーんだ!
ブーッ ブーッ
その時、ジャケットの内ポケットに入れていたスマホが震えた。車の中は狭い密室だから、バイブの音がやけに響いて聞こえる。急いでスマホを取り出し、ディスプレイを見ると、マサキ施設からだった。
このタイミングで、施設から電話なんて――神は俺の行動を監視でもしてるのか。高鳴る胸を押さえ、俺は電話に出た。
「はい」
「あっ、お兄さん、助けてっ。怖いおじさんが、施設に来てるのっ! 今、ミュー先生とサトル君が・・・・お願いっ、早く来てっっ」
リョウだった。
――しまった。坂崎だ!
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