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スマイル19

父親・1

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 それから何事もなく、三日程が経過した。
 俺は早く美羽に会いたくて、ガキ共に会いたくて、仕方なかった。
 土日が楽しみで、その為に仕事が頑張れるという充実感を得ていた。

 流石に土日が楽しみ過ぎて眠れない、なんて事は無かったが、もしかしたら金曜日辺りは眠れないかもしれない。

 ま、それくらい施設に行くのが楽しみなんだ。

 今度はお菓子の家を作ってやろうと思ってる。業者にも手配済だ。
 あっと驚かせて、ガキ共を喜ばせてやるんだ。
 アイツ等の喜ぶ顔が見れると思うだけで、俺もスゲー嬉しくなるんだ。


 そんな事を考えながら仕事に取り掛かっていると、俺のスマホがブルブルと振動した。
 仕事中だから、バイブにしてある。スーツのジャケットの内ポケットからスマホを取り出し、ディスプレイを見ると、以前から施設に派遣しているSPからだった。


「どうした?」


 急いで電話に出ると、施設前で怪しげな男を捕獲しました、という連絡だった。
 今日は特に会議も無いし、会社を抜けても大丈夫だろう。すぐ行く、と伝えて電話を切った。
 会社には、プロジェクトの打ち合わせが入ったという事にしておいて、外出許可を貰ったので問題はない。

 やっぱりな。案の定だ。SPを派遣させておいて良かったぜ。
 サトルの義父の坂崎が来たんだろう。どうやって二度と施設に近づけないか、考える必要があるな。
 この手の男は、一度金を渡すと味を占めて、何度も無心に来るからな。サトルや施設に二度と近づけないようにするには、目には目をだけど・・・・今までの冷徹な俺のやり方で解決させちまうと、今後、施設に迷惑がかかるかもしんねえし、あんまり危ない連中とこれ以上俺も付き合いたくない。
 清く正しく、けなげに生きている美羽やガキ共を、汚れた世界に巻き込みたくねーからな。

 何とか穏便に話を付ける方法って、ねーのかな。


 考えながら、施設近くの何時もの大通りまで、急いで車を走らせた。施設近くの大通りのパーキングに停められている、見慣れたSPの車を見つけたから、自分の車を横に着け、中に乗り込んだ。

 とりあえず、話し合いだ。成り行き次第で事は考えよう。

 バタン、と車の扉を閉めて後部座席に乗り込み、捕獲したという男を見て驚いた。「あ、アンタ・・・・」

 肩を丸めて震えながらSPの車の後部座席に乗っていたのは、Club雅-miyabi-で会った内藤だった。

「櫻井さん!?」内藤も驚いている。

「・・・・どうして内藤さんがこんなとこに居るんですか! あの施設に、何の用事があるんですか」

「ぼっ・・・・僕はあの施設にちょっと用事があって・・・・中の様子を見ようとしていたら、いきなり羽交い絞めにされてここに・・・・」

 
「中の様子を見ようとしていたのではなく、不審な動きをしていただろう」SPの男が後ろを振り向きもせずに、ドスを利かせた声で言った。内藤は更に縮み上がった。

 助手席と運転席に全身黒づくめのスーツ姿のSPが二人。前方の車のミラーに映る彼等の姿は、一般人には驚異的な恐ろしさだろう。内藤が震えるのも、無理はない。

「いやっ、あの・・・・それは、ですから・・・・」

「内藤さん、どういうことか説明してください。俺はマサキ施設の関係者です。今、施設でちょっとしたモメ事があって、もしかしたら変な男が来るかもしれないと思い、SPに見張らせていました。すると、貴方がやって来た、という訳です」

 内藤は黙って俯いている。

「事情言うまで、帰せませんよ? 俺だって無理やり聞き出すようなマネはしたくない。できれば穏便に、今ここでお話下さい」

 肩を震わせ小さくなっていた内藤は、膝にのせていた手に力を入れ、絞り出すように声を発した。「・・・・僕の子供が、あの施設に・・・・居るらしいんです。それで様子を見に・・・・」

「子供? 内藤さんの――・・・・」


 ハッ、と気が付いた。


 内藤という苗字、最近どこかで聞いたことがあるな、と思っていたんだ。
 まあ、よくある名前だから、気にもとめなかったけど――そうか。内藤は、サトルの本当の親父なんだ。


 内藤千夏と内藤勝也。この二人の子供が、サトルってワケだ。


 この男がただの種親なら、ぶん殴って追い返してやろうと思った。サトルが今までどんなに辛い思いをして生きて来たのか、この男は知った上でノコノコやって来たのだろうか。
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