コロッケスマイル

さぶれ@6作コミカライズ配信・原作家

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スマイル16・バーベキュー

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 突如現れた、邪魔な女二人を俺様の勝手で追い返す訳にはいかねえから、予定通り、今からバーベキューの準備を始めることになった。
 今までだったら、俺の思った通りにならない事なんて一度もなかったのに・・・・。

 先ずはホールに入って、荷物を置いた。
 予想通り、本当に何もないただの広いホールだ。しきりすらねえ。
 電話も無いようだから、チャーターは絶望的だ。あれだけ張り切って用意した初夜グッズは、全部ボツだ。着の身着のままっつーワケか。上等じゃねーか!
 こうなりゃもう、成り行き任せだ。

 しかし、ここに全員で雑魚寝かと思うと、頭が痛くなる。
 この際手狭でも何でもいいから、せめてもう一部屋あれば何とかなったのに。

 準備ができるまで、ガキ共は遊んでおくようにと解散させた。
 遠くへ行かないよう美羽が注意したが、話半分だった。前の桃遠足の時と一緒だな。
 見渡すと、ガキ共は何もないホールや外で思い思いに遊んでいる。今のところ、全員の姿が確認取れている。行方不明になってるヤツはいねーようだ。

 俺は、準備係をさせられた。
 江里が貰った食材が届いたので、あれこれ運搬し、皿の準備やら火おこしやら、エラくコキ使われた。
 女共は、ガキ共を見張りながら食材の調理にかかっている。人数が多いから手分けしてやるらしい。
 男は俺様だけだからな。だから、全般的な運搬や力仕事的な事を一人でさせられた。
 女子は調理の方に固まって、勝手に盛り上がってよろしくやっている。


 もしかして今日、便利屋代わりに呼ばれたんじゃねーだろーな。


 はあぁ。俺、何やってんだろ。
 心の支え――あのウキウキとしたテンションは、一体どこへ行ってしまったのか。楽しみをもぎ取られてしまった今、何時もの元気が出ねえ。文句の一つも口に出すのさえ、もう、なんかしんどい。

 俺は、今日この日を迎えるためだけに、必死に頑張ってきたっつーのに・・・・。

 この休みを取るのに、どれだけ苦労したと思ってんだよ、コラ!
 神も仏もねーぜ。ちくしょー!
 俺様の苦労を返せ――――っ!!


 あー疲れた。
 とりあえず机やら椅子やらの準備も終わったし、見回してもガキ共は大丈夫そうだし、手持ちぶさたになったので、テント内に用意した椅子に座って中から空を見上げた。
 夏の日差しが、さんさんと草木を照り付けてる。日よけの中でも暑いな。風が吹くと少しは涼しいけど。
 まさかと思うがあのホール、冷房器具の類が無いとか言い出すんじゃねーだろーな。
 それより初夜・・・・どうすっかな。どう攻略してやろう。邪魔だらけで、美羽までたどり着けんのかよ。
 こうなりゃ、外に連れ出すしかねえかな。でも、初回で外っつーのは、どうも・・・・イヤだな。
 初めてなんだ。俺だって場所とか雰囲気、大事にしたい。


 大切な女なんだ。大切に抱きたい。


「王雅」

 ぼんやり空を眺めて初夜の事を考えている俺様の顔を、美羽が覗き込んだ。「コッチの方、もう用意終わったんだ。早いね。ありがとう。一人で大変だろうから、手伝おうと思って来たの」

「・・・・」俺は無言で美羽を見つめた。


 ドキン ドキン


 お前が目の前に来るだけで、なんで俺様の心臓はこんなにドキドキするんだ。
 こんなにお前を好きになっちまうなんて。

 どーしてくれんだよ! マジで!!
 責任取れ、バカ女。俺をこんな風にしやがって!
 お前に振り向いてもらえなきゃ、この先俺は、どうやってこの気持ち静めたらいいんだよ。心だけじゃなく、身体だってもう限界だ!


「どうしたの、王雅、きゃっ」

 俺は、美羽を抱き寄せた。「充電させろ。暫くお前に逢えなかったから、パワーがねーんだよ」

「ちょ・・・・ちょっと、こんなところで・・・・」

「うるせえ。俺が、どんなにお前に逢いたかったと思ってんだ――・・・・」

 どんなに、今日の事を楽しみにしてたか、お前に解るか!
 逢いたくて、逢いたくて、嬉しくて、楽しみで、仕方なかったんだ。
 お前と一緒になれるって思ってたから、メチャクチャ楽しみにしてたっつーのに!!

 それなのに、ガキ共と寝床は一緒の上に、俺に断りもなく邪魔な女を二人も連れてきやがって。
 クソッ、どういうつもりなんだよ!
 お前は、俺と一緒になりたくねーのかよ。

 なあ、美羽。
 俺の気持ち、どうやったら解ってくれんだよ。
 言っても解らない、想っても解らないじゃ、何時まで経ってもこのままじゃねーか。
 充電がてら、キスのひとつでもしてやろうと思って顔を近づけていくと――・・・・



「ほ、ほらっ、もうこっちは準備できたし、バーベキュー始めるから、アンタも来なさい」



 すんでのところで美羽に振りほどかれ、食材がてんこ盛りのところまで引っ張って連れてこられた。
 キスは出来なかった。
 火おこしは最初に俺様がやってやったから、続きの火の準備は終わっていて、何時でも焼ける状態にしてくれている。

「もういい。食いたくねえ」

 ブスっとふくれっ面を見せて、プイ、とそっぽを向いた。
 俺は、お前が食いたいんだ!
 初夜だってどうなるかわかんねーんだから、キスぐらいさせろっつーの!
 
「王雅、何膨れてんのよ。準備一人でさせちゃって、ゴメンね? 皆で食べるととっても美味しいから、そんなコト言わずに機嫌直してよ」

 何だ。いつも俺様にはツンツンする癖に、今日の美羽はやけに優しいじゃねーか。
 ツンデレの、デレの方だな。今日は。
 悪くない。お前に優しくされんのは、嬉しい。
 もしかして、俺の事好きになってきたのかな。
 だったら、キスくらいさせてくれたっていーだろが!

「お前が食わせてくれんだったら、食ってやってもいーぜ」

「何言ってんのよ。セルフよ、セルフ。そんな事言ってたら、無くなっちゃうわよ」

「じゃあ、食わねー」

「あ、そ。じゃあ勝手になさい」

 うわっ、もうツンツンでそっぽ向かれた。
 デレは一瞬だ。鬼だな。
 もうちょっと構ってくれたっていーだろが!
 美羽の場合、ツンデレじゃなく、ツンツンツンツンツン・・・・デレだな。


 ・・・・なんか、ツンばっかじゃねーか? ヒドくね?


 美羽は、俺様の事は放置で、勝手にまりなと江里とで手分けして、野菜や肉を焼き始めた。
 すると砂糖に群がるアリのように、ガキ共はわらわらと集まってきた。
 火の元へ行かせられねえ小さいガキを何人か抱えて、俺はさっき用意したテーブルの方に行くことにした。テント張ったから日よけもあるし。熱いし、もういいや。

 何が楽しみにしててだ、美羽のやつ。俺はちっとも楽しくねえぞ!
 ガッカリ祭りだ。俺様にこの苦しみを味合わせた責任は、絶対に取ってもらうからな。覚悟しておけよ。


 そんな事を考えながら、小さいガキどもをあやしていると、ツンツンとジャケットの裾を引っ張られた。振り向くと、ガックンが立っている。「お兄さん、これ、食べてください!」

 見ると、焼けた肉や野菜を持ってきてくれている。すぐ食べれるように、焼き肉のタレのようなものがかかっている。

「なんだ、ガックンもう食ったのか?」

「いいえ、まだです」

「じゃ、早く食えよ」

「はい。お兄さんに最初に食べてもらおうと思って、取ってきました! どうぞ」

 ニッコリ笑顔で、紙皿を差し出してくれた。



――うわ、やべ。めちゃ嬉しい。



 なんでだろう。俺様が何時でも一番っつーのは当たり前だったのに、なんか、違う。
多分それは、ガックンの優しい気持ちがそこにあるからだ。
 なんか、胸いっぱいになった。
 俺は、ガックンをぎゅっと抱きしめた。「ありがとな。遠慮なくもらうぜ」

 言葉通り俺は遠慮なく、皿の中の肉や野菜を食った。めちゃめちゃ美味かった。こんな美味い肉や野菜は、初めて食った。
 なんでだろう。絶対そんな、高級肉とかでは無い筈なのに。
 どうして、こんなに美味いんだろう。

「美味いな。サンキュー、ガックン」

「お兄さんに喜んでもらえて、良かったです!」

 俺の返事に、ガックンスマイルが炸裂した。かわいいな。

「よし。今度はガックンの為に、俺様がいっぱい肉取ってきてやる。待ってろ」

 ガックンを椅子に座らせ、俺は肉に群がるアリの群れに突っ込んでいった。
 中では、美羽と他二名が肉や野菜を必死に焼いている。はらぺこアリばかりだから、焼けた傍から奪い合いだ。俺もその戦争に参加した。

「とあ―っ!」

 俺の方がガキよりリーチが長い。腕が長いからな。気合を入れて肉と野菜を争奪すると、美羽が俺の方を見て笑っているのが見えた。

「楽しいでしょ?」

「あ、うん、まあな」

 さっきまで楽しくなかったけど。ま、ガックンのおかげでテンションが盛り上がったワケだ。
 楽しいと、そういう事にしておいてやろう。
 
「美味しいから、王雅もいっぱい食べてね」

「ああ。これじゃ足りねえから、もっと寄こせ。あと、皿と箸も」

「全部食べないでよ。図々しいわね」

「バカ、俺が食うんじゃねーよ。ガキの分だ。あっちでチビ共を食わしておくから、アイツ等が食えそうなやつ、後から追加で持ってきてくれ。頼んだぞ」

「そうだったんだ、図々しいとか言っちゃってゴメン。あの子たち面倒見てくれてるんだ。王雅、本当にありがとう。助かるわ」

 そう言って、優しい微笑みを浮かべる美羽。俺の惚れた、極上のコロッケスマイルだ。
 お前はガキの事になると、本当に優しい母親みたいになるんだな。

 美羽はトレイに、皿、コップ、箸、肉や野菜が切れる専用のハサミ、チビ用のスプーンやフォーク、手拭き、ジュースやお茶の類を乗せたものを素早く用意して、俺に渡してきた。「ちょっとここの手が離せないから、後からいっぱい焼いて持って行くね。暫くあの子たちのこと、お願い」

「いいぜ。任せとけ」

 好きな女に頼りにされたら、男は嬉しい。俺はトレイを受け取って、ガックン達が待つテーブルまで戻った。
 争奪した肉や野菜があるから、当面これを分けて食わせておこう。
 
「待たせたな」

 人数分に分け、皿に盛った肉や野菜を小さく切って、チビ共の目の前に置いた。
 特にガックンの前には、他のガキ共から奪い取った肉をたっぷり置いてやった。

「こんなに食べていいんですか!?」ガックンの目が輝いた。

「いいぜ。足りなくなったら、また追加すりゃーいーんだよ。たらふく食え」

「ありがとうございます! いただきまーす」

 ガックンは肉に食らいついた。ちょびっと口元にタレを付けたまま、ガックンスマイルを見せる。「美味しいです!!」

「そうだな、美味いな」

 チビ共も、スプーンやフォークを使って思い思いに食っている。うまーとかうあー、とか、奇声を発しながら。

 それにしても、ガキ共と食う焼き肉が、こんなに美味いとは思わなかった。
 肉の質や本来の味なんかは、絶対俺が何時も食っているの方が上だと思う。家では、高級肉しか出てこねーからな。
 でも、一人きりで食べる高級肉よりも、雑多な中で食べる肉の方が、遥かに美味いんだって、初めて知ったんだ。


 俺は今まで、もの凄くつまらない世界で生きて来たんだな。
 金があるからエラソーにするだけで良かったし、思い通りにならない事も無かったけど。
 好きでもない女と肌を重ねても、何一つ残るものは無かった。何時も心は満たされなかった。
 でも、今は違う。
 こんなに心から楽しいって思えるし、嬉しいって思う事が沢山ある。
 楽しい時間を過ごすことも、行事ひとつにウキウキしたことさえ、今までなかったからな。

 本当に、マサキ施設のヤツ等にかかりゃ、俺様は初体験だらけだぜ。


「はーい、お待たせなのだ~」

 まりなが、トレイいっぱいに沢山のおにぎりとふかし芋を持ってきてくれた。

「熱いから、気をつけるのだ」そう言いながら、皿ごとテーブルに置いてくれた。

「こちらも美味しそうですね。お兄さん、頂きましょう!」

「そうだな。食おうか」

 できたての温かいおにぎりと、ふかし芋を食べた。びっくりする程、美味かった。

「ガックン、コレ、美味いな!」俺はガックンに同意を求めた。

「ふおうでふね」

 そうですね、と言いたいのだろう。ガックンはアツアツのふかし芋を頬張ったもんだから、顔をもの凄く歪めてハフハフ言っている。

「プッ、アハハハッ!! ガックンの顔、スゲー変な顔!」


 その顔があまりに可笑しくて、思わず大笑いしてしまった。




――俺、こんな風に笑ったの、本当に初めてだ。




 こんな大声を立てて、腹を抱えて笑うなんて。
 ・・・・いいもんだな。こんなに笑うって。楽しいんだな、ガキ共と一緒に居ると。
 俺は、ガックンの坊ちゃん刈りの頭をクシャクシャと乱暴に撫でた。「ありがとよ」

「はにがふぇすか?」

 ガックンはまだフガフガ言いながら、芋を食っている。思わず笑みがこぼれた。
 ホントに飽きない。

 そんな風に食べていると、肉や野菜を皿いっぱい乗せたトレイを持つ美羽が現れた。

「お待たせ。遅くなってごめんね」

「おう、待ってたぜ」

 お前が俺の傍に来てくれるのを、な。
 美羽から皿を受け取り、テーブルの中央に置いた。皿の中身が空になっているチビ共の前に、割と冷めている肉や野菜をよって、専用のハサミで小さく切って置いた。

「慣れたものね」俺の手つきを見た美羽が、感心して言った。

「まあな。今までこんな事やったこと無かったけど、前から面倒見てるし、慣れるもんだな。だから、お前が毎日どれだけ大変かって、よくわかる」

「大変なんかじゃないわ。毎日、とっても楽しいのよ。子供たちの成長が、傍で見れるんだもの」

 美羽が微笑んだ。優しいコロッケスマイルを浮かべて。

 ああ、好きだなって思う。
 お前が、こんなにも好きだって、身体中で叫んでる。
 さっと目を走らせると、ガックンやチビ共は、俺と美羽の方を見向きもしないで、皿の肉や野菜に飛びついている。
 俺はガキ共の目を盗んで、アイツ等に背を向けて見えないようにして、美羽を抱き寄せ口づけた。

「なっ・・・・んっ・・・・! ちょ、王雅っ・・・・こんなトコで、やめてよっ」

 小声で叱られた。知るか。

「うるさい。ガキ共に聞こえんぞ。いいのか? 俺は、別に見られたっていーけどな。こんなトコじゃなけりゃいいって言うなら、場所変えるけど?」

「そうじゃなくてっ・・・・んっ・・・・っ!!」

 ガキ共に見せたり聞かせちゃまずいと思っているのだろう。美羽は俺の腕の中でジタバタしているが、声を荒げたり俺の舌に噛みつくようなことはしなかった。
 俺は、今日まで頑張って来たんだ。前払いでちょっとイイコトくらいしたって、罰は当たんねーだろ。

 散々キスしまくってやったら、美羽が真っ赤な顔して俺を睨んでいる。

「なんだよ、まだして欲しいのか?」

「バカッ、なんでこんなコトするのよっ」

 怒っているが、あくまでも小声だ。ガキ共は肉に夢中で、俺達がゴチャゴチャやりあってるとは気づいちゃいねえ。

 
「何でするのかって? 好きだからに決まってんだろ。お前が好きだからだ。キスもしたいし、お前を抱きたい。お前が欲しい。それじゃダメなのかよ」

「わっ・・・・私は、そんな不愉快な事、したくない」

「なんで不愉快なんだよ」

「・・・・私の口から、それを言わせたいの?」


――ああ、そういう事か。


 男女関係を結ぶ事を不愉快だというのは、恐らく、花井との事があったからだろう。
 そりゃあ、ビジネスとはいえ、初めてをあんなジジイに奪われたなんて、屈辱にも程がある。美羽が嫌がるのも、無理はない。俺だって、美羽と花井がどうこうなったなんて、考えるだけで嫌だ。考えたくないから俺の中では、それは無かったことになっている。
 あくまでも、ビジネス――施設を守る為だったんだから。

 ビジネスに、犠牲はつきものだ。それは幼い頃から俺は良く解っている。
 三年前、二十歳になるかならないかの小娘が、たった一人であんな姑息なジジイに立ち向かって、女として一番大切なものを投げ出したんだ。その事を、本当にスゲーって思う。マジで体張って、ガキ共を守ってんだからな。
 俺も危うく花井と同じ卑劣な男になり下がるところだったが、あの時思いとどまって本当に良かったぜ。


 この気持ちに気づいた今なら、
 心からお前の事、大切に抱いてやることができるから――・・・・


 
「美羽の考えは、俺が変えてやる。男と女が抱き合う事が、不愉快な行為なんて絶対言わせねーよ。だから、俺を好きになれ、美羽。俺が全部受け止めて、お前の大切なものも全て、守ってやるから」

「アンタなんか・・・・」美羽はまだ俺を睨んでいる。

「怖い顔して睨んでるけど、俺の何が気にくわねーんだよ。俺様は容姿もいいし、金もあるし、お前の欲しい土地持ちだし、ガキ共にも好かれてるし、言う事ねーだろが。これ以上の男はいねーと思うんだけど」

「バカじゃないの」

「なっ・・・・さっきからバカバカ言いやがって! 俺様の何がバカなんだよ!?」カチンときて、つい大声をあげてしまった。

「そういうトコロがバカだって言ってんのよ!」ガキ共が傍に居ることも忘れて、美羽も負けじと大声になる。

「なにを――・・・・」


 言いかけたところで、俺のジャケットの裾がツンツンと引っ張られた。見るとガックンだ。


「ミュー先生、お兄さん、ケンカはいけません」

「ガックン・・・・」美羽がバツの悪そうな顔でガックンを見ている。

「二人とも、仲良くです! ね? はい、握手で仲直り。いつもミュー先生がやってくれます」

 ガックンは小さな手で俺と美羽の手を取り、お互いの手を握らせた。
 
「これで、ケンカは終わりです。まりなお姉さんが、追加のお肉や野菜を持ってきてくれました。皆で食べましょう!」

 俺達の手を取り、ガックンに着席させられた。美羽と俺の真ん中に、ガックンが座って俺達の世話を焼いてくれた。


 コイツ、ちびっこい癖に――・・・・。


 ま、俺もちょっと焦りすぎたかな。美羽のやつ、もしかして男嫌いなんじゃねーのか。
 少し前、あのメガネヤロー(恭一郎)の事、やっとふんぎりついたって言ってたし、そろそろ俺の事、前向きに考えて欲しいんだけどな。
 焦っちゃいけねーっつーのは解ってるけど、早く俺を好きになって欲しいんだ。
 ぼやぼやしていて、もし他の男に盗られたりしたら、目も当てらんねーだろ。
 お前が、俺以外の男に惚れちまったりするかもしんねーだろ。

 不安なんだ。お前が誰かのものになってしまわないか。
 怖いんだ。お前を盗られやしないかって。

 だから焦るんだ。

 でも、どうやったら、お前に好きになってもらえるか、全然わかんねー。

 こんなに、今までにない努力をしてるっつーのに、何がいけねーんだ。
 さっきも言った通り、俺様は、お前にとっちゃ最良物件だろが。何が不満なんだ。
 黙って見てりゃ、好きになってくれんのかよ。
 それに、キスのひとつやふたつ、減るもんじゃねーし、そんなに怒んなくても、別にいーだろが。もう何回もしてるっつーのに。
 あーあ・・・・こりゃ、初夜はおあずけだな。チャンスがあるなら今夜したいけど、場所も最低だし、美羽の気持ちを大切にしてやんねーと、マジで嫌われちまう。
 ちょっとは脈アリかと思う事もあるけど・・・・でも、この様子じゃ多分違うな。
 お前に振り向いてもらえる日なんて、やって来んのかよ。はぁぁ。俺様がこんなため息を、女の事で吐く日が来るなんて。夢にも思わなかったぜ。

 今までだったら、どんなものでも、どんな女でも、欲しいと思ったら手に入れてきて、飽きたらポイ捨てだったんだ。

 でも、美羽は違う。

 心から大切にしたい、抱きたいって思ってる。きっと、飽きることなんて無いだろう。
 こんな気持ちは初めてなんだ。お前を好きだって気持ちが、今も溢れてる。
 だからこれからも、この気持ちがお前に伝わるように努力する。

 でも、遠慮はしねえぞ。俺は、俺のやりたいようにするんだ。


 美羽も、ガキ共も、全部、俺様が大切にしてやるから。


 ガックンのおかげで険悪にならずにすんだ俺達は、バーベキューの肉や野菜をたらふく食べ、満腹になった。
 食事が終わったガキ共は、草原を走り回って遊んでいる。
 美羽と他の女共は、片付けに行ってしまった。俺も手伝うって言ったが、仕事で疲れてるだろうから少し休んでなさい、と断られた。後でお茶を持ってきてくれるんだとか。

 確かに、ちょっと体が疲れてきている。勘違いとはいえ、お前との初夜を目標にして今日まできたんだ。目いっぱい無理して、寝不足が続いていたからな。
 俺は、素直にありがとう、と伝えてその場に残った。
 ガキ共を見つめながらテントの中の折り畳み椅子に座っていたら、知らないうちにウトウトしていた。


 心地よい風に吹かれながら、夢を見た。

 美羽とキスを交わす夢。

 何時もみたいに無理やりじゃなく、恥ずかしそうにしながら、アイツが俺にキスしてくれる夢。




 夢なんかじゃなく、いつか本当になればいいのにな。



 
 楽しい時間はあっという間に過ぎて行った。草原で虫取りして遊んだ後、飯盒炊爨とやらに、初めてチャレンジした。ガキ共と一緒になって野菜を洗って肉を切って、カレーを作った。
 美羽とまりなと江里の三人は勿論の事、ガキ共の女子が特に中心になって、飯盒で御飯を炊いてくれた。これで本当に炊けるのかと疑問に思ったが、ちゃんと炊けた。おこげというのも初めて見た。焦げてるからマズいんじゃねーのか、と思ったが、違ってた。
 外でカレーを作って食うなんて、初めてだった。おこげの入ったカレーを食った。

 御飯も、カレーも、スゲー美味かった。こんなこと初めてだから、楽しかった。

 カレーを食った後は、キャンプファイヤーと花火をするんだとかで、準備を始めた。
 俺はガキ共と一緒に、キャンプファイヤーの為の木を組んだ。重いから、みんなで協力して必死になって作り上げた。こんな事も、初めてだった。

 燃え盛る炎を囲み、皆でフォークダンスの定番ソングを歌いながらぐるぐる回った。よくわからねーからガキ共に習って、一緒に踊った。

 その後、花火をやった。
 山の中だから何処にも遠慮することなく、手持ち花火だけじゃなくて、大きな打ち上げ花火を盛大にやった。


 綺麗な花火で、ガキ共は大喜びだった。
 

 全部初めてで、全部楽しかった。


 ガキ共や美羽が、俺を誘ってくれた事に感謝した。こんな楽しい世界があったってこと、教えて貰えて良かった。


 花火の後、男と女に分かれて風呂に入った。男のガキ共全員の面倒を押し付けられたが、苦にならなかった。楽しく風呂に入れてやり、風呂でもお湯の掛け合いをして遊んでやった。

 それから、全員でホールに雑魚寝した。心配だったが、冷房器具は一応整っていた。ただ、山の中だから気候は涼しく、窓を少し開けて寝たら、心地よい風と冷気が入ってくるので、冷房は不要だった。気温も、丁度良かった。


 初夜は残念だったが、まあ、これも悪くない。
 こんなに大勢で寝るなんてことも、初めてだ。まあ、思ってた初夜と違うが、俺様にとったらこれも初夜っちゃー初夜か?

 まあ見てろ。そのうち美羽と、本当の初夜を迎えてやるからな。
 今日は仕方ねえから、ガキ共に免じて我慢してやるよ――
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