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スマイル12・バースデーケーキ

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 今日はいよいよ美羽の誕生日だ。
 この日をどんなに待ちわびた事か。俺はこの日の為に着々と準備をしてきたのだ!

 本日のプレゼントは、指輪と花とケーキ。

 勿論、結婚を申し込むための指輪は、美羽に気に入られるような、それでいてさりげなく高級感漂う素材と宝石を駆使して、俺が特別にデザインしたもので作ったし、花は出来る限りゴージャスで尚且つ上品なものをオーダーした。
 勿論金は惜しまないつもりだが、あまり金を遣いすぎると逆に受け取らないだろーから、加減が難しかった。

 更に、美羽のハートを掴むために、俺は必死で練習したんだ!!
 ケーキ職人を家に呼んで、誰もが腰を抜かして驚くような美味いケーキを作るために!
 一週間という短い時間の上、仕事も鬼のように忙しかったが・・・・フッ。俺様にかかっちゃ、赤子の手を捻るより簡単だ。今日はその、練習の成果を発揮する本番というわけだ。

 たかがケーキといえど、俺は手抜きしたりしない。

 有名シェフのレシピもふんだんに用意させたし、材料だって最高級のものをそろえた。その中でも俺が直に吟味し、選びぬいた素材とレシピでケーキを作るのだ。

 まあでも、そんな最高級食材だって、愛情というスパイスには勝てねえだろ。ふっふっふ。


 見てろよ美羽!

 惚れ薬とかあったら山盛り入れてやりたいところだが、このケーキそのものが惚れ薬の役目を果たしてくれるハズだ。


 いい加減俺のものにしてやるぜ!!



 今日のこの催しは、絶対美羽なら喜ぶハズだ。
 人生で最高の素晴らしい誕生日を迎えさせてやるぜ。


 そんでもって、俺と美羽は――・・・・


『すごい! このケーキも、お花も、王雅が用意してくれたの?』

『当然だろ? 今日はお前の誕生日なんだ。それに、ケーキや花だけじゃねー。指輪だって用意してあるんだ。俺との婚約指輪だ。受け取ってくれるか?』

『勿論よ。嬉しい・・・・こんなの初めて。有難う』

『いいって、そんなの。それより今日は、ずっと一緒に居られるよな?』

『うん。私も・・・・貴方と一緒に居たい』

『美羽・・・・今日こそ、ひとつになろう』

『王雅・・・・』




 な――――――んつって!!




 そんな展開に持っていけるように、今日は絶対しくじれねえ!!
 想像するだけでニヤけてきやがるぜ~!!

 おっと。あまりイケメンの俺様が、モテナイ君みたいな妄想だけでニヤニヤしてしまうなんて、そんな事はしちゃあイカンな。冷静に、冷静に。


 そうそう。本日のプランだ。


 俺様に惚れてる読者のお前等にも解る様に、優しく説明してやろう。

 計画はこうだ。

 俺が予め用意しておいた、美羽を外出させる作戦だ。
 今日は俺の権力で、美羽に仕事の予定を立てさせた。というのも、俺が用意したウソの会社のヤツと施設に関わる重要な打ち合わせを入れさせ、夕方まで施設を空けざるを得ない状況を作った。
 美羽が子供たちの事をどうしよう、と困っていたから、俺様がすかさず、俺が面倒見ててやるから気にせず施設の事話つけて来いよ、っつってやったんだ。


 そしたらアイツ、メチャクチャカワイイ顔で、王雅、本当に有難う、すごく助かる、なんて言いやがって・・・・!!


 あ~もう、アン時の美羽の笑顔、たまんなかったな!

 でも、ウソの打ち合わせさせた事がバレたらまたビンタされそーだから、この事は絶対、美羽には内緒だぜ!!




※※※




 ンな訳で、今、施設に居る。
 俺と入れ替えで美羽はウソの会合に行っちまったから、俺様ひとりでガキの面倒を見ないといけない。
 召使とか呼びたかったが、狭い上に美羽が嫌がりそうな気がして、止めた。
 俺様ひとりでも、ガキの面倒くらい見られる頼れる男だと、美羽にアピールするチャンスだからな。

 しかし、俺は早くも後悔していた。
 ガキの面倒を見るのは想像以上に大変だった。
 あちらこちらで、俺様の名前の大安売りだ。

 あっちの用事が片付いたらこっち、こっちの用事が片付いたらそっち、そっちの用事が片付いたらまた向こうで揉め事・・・・・エンドレス。

 気がつくと、昼になってた。


 マズイ! 昼飯の準備は何も出来てねーぞ!!


 焦っていると、リカが先陣切って、美羽が昼食用に作ってくれているカレーを皿に盛り、何人かに手伝わせながら食堂へ運んで来た。
 リカは俺が他のガキに手を取られている間に、色々と昼食の準備をしてくれていたようだ。
 まあ、美羽が居ない事もたまにあるらしいから、手馴れているのだろう。

 ホールを見ると、食事用のテーブルの用意が出来てなかったから、俺がさっさと用意をしてやった。

 っつーか俺、ホント、何やってんだろ。

 こんなに苦労しても、美羽は見てない。俺がこんなに頑張っている姿を見せずして、彼女は俺のことを好きになってくれるのだろうか。
 未だにケンカしてるガキ共を黙らせ、着席させた。

 合掌の合図は、リカが取り仕切る。美羽の真似をして、神様がうんたらくんたら言って、イタダキマス。

 神よ。マジで居るなら、俺がこんなに頑張ってんだから、どーか美羽セック・・・・いや、それより恋人同士になれる方がいいな。うん。そしたらセックスしても変じゃねーし、1回限りという事もまあ無いだろう。


 っつーわけで、神! どうか俺様の願いを叶えてくれ!


 美羽と両思い、恋人同士にならせてくれ!!


 俺は、食事そっちのけで必死に祈った。
 神に祈った事なんて、生まれてこのかた初めての事だったが、きっと初回サービスで、俺の願いは聞いてくれるだろうと思う。

 じゃなきゃ、神なんてイラネー。

「お兄さん、もうお祈りいいよ。食べようよ。折角のカレーが冷めちゃう」

 俺の横に座っているリョウが、俺のシャツを引っ張ったので我に返った。
 そんなに祈りに没頭してたのか。俺は愛想笑いをしておいて、カレーを口にした。子供向けに作られているから、カレーが甘い。まあ、味は流石だ。美味い。

 そんなかなり甘いカレーを平らげ、再び合掌。
 後片付けというのが残っているが、俺様はそんな事、勿論やったことがない。
 シンクの中に積み上げられた大量の皿を見て、ため息が出た。

 どーやって片付けンだ?

 っつーか、俺様が洗うんだよな。やっぱ。

 食器なんか洗った事ねーぞ。
 自動洗浄器とかねーのかよ。

 ブツブツ言っても片付かないので、仕方なく洗う事にする。


 洗剤はどのくらい入れるのか解らないから、傍にあった洗剤の容器の中身を全てシンクにぶちまけた。
 すると、汚れが落ちるどころか、泡ばかりが増える一方だ。泡まみれになって四苦八苦していると、他のガキが手伝ってくれた。
 五歳くらいにもなると、皿のひとつも洗えないといけないらしい。それも、男女関係無く。

 大変だな、と労っておいた。やっぱり貧乏っつーのはカワイソウだな。

 ようやく大量の食器を片付け、更に昼寝の時間とかで遊戯室に大量の布団を敷き、ガキ共を寝かしつけた所でやれやれ、と腰を下ろして時計を見ると、もう14時を指そうとしている。


 ゲッ!

 ケーキの準備やバースデーパーティ用の飾りつけ、なんもしてねーぞ!!


 俺様の計画段取りじゃ、16時頃にはヤツ等と共に美羽が帰ってくる筈なんだ!
 もしウソ会議が前倒しなんかになっちゃあ、目も当てらんねーぞ!!


 イカン、急がねば!!


 早速この施設のキッチンへ最高級材料を運ばせ、用意してきたケーキ作り道具一式を調理台の上に広げた。俺様の家のキッチンに比べたらかなり狭いが、まだ色々置けるだけマシだと思い、ケーキ作りに取り掛かった。
 ケーキ作りを開始して暫くすると、昼寝をせずに抜け出して来た数人のガキがキッチンへやって来た。

「お兄さん、何してるのー? 遊んでよー!」

「俺様は今、ものすごーく忙しいんだ! あっち行ってろ」

 しっし、と手で追い払うマネをしたが、ガキには通じない。
 ガキ共は、キッチンの上に置いてあるフルーツを見て、目を輝かせた。「美味しそうー!!」

「食うなよっ! お前らの分じゃねーんだぞ!!」

「えー、沢山あるおやつは、ミュー先生が何時もみんなで分けて食べようね、って言ってくれるよー!」

「そのフルーツはな、美羽先生のバースデーケーキに盛り付けるフルーツだ。だから、食うな」

「バースデーケーキ!? ウッソー!! 私も手伝うー!」

「僕も手伝うー!!」


 ・・・・しまった。
 邪魔者がかなり増えてしまった。


 俺一人で完璧に盛り付けまでやっちまって、更にすごい飾り付けまでやって・・・・みたいな計画はもう無理だ。

 仕方ねーな! 時間もねーことだし!!


「よーしわかった、お前ら、そこに並べ! ひとりひとりに用事を言いつけるから、全員でやるんだ。いいな?」

「はーい!!」


 メチャクチャ元気の良い返事が返ってきた。
 素直だな。よしよし。

「よし、じゃあ全員でフルーツを洗うんだ。さっと水洗いでいいからな。頼んだぞ」

 無難な仕事を頼み、俺はケーキ作りの再開。
 果たして上手く出来るのだろうか・・・・。心配になってきた。


 そして、その結果。
 俺の予想通り、メチャクチャな飾りつけのケーキ、そしてパーティ用に飾りつけをした部屋が出来上がった。
 美羽のことになると、全員がやりたい、あれもしたいこれもしたいとなり、ケンカになったりもした。
 宥めるので手一杯だった俺は、結局殆ど何も出来なかった。


 クソッ。

 大失敗じゃねーか!!

 こんな見た目からしてマズそーなケーキ、とても喜んでくれるとは思えない。
 まあ、ガキ共が手伝ったとなりゃ、美羽は喜ぶかもしんねーけど。

 俺は、自分の力で美味いケーキを食わしてやりたかったのに。


 クソガキ共め・・・・。

 とりあえず無事なのは花と指輪だけだな。


 ケーキ大作戦は失敗だから、これ以外で頑張ろう。


 そろそろ帰ってくる頃かな、と思うと、吊り上っていた眉も下がるのを感じる。

 早く美羽、帰って来ねーかなぁ!!


 そんな風に思っていると、胸ポケットに入れているスマートフォンが鳴った。
 偽の打ち合わせもそろそろ終わりというわけか。
 画面を操作して電話に出ると、案の定、打ち合わせが終了したという連絡だった。

 時間は丁度午後四時。偽打ち合わせは、何とか頑張って時間を稼いでくれたようだ。よしよし。

 俺は持ってきていた礼装に着替え、ネクタイを締めた。
 髪や服装に乱れが無いかチェックする為、施設のボロ窓で確認した。

 そこに映る自分の姿を見て、俺は再認識した。



――今日の俺様は、メチャメチャイケてるぜ!! 美羽が惚れるのも間違い無しだ!!



「よしっ。もうすぐ美羽先生が帰ってくるみてーだし、そうだな・・・リョウとガックン、先生を迎えに行って、それからこの食堂に連れてくるんだ。いいな? 他のガキ共はクラッカーの用意だ! 先生が入ってきた瞬間、クラッカーを鳴らせ。解かったか?」



 はーい、と施設が壊れんばかりの大声で返事があがり、それぞれが持ち場に着いた。
 俺は花束と指輪を握り締め、センターポジションでスタンバイした。

 暫く待っていると、さっき使いを頼んだリョウやガックンの声に混じって、美羽の声が聞こえてきた。




 ドキン




 美羽が戻ってきただけで、俺の心臓は心拍数を上げる。


 やべーな、緊張してきた!


 俺は再び花束を握り締めた。





 ガラガラと勢いよくプチパーティー会場と化した食堂の扉が開き――――





「美羽、誕生日おめ――」





「ミュー先生――!! お誕生日おめでとう――――!!」





 パン パーン



 パパパ パーン





 俺の台詞はガキ共に見事にかき消され、カッコよく決めポーズを取っていたセンターポジションはガキ共にもみくちゃにされて弾かれ、更に後ろからクラッカー攻撃を浴びた。


「おいっ、誰に向かってクラッカーしてんだよ、バカ!」


「お兄さんが邪魔な所にいるからだよー! ミュー先生――!!」



 俺にクラッカー攻撃を浴びせたガキ共は、俺には目もくれずに美羽の元へ走っていった。
 美羽は驚いた顔で辺りを見回し、ガキ共に取り囲まれている。


「みんな・・・・これは?」美羽は瞳を瞬かせ、まだ驚いている。

「今日はみーちゃんのお誕生日だから、お祝いのケーキ作ったんだよぉ! みーんなで頑張ったんだぁ!!」

「おめでとうー!!」


 美羽の周りはガキの要塞となってしまい、とても近づけねえ。

 チクショー! 邪魔なガキ共め!!

 しかしこいつ等を邪険に扱うと、美羽に嫌われちまうからやっかいだ。
 常に俺様中心の王雅様とあろうものが、ガキに気ィ使う日が訪れるとは、人生わかんねーもんだぜ。



「おい、俺様にも祝わせろ」



 ガキ共を一応優しく押しのけ、俺は美羽の前に立った。コホンとひとつ咳払いをして、最高の笑顔を作って言った。「美羽。誕生日、おめでとう。俺様からのプレゼントだ。ありがたく受け取れ」


「プッ。何その頭」


 美羽は俺の素敵スマイルに目もくれず、あはは、と笑った。


「何が可笑しいんだよ!」


「だってその頭・・・・ぷぷっ。そんな礼装までしてカッコつけてる割に、ホント、アンタって面白いわね!」


 俺は指輪をジャケットのポケットに押し込み、空いた手で頭に手をやった。するとハラハラと頭の上から紙ふぶきが落ちた。それでもまだ何か引っかかっているから掴んで見ると、クラッカーの紙テープがきっちりセットした髪の毛に引っかかっていた。


 おのれー! ガキ共めー!!

 美羽をモノにしたら、一人残らずシメてやる!!


「今のはちょっとしたアクシデントがあったんだ」紙ふぶき用の小さな紙を払い、紙テープを取り除いて床に捨てた。そして、再度極上の笑み。コレで落ちない女はいない!


「俺からのプレゼントだ。受け取ってくれるな? 美羽」




 豪華な花束を渡し、潤んだ瞳を見せたところで指輪を――・・・・




「ミュー先生! それよりこっち来て!! みんなでケーキ作ったんだよ!!」




 俺様にクラッカー攻撃をかましてくれたガキが、まだ美羽にプレゼントを渡している最中の俺を押しのけ、美羽の手を引っ張った。


「コラっ! まだ俺が喋ってる途中だろ!」


 怒鳴ったところで誰も聞いちゃいねー。結局花束すら渡せなかった上、なし崩しに美羽の誕生パーティが始まった。
 勝手に食堂の電気が消され、蝋燭に火が点り、ハッピーバースデーの大合唱。
 美羽が蝋燭を吹き消すと、拍手とおめでとうの嵐が巻き起こった。
 電気が再びつき、ケーキの前に座っている美羽は、嬉しそうにガキ共に聞いた。

「これ、皆で作ってくれたの?」

「そうだよっ!!  僕フルーツ洗ったんだ!」

「私はクリーム塗ったの!!」


 口々にまくし立てるガキ共を嬉しそうに見つめ、美羽は最高の笑顔で微笑んだ。


「みんな、ありがとう。こんな素敵な誕生日プレゼント、本当に嬉しいわ!」


 それは、俺が今までに見てきた彼女のコロッケスマイルとは比べ物にならない位、とても幸せそうで、まぶしく輝いてる笑顔――・・・・


 俺は、美羽が以前言っていた言葉を思い出した。


『ケーキは、皆を笑顔にするの。楽しいパーティに欠かせない魔法のお菓子よ。ただ高い、有名で美味しいってだけじゃダメ。愛情のたっぷり篭ったケーキには、皆を幸せにしてくれる魔法の役目がある。それが、ケーキの役割よ』


 悔しいけど、俺一人が仕上げて作ったケーキをプレゼントしたところで、美羽のあんな顔を見ることはできなかったと思う。まあ、多少は喜んでくれたかもしんねーけど。
 それに、どんな高価な花束やアクセよりも、最高級に美味いケーキでも、アイツにとっては関係ない。
 アイツが一番もらって嬉しいものは、ガキ共からのケーキなんだ。
 いや、ガキ共と一緒に食べるケーキや時間なんだ。

 そこに俺は、少しも入ることはできねーのかな。
 ちょっとでも、特別にはなれねーのかな。
 俺は、お前の大切にしている大勢のガキ共や施設よりも、一番になりたい。
 お前に愛されたい。

 なあ。どうやったら一番になれんだよ。

 この俺様が、こんなにフヌケになるなんてよ。
 金さえ払えば・・・・金さえ持っていれば、どんな女だって手に入れてきたんだ。
 でも、お前は非売品だから、全然手に入らない。
 どうやったら俺のモンになるんだよ。
 非売品だって金さえあれば手に入る世界でしか生きてこなかった俺には、お前を手に入れる方法が全然わかんねーんだ。


 俺は、ここに居るガキと同じで、お前が必要なんだよ。



 だから、俺に独占させろ。



 コロッケスマイルも、ケーキスマイルも、お前の心も、全部、全部――――・・・・




 美羽に近づけないから、仕方なくぼんやり考え事をして、彼女を見つめていた。
 誰にでも人気があるんだな、アイツ。
 まあ、この俺様が惚れるくらいだからな。魅力的ではあるのは判るが。
 人数分に切り分けられて回ってきた、見てくれは最悪、味は美味い手作りケーキをつついていると、ガキ共にようやく開放された美羽が俺の傍にやって来て、隣に腰掛けた。
 ガキ共は、俺様が用意しておいたオモチャやお菓子に夢中で、そっちの方が忙しくなったようだ。
 オモチャ&お菓子作戦がやっと成功したんだな。
 これで邪魔されずに美羽と話ができるってもんだ。ようやく俺様の出番ってワケだな。よし。

「今日は、ありがとう。私のパーティー、王雅が企画してやってくれたんでしょ?」

「あ、うん。まあな」

「偽の施設の話し合いをさせる為に、私を追い出したりして」

「あ、うん、まあな・・・・・えっ!?」

「ふふっ。子供の面倒見るのが初めてだろうから、王雅の事が心配で、さっさと話を切り上げて私が帰ろう、帰ろうとするもんだから、使いの人に頭下げられちゃった。それで、全部聞いたの。王雅様が必死になって施設で企画している事があるから、どうか16時になるまでは帰らないでくれ、ってね」


 な・・・・なんということだ! 俺様の計画は美羽に筒抜けだったのか!
 あいつら――! 何て役に立たない奴等なんだ!!


「でも、今日の使いの人の事、怒らないでね。どうしても帰るって言う私を引き留める為に仕方なく言ってしまったんだし、それに、そんな風に私の事考えてくれて、嬉しかったから」

「あ、うん。わかった」

 後でシメようと思ったけど、美羽がそう言って許してくれんなら、も、いーや。
 今日は疲れた。

「留守番大変だったでしょ? よく頑張れたね」

「あ、うん。まあな。俺様はやれば何でもできるんだよ。世界一の男だからな」

「そうね。子供たちのこと、ありがとう。皆、王雅のおかげで楽しかったって言ってたわ。オモチャも、お菓子も、ホントに沢山ありがとう。子供たちが喜んでくれて、私も嬉しい」

「そっか。そりゃよかった」

 ガキ共も喜んでくれたのか。まあ、頑張った甲斐があったかな。

「それから、ケーキ、とっても美味しかった。ありがとう」

「ホントは俺様一人で作るつもりだったんだけどな。美羽の為にケーキ作るってのがガキ共にバレちまって・・・・もー、散々だったぜ。でも、こっちの方が美羽は喜んでくれたみたいだし、結果オーライだな」

「うん。嬉しかったよ。こんなに楽しいパーティ、両親が生きていた頃みたい。自分の誕生日なんて、ずっと二人が亡くなってからはお祝いしなかったから。子供たちは言ってくれてたんだけどね、やろうって。でもうちは貧乏だし、そんな余裕無かったから、ずっとお祝いはしなかったの」

「そっか。・・・それじゃあまた、俺様がガキ共と一緒に、来年も祝ってやるよ。美羽の誕生日」

「そう? ありがとう。期待せずに待ってる」

「そんな事言わずに期待しとけ。来年はもっと凄いパーティーにしてやるから」

「気持ちだけもらっとく。ホントにありがと、王雅」

 穏やかで優しい微笑みを向ける女神のようなお前に、俺の心はまっしぐらだぜ。
 このまま押し倒してーな。でも、そんなことしたら、やっぱまたビンタかな。
 ・・・・それはイヤだな。

「そうだ。さっき渡しそびれたプレゼントだ。花束とそれから―――・・・・」

 豪華な花束を美羽に渡し、ジャケットのポケットからプレゼントを取り出して、彼女に見せた。「俺様からのプレゼントだ。受け取れよ」

「開けていい?」

「いいぜ」

 っつーか、感想、聞きてーし。
 丁寧に包み紙を剥がし、中を見る美羽。箱を開け、スペシャルオーダーの指輪を見て驚いている。細い指に、きっと似合うだろう。宝石は小さくしておいてよかった。

「・・・・こんな高価なもの、貰えない」美羽はため息をついた。

「なんでっ!?  俺のキモチだ。ありがたく受け取れ。・・・・っつーか、ソレ、お前の右薬指の予約用だし」

 さらっとだけど、自然に言ってやったぜ!
 前のオニギリ作ってる時に言ったプロポーズもどきとは違って、カッコもついてるだろ。
 どうやって言ったらスムーズに、かつ自然に言えるか、俺様とあろう者が、昨日あれこれシュミレーションしたんだ。かなりキマってただろ。
 しかも、婚約指輪まであるんだぜ!
 それより美羽、どーすんのかな。やっぱ、こんなイイ男にプロポーズされたんだ。驚きすぎて声も出ないのか。カワイイ奴め。これからは、俺様の腕の中でもっと可愛がってやるぞっ。


 暫く沈黙が流れた。
 ヤベー。心臓が破裂しそうにドキドキ高鳴ってやがるぜ!
 しかし、返ってきた言葉は、俺を地の果てまでに蹴落とし、叩きのめす一言だった。


「王雅の気持ちは嬉しいけど・・・・でも、恭ちゃんのことやっとふんぎりついたところだし、今すぐには、そういう事考えられない。ごめん」

 な、ななな、なんだとーっ!?
 オーマイガっ!


 お、おおお俺様のプロポーズ、こ、こ、断りやがったああああああ――――!!



「そっ・・・・そんな事言うなよ。この前は前向きに考えるって言っただろ」

 焦って声が上ずった。
 頼むぜ、マジ。
 俺、ホントにホントに、一度だって女に断られたことねーんだよ。
 金持ち、ルックス良し、性格サイコーの俺様がプロポーズしてやってんだ!
 どー考えても優良物件だし、断る理由なんて、ねーだろっ!
 ありがたく受け取るのが当然だろ――っ! なあ、オイ!?

「だから、今すぐは考えられないの。それに、私みたいに思い通りにならない貧乏人が珍しいだけなんでしょ――・・・・」

「スト―――ップ!」話出した美羽の言葉を遮った。



 もうこれ以上聞きたくねえ!!




「前から言ってるけど、俺はお前が気に入ったんだって!! 何度も言わせるな。それに、焦らせたんなら、返事は今すぐじゃなくていい! お前が良いって思うまで、返事は待ってやるから、それは預かっててくれ。折角のプレゼントなんだからな。でも、もしどうしても要らねーっつーんだったら、売れ。金に換えて、貧乏施設の足しにしろよ。返されたって俺は使えないし、困るから。とにかく返品不可だ。じゃな!」

「あ、ちょっと・・・・」

 俺は早口でまくし立てて美羽に指輪を押し付けると、わき目も降らずに施設を飛び出した。
 もう、これ以上惨めになりたくなかった。
 こんなに一人の女に振り回されて、一喜一憂して、アイツの一言にショック受けてるなんて。


 こんなことは全部初めてだった。
 プロポーズだって、断られるとは夢にも思わなかった。


 予定より早く施設をでたもんだから、仕方なく大通りの方まで歩いた。リムジンを呼び出し、車に乗り込んだ。その足でヤケ酒でもしてやろうとクラブに行くつもりが、何故か行く気になれなかった。
 オンナも、もう欲しくなかった。


 美羽しか要らない。欲しくない。


 オイ、美羽。どーしてくれんだよ。
 俺の心、お前のコロッケスマイルでいっぱいなんだ。
 幾ら追い出そうとしても、ダメなんだ。もう、お前じゃないと。




 だからさ、お前の笑顔ごと全部、俺に売ってくれよ――――・・・・





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