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スマイル10・恋の病
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次の日、俺はまた施設へと足を運んだ。
いい加減会社の仕事しなきゃいけねーけど、どうにも美羽に逢いたくて仕方ない。
これが恋の病というやつか?
この年になって、そんな病気にかかっちまうなんて、ヤバすぎるだろ。
今までは、モテまくりの人生送ってきたからな。放っておいても女の方から寄ってきたんだ。
それなのに、今はどうだ!?
惚れた女に振り向いてもらう方法が解らなくて困ってる、という情けない事態だ。
こんな悩み、誰にも相談できねーし!
どーすりゃいーのかわかんねーから、とりあえず毎日施設通いだ。
そういや飲みに行くことも、女抱くことも無くなったな。
さっさと美羽とどーにかなんねーと、いろんな意味で俺の身体がどーにかなっちまいそうだぜ!!
そんな事を考えながら施設に入ると、ガキ共の手厚い歓迎があった。
ガキにモテても仕方ねーんだけど、美羽を攻略するには、まずコイツ等から手中に収めなければならない。
「お前ら、元気してたか。今日は土産があるんだぞ」
賄賂は忘れちゃいけねえ。
大人数でも食べられる高級クッキー詰め合わせセットをガキ共に渡すと、大喜び。
ああ、美羽もこんくらい喜んでくれたらいーんだけど。
「王雅お兄さん!」
ガキ共は早速施設めがけて走っていったが、リカだけがその場に佇み、じっと俺を見つめていた。
「ごめんなさい、昨日は王雅お兄さんに怪我させちゃって・・・・」
今にも泣き出しそうな顔のリカに、俺は超優しいスマイルを湛えて言った。「大丈夫。あんなの、怪我のうちに入らねーし、それにリカ、お前に怪我なくて良かったぜ」
「王雅お兄さん・・・・」
「可愛いリカに何かある方が、俺にとっちゃ辛い。あんなのなんでもねーから、もうリカが気にすんなよ」
ぽん、と優しく頭を撫で、俺は再びスマイル。
フッ、決まったぜ。
これで「王雅お兄さん優しーい!」→「ミュー先生、優しくてステキな王雅お兄さんとラブラブしなきゃ~」なんてもてはやすに違いねえ。
女子はそーゆーの、好きだからな。
とにかく美羽に気に入られるには、先ずガキ共からだ!
この俺が、こんなに努力してやってんだ!
絶対、なんとしても、結果を出す!!
俺は持って来た花束を握り直し、施設のボロい窓に映った自分の姿を再確認し、髪型や服装が乱れてないかチェックして、美羽の仕事部屋に向かった。
もうすぐ彼女に逢えると思うだけで、メチャクチャ嬉しい気分になるのだ。
恋するということは、恐ろしいものだ。
この俺様を、こんなにさせちまうんだからな。
美羽の仕事部屋の前に着くと、ガキ共が中からわらわらと出てきた。
恐らく、さっき俺がやった賄賂(クッキー)を渡し終わったのだろう。ということは、俺が来たことも知ってるという事か。
そういや昨日は、俺達の関係にかなりの進展があった筈だ。
Aもしたし、Bもしたし、アイツの悩み聞いて、元気付けた!
いい加減俺に惚れる頃だろう。そろそろCもしたいしな。
扉をノックして「俺だ」と告げ、返事も聞かずに部屋に入った。
「よお」
「あら。また来たの」
美羽は俺の方を見向きもせず、それだけ言ってのけた。
・・・・これが噂のツンデレってやつか!?
っつーかよ、普通「あ、王雅、おはよう! 来てくれて嬉しいわ(はーと)」だろーが!!
何だよ、また来たの、ってのは!
来ちゃわりーのかよ!!
「来ちゃわりーのかよ!!」
思わず、思ってた事を口に出しちまった。
はっ、イカンイカン。短気を起こすな。
優しく、だ。とにかく優しい男を演じろ、櫻井王雅!! ガンバレ、俺!!
「コホン。まあ、いい。それよりホラ、これ、お前に」
俺は、持っていた花束を美羽に渡そうと近づいた。
しかし美羽は、それでも俺には見向きもせずに、ノートになにやら書き込みながら言った。「有難う。置いといて」
オーマイガ!!
何だそりゃ!? 置いといて、だと?
普通、持ってきたもの見るだろーが! 見て感激して、王雅有難う、嬉しいわ、だろーが!!
この花買うのに、この俺様がどんだけ悩んだと思ってんだ!
くっそー、バカにしやがって!
いや、でも、ガンバレ、俺!
この試練を乗り越えりゃ、晴れて好き放題してやるんだ。
それまでの辛抱だ。
クソッ・・・・!
×××や××××な事して、あんな××やそんな××する時、泣いても絶対赦してやんねーからなっ!!
「そりゃないだろ。お前の為に選んできた花だ。見てくれよ」
「今、忙しいの」
会話、終了!
とりつくシマもなし。
っつーか俺、この女のどこが好きなんだ!?
何かもう、よく解らなくなって来た!
この小説、ホンキで終わるのかどうかも怪しい気がしてきた!!
口で言っても解らないなら、実力行使だ!
俺は持っていた花束を窓辺の淵に置いた後、美羽の背後に回りこみ、彼女をぎゅっと抱きしめた。
サラサラのロングヘアーからは、シャンプーの良い匂いがする。
ああ、抱きてえ。このまま抱きてえー!!
「つれないこと言うなよ、美羽」
「アンタ、またシバかれたいの?」
「そんな訳ねーだろ。お前に逢いたかったんだ。なあ、キスしてもいー?」
「イ・ヤ」
「・・・・じゃ、どうしたらいいんだ? 俺、このままじゃ、夜も眠れない」
「とにかく邪魔しないで」
「ずっと何を書いてんだ? そんなに忙しいなら、俺が手伝ってやるぞ」
「家計簿の捻出が大変なの! 今月一人、新しく施設に来た子が居るし、やりくりをちゃんと考えておかなきゃいけないから、ものすごーく忙しいの! 節約メニュー(献立)も考えなきゃいけないから、邪魔しないで。私、アンタみたいにヒマじゃないから」
「・・・・俺だって忙しいんだがな、お前の為に仕方なく・・・・じゃなくて、折角時間作ってやってんだから、喜べよ。それに、金が要るんだったら、遠慮せずに相談しろよ。俺が援助してやるぞ」
「結構です」
「ボランティアだったら受け取るだろ? じゃ、俺がそのボランティアになってやる。最近善意の第三者がボランティア活動するの、流行ってるからな」
「見返りに身体よこせっていうセコイ男がくれるお金なんか、要りません」
ガ ビ ー ン !!
なっ・・・・いや、それは本当の事だけどよ。
否定できねーけどよ。
っつーか、今でもメチャクチャ欲しいし、お前の身体。いや、身体だけじゃなくて心も!
売ってくれるんなら、 幾らでも払うし。
でも、金の力でどうこうするってのは、キャンセルしただろーが!!
だから、そんな風に言わなくてもいいだろっ!!
もーっ! どーすりゃいいんだよっ!!
「参ったな。美羽、お前俺のこと・・・・どう思ってんだよ? そんな風につれなくしないでくれよ」
この俺様が、こんなに下手に出て優しく言ってやったんだ。
何かしらのリアクションはあんだろ。
王雅、好きよ、とか、王雅、今まで辛く当たってゴメンネ、とか!
「アンタの事? ・・・・別に、何とも。ていうか邪魔」
ガ ビ ー ン !! 第二弾!!
この・・・・女・・・・・!!
本当に、金の力でねじ伏せられるなら、幾らでも払ってやるっつーのに!
俺、生まれて初めてかも。こんな邪険に扱われたの。
今まではチヤホヤされまくってきたからな。ま、容姿もいーけど、金もあるからな。放っておいても向こうから媚売ってくる。それは女だけじゃなく、男も同じだけど。
でも、美羽だけは違う。
どーすりゃいーんだ・・・・。
どーやったら手に入るんだ・・・・・・。
「解った。今日は退散しよう。また、逢いにくる。俺に逢いたくなったら、何時でもラブコールくれよ。ホラ、これ俺の名刺。ケータイ番号も載ってるから。大事に取っておいてくれ」
机の上に会社で使用している名刺を置き、くるりときびすを返した俺にミューの声が届いた。「・・・・ねえ、何のつもり?」
「何がだよ」
おっと、振り向きざまに極上スマイルは忘れちゃいけねえ。俺は歯を見せて微笑んだ。
「よからぬ事でも考えてるんじゃないの? 急に優しくなったり、歯の浮くような台詞言ったり・・・・気持ち悪いんだけど」
「きっ・・・・気持ち悪い!?」
俺の極上スマイルは凍りついた。
「そんな無理して私に好かれようとしなくても、普段どーりでいいって。アンタがそんなキザなのって、変」
更に、「変」扱い!
どーなってんだ、この女!?
「何時もみたいに王様でエラソーにふんぞり返ってる方が、アンタらしいって事よ」
そう言って、何時ものスマイル。
俺の心を熱くさせる、極上のコロッケスマイル。
ああ・・・・もう、我慢の限界だ!!
「じゃ、普段どーりで行く。俺もこんな堅苦しいの、自分でも似合わねーと思うしな」
俺は美羽の傍までやって来て、彼女が座っている背もたれ付きの椅子に囲い込むようにして追い詰める。彼女の逃げ場を完全に絶った。
「好きだ、美羽。俺をこんな気持ちにさせた責任を取れ。逃がさない、絶対」
そのまま俺は強引に唇を奪った。腕を取り、抵抗できないように彼女にのしかかる。
口内に舌を滑り込ませると、案の定思い切り舌を噛まれたが、かまわねえ。絶対、離してやらねー。
イヤというほど口内を犯しつくした後に唇を開放し、顔を赤くして荒い息を吐いている美羽の耳元で囁いた。「この俺をここまでホンキにさせたんだ。お前が本当に俺のモノになるまで、ずっとこうしてやる。覚悟しとけ」
「知らないわよ、そんなのっ!! 勝手にアンタが私に付きまとってるだけじゃない!」
「この俺が手に入れるっつったら、手に入れるんだよ。覚悟しとけ」
「こんな事ばっかりして、迷惑なのっ。忙しいって言ってるのに!」
「知るか。俺のしたいようにしてるだけだ」
ゴチャゴチャと言い争いになった。
いつものパターンだ。
でも、それが楽しいな。
こんな訳の解らんやり取りでさえ、面白く感じているんだ。
今までには無かった事ばかりだ。
コンコン
美羽と言い争いをしていると、ノックの音がした。「王雅お兄さん、いますか?」リカの声だ。
「ふっ、モテる男はこれだから忙しい。ちょっと待ってろよ。すぐ戻ってきてやるから」
「もう戻ってこないで」
「そんなに俺と離れたくないんだな。待ってろ、すぐ用事済ませてくるから」
今後、俺は一切美羽の言葉を無視することにした。
アイツの言う事をイチイチ聞くから、腹が立つんだ。無視するのが一番だ。俺は、俺のやりたいようにやる。それが、王雅流だ。
俺は美羽の仕事部屋を後にし、リカの前に立った。「どうした、リカ?」
「お兄さん、ミュー先生のお部屋から全然出てこないから・・・・あの、お兄さんに、お話があって・・・・」
「ん、何だ、話って?」
「・・・・ここではちょっと・・・・あの、来てください」
リカに手を引っ張られて、施設内になる人気の無い部屋一室の隅に連れて行かれた。
「あの、王雅お兄さん・・・・私を庇ってくれて、有難う御座いました」
リカが深々と頭を下げる。
「あ、ああ、別に、そんな事改めて言わなくてもいーぜ。可愛いリカを護るのは、男として当然だろ」
「お兄さんに怪我までさせてしまって・・・・本当にごめんなさい」
「ん、だから、別に、大丈夫だって」
「だから私・・・・責任を、取ります」
「責任?」
「はい。私を、王雅お兄さんのお嫁さんにしてください」
・・・・・
・・
ん?
今、よめ、っつったよな?
「リカ、お前何言って――」
「ホンキですっ! 私、お兄さんの為に何でもします!!」
ホンキです、と言われても。
頭痛がしてきた。
「私・・・・初めて逢った時から、お兄さん優しくてステキな王子様みたいな人だなって思ってて・・・・あの、だからっ、私、王雅お兄さんの事、す・・・・」
俺は、彼女の身長に合わせてしゃがみこみ、自分の人差し指をそっと小さな唇に当てて、彼女の言葉をさえぎった。彼女の顔がみるみる真っ赤に染まっていく。
子供が大人に告白するだけでも相当勇気がいるだろうに。
何時もの俺様だったら相手にしないところだが、今はそうしちゃいけねえ。
ちゃんと、優しい『お兄さん』を演じて、コイツを傷つけないように気を使わなきゃいけねえ。
じゃないと、きっと美羽がこいつの為に悲しむだろうから。
美羽が泣いたり傷ついたりするのは、もうイヤだから――・・・・
「それ以上は、女のお前に言わせる訳にはいかねーな」
リカは黙って硬直している。
「有難う。お前みたいな可愛い女にそんな風に言われたら、流石の俺もドキドキするぜ。・・・・でもな。お前と俺じゃ、年が離れすぎてるだろ? お前が一人前の女になるまで待ってたら、俺はもういー歳したオッサンになっちまう。そんなオッサンでも、お前は同じ事言ってくれるか?」
彼女は頷いた。真っ赤な顔をして、震えている。
「でもな、ゴメン。俺、お前の先生――美羽先生の事が大好きなんだ。俺、沢山の女と出逢ってきて、こんな気持ちになったのは、生まれて初めてなんだ。今は、美羽先生以外の女の事は考えられねー。美羽先生が、スゲー好きなんだ。だから、今はお前の気持ちを素直に受け取る事はできないけど・・・・でも、美羽先生と上手く行かなかった時は、お前の事、オッサンになっても待っててやるよ」
「・・・・やっぱり、子供じゃ、ダメなんですね」
「そうじゃねーよ。たまたま、俺が先に美羽先生を好きになっちまった・・・・それだけだ。フリーで好きなやつも居なかったら、きっとお前に惚れてた。間違いねえよ」
極上スマイルで、微笑んだ。漫画描写なら、俺の背景にはきっとバラやらフラッシュやらが散りばめられているに違いねえ。ま、俺には珍しく、そんくらいさわやかに、って事だ。
その後、リカをそれとなく遊戯室へ連れて行き、ガキ共の輪に溶け込ませた。
何とかごまかせたかな?
それにしても、あちこちで恋の病が発病中とは。
このまま美羽にも伝染して、俺の事が好きになってくれたらいーのに、とか思っている時点で俺様も病んでるな。
しかし、これからは俺のスキホーダイ、やりたいホーダイにやってやる!
イケナイコトすんのも、もう時間の問題か!?
何にせよ、あと一押しだ。
美羽、見てろよ。
絶対に俺のことが好きだと言わせてやるぜ!!
いい加減会社の仕事しなきゃいけねーけど、どうにも美羽に逢いたくて仕方ない。
これが恋の病というやつか?
この年になって、そんな病気にかかっちまうなんて、ヤバすぎるだろ。
今までは、モテまくりの人生送ってきたからな。放っておいても女の方から寄ってきたんだ。
それなのに、今はどうだ!?
惚れた女に振り向いてもらう方法が解らなくて困ってる、という情けない事態だ。
こんな悩み、誰にも相談できねーし!
どーすりゃいーのかわかんねーから、とりあえず毎日施設通いだ。
そういや飲みに行くことも、女抱くことも無くなったな。
さっさと美羽とどーにかなんねーと、いろんな意味で俺の身体がどーにかなっちまいそうだぜ!!
そんな事を考えながら施設に入ると、ガキ共の手厚い歓迎があった。
ガキにモテても仕方ねーんだけど、美羽を攻略するには、まずコイツ等から手中に収めなければならない。
「お前ら、元気してたか。今日は土産があるんだぞ」
賄賂は忘れちゃいけねえ。
大人数でも食べられる高級クッキー詰め合わせセットをガキ共に渡すと、大喜び。
ああ、美羽もこんくらい喜んでくれたらいーんだけど。
「王雅お兄さん!」
ガキ共は早速施設めがけて走っていったが、リカだけがその場に佇み、じっと俺を見つめていた。
「ごめんなさい、昨日は王雅お兄さんに怪我させちゃって・・・・」
今にも泣き出しそうな顔のリカに、俺は超優しいスマイルを湛えて言った。「大丈夫。あんなの、怪我のうちに入らねーし、それにリカ、お前に怪我なくて良かったぜ」
「王雅お兄さん・・・・」
「可愛いリカに何かある方が、俺にとっちゃ辛い。あんなのなんでもねーから、もうリカが気にすんなよ」
ぽん、と優しく頭を撫で、俺は再びスマイル。
フッ、決まったぜ。
これで「王雅お兄さん優しーい!」→「ミュー先生、優しくてステキな王雅お兄さんとラブラブしなきゃ~」なんてもてはやすに違いねえ。
女子はそーゆーの、好きだからな。
とにかく美羽に気に入られるには、先ずガキ共からだ!
この俺が、こんなに努力してやってんだ!
絶対、なんとしても、結果を出す!!
俺は持って来た花束を握り直し、施設のボロい窓に映った自分の姿を再確認し、髪型や服装が乱れてないかチェックして、美羽の仕事部屋に向かった。
もうすぐ彼女に逢えると思うだけで、メチャクチャ嬉しい気分になるのだ。
恋するということは、恐ろしいものだ。
この俺様を、こんなにさせちまうんだからな。
美羽の仕事部屋の前に着くと、ガキ共が中からわらわらと出てきた。
恐らく、さっき俺がやった賄賂(クッキー)を渡し終わったのだろう。ということは、俺が来たことも知ってるという事か。
そういや昨日は、俺達の関係にかなりの進展があった筈だ。
Aもしたし、Bもしたし、アイツの悩み聞いて、元気付けた!
いい加減俺に惚れる頃だろう。そろそろCもしたいしな。
扉をノックして「俺だ」と告げ、返事も聞かずに部屋に入った。
「よお」
「あら。また来たの」
美羽は俺の方を見向きもせず、それだけ言ってのけた。
・・・・これが噂のツンデレってやつか!?
っつーかよ、普通「あ、王雅、おはよう! 来てくれて嬉しいわ(はーと)」だろーが!!
何だよ、また来たの、ってのは!
来ちゃわりーのかよ!!
「来ちゃわりーのかよ!!」
思わず、思ってた事を口に出しちまった。
はっ、イカンイカン。短気を起こすな。
優しく、だ。とにかく優しい男を演じろ、櫻井王雅!! ガンバレ、俺!!
「コホン。まあ、いい。それよりホラ、これ、お前に」
俺は、持っていた花束を美羽に渡そうと近づいた。
しかし美羽は、それでも俺には見向きもせずに、ノートになにやら書き込みながら言った。「有難う。置いといて」
オーマイガ!!
何だそりゃ!? 置いといて、だと?
普通、持ってきたもの見るだろーが! 見て感激して、王雅有難う、嬉しいわ、だろーが!!
この花買うのに、この俺様がどんだけ悩んだと思ってんだ!
くっそー、バカにしやがって!
いや、でも、ガンバレ、俺!
この試練を乗り越えりゃ、晴れて好き放題してやるんだ。
それまでの辛抱だ。
クソッ・・・・!
×××や××××な事して、あんな××やそんな××する時、泣いても絶対赦してやんねーからなっ!!
「そりゃないだろ。お前の為に選んできた花だ。見てくれよ」
「今、忙しいの」
会話、終了!
とりつくシマもなし。
っつーか俺、この女のどこが好きなんだ!?
何かもう、よく解らなくなって来た!
この小説、ホンキで終わるのかどうかも怪しい気がしてきた!!
口で言っても解らないなら、実力行使だ!
俺は持っていた花束を窓辺の淵に置いた後、美羽の背後に回りこみ、彼女をぎゅっと抱きしめた。
サラサラのロングヘアーからは、シャンプーの良い匂いがする。
ああ、抱きてえ。このまま抱きてえー!!
「つれないこと言うなよ、美羽」
「アンタ、またシバかれたいの?」
「そんな訳ねーだろ。お前に逢いたかったんだ。なあ、キスしてもいー?」
「イ・ヤ」
「・・・・じゃ、どうしたらいいんだ? 俺、このままじゃ、夜も眠れない」
「とにかく邪魔しないで」
「ずっと何を書いてんだ? そんなに忙しいなら、俺が手伝ってやるぞ」
「家計簿の捻出が大変なの! 今月一人、新しく施設に来た子が居るし、やりくりをちゃんと考えておかなきゃいけないから、ものすごーく忙しいの! 節約メニュー(献立)も考えなきゃいけないから、邪魔しないで。私、アンタみたいにヒマじゃないから」
「・・・・俺だって忙しいんだがな、お前の為に仕方なく・・・・じゃなくて、折角時間作ってやってんだから、喜べよ。それに、金が要るんだったら、遠慮せずに相談しろよ。俺が援助してやるぞ」
「結構です」
「ボランティアだったら受け取るだろ? じゃ、俺がそのボランティアになってやる。最近善意の第三者がボランティア活動するの、流行ってるからな」
「見返りに身体よこせっていうセコイ男がくれるお金なんか、要りません」
ガ ビ ー ン !!
なっ・・・・いや、それは本当の事だけどよ。
否定できねーけどよ。
っつーか、今でもメチャクチャ欲しいし、お前の身体。いや、身体だけじゃなくて心も!
売ってくれるんなら、 幾らでも払うし。
でも、金の力でどうこうするってのは、キャンセルしただろーが!!
だから、そんな風に言わなくてもいいだろっ!!
もーっ! どーすりゃいいんだよっ!!
「参ったな。美羽、お前俺のこと・・・・どう思ってんだよ? そんな風につれなくしないでくれよ」
この俺様が、こんなに下手に出て優しく言ってやったんだ。
何かしらのリアクションはあんだろ。
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「アンタの事? ・・・・別に、何とも。ていうか邪魔」
ガ ビ ー ン !! 第二弾!!
この・・・・女・・・・・!!
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でも、美羽だけは違う。
どーすりゃいーんだ・・・・。
どーやったら手に入るんだ・・・・・・。
「解った。今日は退散しよう。また、逢いにくる。俺に逢いたくなったら、何時でもラブコールくれよ。ホラ、これ俺の名刺。ケータイ番号も載ってるから。大事に取っておいてくれ」
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「何がだよ」
おっと、振り向きざまに極上スマイルは忘れちゃいけねえ。俺は歯を見せて微笑んだ。
「よからぬ事でも考えてるんじゃないの? 急に優しくなったり、歯の浮くような台詞言ったり・・・・気持ち悪いんだけど」
「きっ・・・・気持ち悪い!?」
俺の極上スマイルは凍りついた。
「そんな無理して私に好かれようとしなくても、普段どーりでいいって。アンタがそんなキザなのって、変」
更に、「変」扱い!
どーなってんだ、この女!?
「何時もみたいに王様でエラソーにふんぞり返ってる方が、アンタらしいって事よ」
そう言って、何時ものスマイル。
俺の心を熱くさせる、極上のコロッケスマイル。
ああ・・・・もう、我慢の限界だ!!
「じゃ、普段どーりで行く。俺もこんな堅苦しいの、自分でも似合わねーと思うしな」
俺は美羽の傍までやって来て、彼女が座っている背もたれ付きの椅子に囲い込むようにして追い詰める。彼女の逃げ場を完全に絶った。
「好きだ、美羽。俺をこんな気持ちにさせた責任を取れ。逃がさない、絶対」
そのまま俺は強引に唇を奪った。腕を取り、抵抗できないように彼女にのしかかる。
口内に舌を滑り込ませると、案の定思い切り舌を噛まれたが、かまわねえ。絶対、離してやらねー。
イヤというほど口内を犯しつくした後に唇を開放し、顔を赤くして荒い息を吐いている美羽の耳元で囁いた。「この俺をここまでホンキにさせたんだ。お前が本当に俺のモノになるまで、ずっとこうしてやる。覚悟しとけ」
「知らないわよ、そんなのっ!! 勝手にアンタが私に付きまとってるだけじゃない!」
「この俺が手に入れるっつったら、手に入れるんだよ。覚悟しとけ」
「こんな事ばっかりして、迷惑なのっ。忙しいって言ってるのに!」
「知るか。俺のしたいようにしてるだけだ」
ゴチャゴチャと言い争いになった。
いつものパターンだ。
でも、それが楽しいな。
こんな訳の解らんやり取りでさえ、面白く感じているんだ。
今までには無かった事ばかりだ。
コンコン
美羽と言い争いをしていると、ノックの音がした。「王雅お兄さん、いますか?」リカの声だ。
「ふっ、モテる男はこれだから忙しい。ちょっと待ってろよ。すぐ戻ってきてやるから」
「もう戻ってこないで」
「そんなに俺と離れたくないんだな。待ってろ、すぐ用事済ませてくるから」
今後、俺は一切美羽の言葉を無視することにした。
アイツの言う事をイチイチ聞くから、腹が立つんだ。無視するのが一番だ。俺は、俺のやりたいようにやる。それが、王雅流だ。
俺は美羽の仕事部屋を後にし、リカの前に立った。「どうした、リカ?」
「お兄さん、ミュー先生のお部屋から全然出てこないから・・・・あの、お兄さんに、お話があって・・・・」
「ん、何だ、話って?」
「・・・・ここではちょっと・・・・あの、来てください」
リカに手を引っ張られて、施設内になる人気の無い部屋一室の隅に連れて行かれた。
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リカが深々と頭を下げる。
「あ、ああ、別に、そんな事改めて言わなくてもいーぜ。可愛いリカを護るのは、男として当然だろ」
「お兄さんに怪我までさせてしまって・・・・本当にごめんなさい」
「ん、だから、別に、大丈夫だって」
「だから私・・・・責任を、取ります」
「責任?」
「はい。私を、王雅お兄さんのお嫁さんにしてください」
・・・・・
・・
ん?
今、よめ、っつったよな?
「リカ、お前何言って――」
「ホンキですっ! 私、お兄さんの為に何でもします!!」
ホンキです、と言われても。
頭痛がしてきた。
「私・・・・初めて逢った時から、お兄さん優しくてステキな王子様みたいな人だなって思ってて・・・・あの、だからっ、私、王雅お兄さんの事、す・・・・」
俺は、彼女の身長に合わせてしゃがみこみ、自分の人差し指をそっと小さな唇に当てて、彼女の言葉をさえぎった。彼女の顔がみるみる真っ赤に染まっていく。
子供が大人に告白するだけでも相当勇気がいるだろうに。
何時もの俺様だったら相手にしないところだが、今はそうしちゃいけねえ。
ちゃんと、優しい『お兄さん』を演じて、コイツを傷つけないように気を使わなきゃいけねえ。
じゃないと、きっと美羽がこいつの為に悲しむだろうから。
美羽が泣いたり傷ついたりするのは、もうイヤだから――・・・・
「それ以上は、女のお前に言わせる訳にはいかねーな」
リカは黙って硬直している。
「有難う。お前みたいな可愛い女にそんな風に言われたら、流石の俺もドキドキするぜ。・・・・でもな。お前と俺じゃ、年が離れすぎてるだろ? お前が一人前の女になるまで待ってたら、俺はもういー歳したオッサンになっちまう。そんなオッサンでも、お前は同じ事言ってくれるか?」
彼女は頷いた。真っ赤な顔をして、震えている。
「でもな、ゴメン。俺、お前の先生――美羽先生の事が大好きなんだ。俺、沢山の女と出逢ってきて、こんな気持ちになったのは、生まれて初めてなんだ。今は、美羽先生以外の女の事は考えられねー。美羽先生が、スゲー好きなんだ。だから、今はお前の気持ちを素直に受け取る事はできないけど・・・・でも、美羽先生と上手く行かなかった時は、お前の事、オッサンになっても待っててやるよ」
「・・・・やっぱり、子供じゃ、ダメなんですね」
「そうじゃねーよ。たまたま、俺が先に美羽先生を好きになっちまった・・・・それだけだ。フリーで好きなやつも居なかったら、きっとお前に惚れてた。間違いねえよ」
極上スマイルで、微笑んだ。漫画描写なら、俺の背景にはきっとバラやらフラッシュやらが散りばめられているに違いねえ。ま、俺には珍しく、そんくらいさわやかに、って事だ。
その後、リカをそれとなく遊戯室へ連れて行き、ガキ共の輪に溶け込ませた。
何とかごまかせたかな?
それにしても、あちこちで恋の病が発病中とは。
このまま美羽にも伝染して、俺の事が好きになってくれたらいーのに、とか思っている時点で俺様も病んでるな。
しかし、これからは俺のスキホーダイ、やりたいホーダイにやってやる!
イケナイコトすんのも、もう時間の問題か!?
何にせよ、あと一押しだ。
美羽、見てろよ。
絶対に俺のことが好きだと言わせてやるぜ!!
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