コロッケスマイル

さぶれ@6作コミカライズ配信・原作家

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スマイル3・オムライスとコロッケ

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 結局俺はアイツに無理矢理持たされた戦利品の御馳走を持ったまま、あちこち付き合わされた。

 そんで、施設に帰って来た。


 施設に戻ると、どっから沸いて来たんだよっつー位の数のガキがわらわらと現れて、俺達を取り囲んだ。



「お帰りなさーい!!」



 一斉に挨拶された。

 まるで、ヤクザの親分の帰りを歓迎する舎弟の様だ。



「はーい、みんなただいま! 今日の特売、ちゃんと買えたよ!」ミューが俺には見せてくれた事も無い様な笑顔を湛えて言うと、ガキ共が、ヤッター、と大騒ぎ。



 何だ?

 俺が持たされてる戦利品とやらは、何が入っているんだ?



――気になる。




「皆、お腹空いたでしょ? ゴメンねっ、すぐご飯にするから、お手伝いお願いね!」


 ミューはアイツ等と共に施設の中に消えて行く。


「ちょっとー、アンタも来なさいよー!」声だけが施設から聞こえて来た。


 何かガキ共より扱い悪くね?
 俺様がガキ以下って事かよ!? ムカツクな!!


「お兄さん、早く早くー!」


 ツインテールのガキと、坊ちゃん刈りのガキが俺を迎えに来た。
 背中を押され、手を握られて拉致られる。


「ミュー先生、お兄さん連れて来たよー!」


「有難う」ミューが二人に向かって微笑んだ。「じゃあ、皆でスプーン用意してくれる? お兄さんから包み受け取って、こっちにお願い」


 施設の食堂の椅子に案内され、座らされた。


「お兄さん、はい、どうぞ! お買い物手伝ってくれて、有難うございました」


 スプーンを手渡され、ボッチャン刈りのガキに礼を言われた。「あ、あぁ、別に。アイツに無理矢理持たされてただけだし」



 つーかさ。
 何で俺、こんなトコに座ってんだ?

 俺はコイツ等を追い払いに来たんだ!


「――オイっ、俺は・・・・」


 立ち上がって話を続けようと思ったら、ミューや他のガキ共が皿を持ってやって来た。
 皿の上には、オムライスとコロッケが乗っている。
 手分けしてそれぞれ同じものが一斉に配られ、大きなテーブルはオムライスとコロッケの乗った皿で埋め尽くされた。


「さぁ、皆で食べましょう! もう、手は洗いましたか?」


「はーい!」


「それでは今日も、楽しく生きている事と美味しいご飯が食べられる事に感謝して・・・・いただききます」


「いただきまーす!!」



 全員きちんと両手を揃えて、神様ありがとうございます、と一礼した後、おもむろに貧相な昼食を食べ始める。



「お兄さん、ちゃんと『いただきます』して、神様にお祈りしなきゃダメなんだよ」



 天然パーマが掛かったチリチリ頭――サルみたいなガキが、黙ってこの場を見つめている俺に説教を始めた。「ミュー先生のオムライス、美味しいんだよ! お兄さんも一緒に食べよう。ご飯は皆で食べたら、もっともっと美味しいんだよ!」


「あ、ああ・・・・」


 流石の俺も、ガキに向かって反論するのも気が引けたから、仕方なくあいつ等の真似をして祈るフリをした。



――ミュー、俺様に跪け、跪け×∞

 そんで、俺のものになれ、なれ、なーれ×∞・・・・



 神なんて信じた事も無いこの俺様が、神に向かって祈るワケない。

 俺はミューに思念が届くように願いを込めた。



 つーか、俺が神だ。


 だから、他のモノに祈っても仕方ない。

 全部実力と権力と金で何でも出来るんだ。


 そういう世の中なんだからな。


「はい、よく出来ました。もう食べてもいいですよ」サルガキが俺にOKサインを出す。


 オイ、なんでこの俺様が、お前に仕切られなきゃいけねーんだ。

 この施設追い出したら、痛い目見させてやる。
 それまでは我慢だ。

 俺ってエライな。こんな屈辱、普通耐えらんねーぜ。


 ガキがじっと見つめてるから、仕方なくオムライスを食べる事にする。
 一口食べると、ふんわりとした半熟卵の優しい味と、それに絡み合うデミグラスソースの絶妙な味わいが、俺の舌を刺激した。



 ・・・・美味い。



「お兄さん、美味しいでしょ」


「ああ、美味いな。どこのシェフが作ったんだ?」


「シェフ? えーっと、作ったのは、ミュー先生だよ! 美味しいでしょ? 今日はコロッケの特売日だから、オムライスが食べれるんだ! ずっと楽しみにしてたんだ~! あぁ~、美味しいっ」


 サルガキがオムライスのご飯粒を口にくっつけたまま、満面の笑みを零した。


 うん、味はいい。
 高級レストランで食べれるオムライスより、美味いかもしれない。

 で、あとコロッケだな。
 よし、そのコロッケとやらも食ってやろう。


 そう思って皿のドコを見ても、俺の皿にコロッケは乗ってない。


 っつーか、よく見ると他のガキ共のオムライスの皿にはコロッケ乗ってるのに、俺様の皿には乗ってねーじゃねーか!!



 差別?


 この俺様を?




 あ・り・え・ね――――っ!!




「おい、ミュー。俺様の皿にコロッケがねーぞ」


 別にコロッケなんかどーでもいいけど、差別された事に腹が立った。
 普通、この俺が優先だろ?


「仕方ないでしょ。アンタがつまらない話を持ってきて私を足止めさせるから、子供たちの分しかコロッケ買えなかったのよ」


 そういうミューの皿にもコロッケが乗ってない。
 するとさっきのサルガキがコロッケを半分に切って、俺の皿に置いた。「お兄さん、僕の半分あげるよ」

 するとミューの隣に座っていたツインテールのガキも「先生、私の半分あげる」と言って、ミューの皿に置いた。

 

「リカちゃん、有難う。リョウ君も」


 ツインテールのガキ(リカ)と、サルガキ(リョウ)が、ミューの満面の笑顔に応える様に、笑顔を零す。子供に向かって笑顔を向けているミューは、俺の方を向いた途端、険しい顔をする。「アンタも、ちゃんとリョウ君にお礼、言いなさいよ」



 絶対、俺の時とガキ共に接する態度、違うよな。


 腹立つ――――!!



「アリガトよ」



 またミューがうるさく言いそうだから、とりあえずリョウってガキに礼を言っておいた。


「全然いーよっ! こんなに美味しいご馳走、お兄さんだけ食べられないの、カワイソウだもん」


 そして、カワイソウ扱い。
 何だココの奴等は。皆して俺をカワイソウ扱いするな!


 コロッケだって、食べようと思えば幾らでも食べれるんだ。

 金、あるからな。

 家にコロッケ職人呼んで、たらふく食べれるんだ。羨ましいだろ。



 ・・・・って、ガキ相手に言っても仕方ねーし、そんな庶民の食い物、わざわざ職人呼んでまで食いたくねー。



 まあでも折角だから、とりあえず恵んで貰ったコロッケを食べる事にする。
 この俺がコロッケみたいな庶民の食い物を、しかもガキから恵んでもらう事になるなんて・・・・ホント、ありえねーづくしなんだけど。

 アレもコレも、全部ミューのせいだ!



 絶対、手に入れてやるからな。

 今に見とけ。



「んっ・・・・スゲー、美味い」



 一口頬張った瞬間、そんな言葉が勝手に口から出てた。

 コロッケとオムライスが本当に絶妙の味で。

 今まで食べた中で、一番美味かった。


 戦利品って、このコロッケの事だったんだな。

 コレは美味い。


「何だこのコロッケ! スゲー、美味いんだけど!」


 ミューに向かって、興奮して言った。

 ホント、美味い。

 こんなに美味いコロッケだったら、メチャクチャ高いんじゃねーのか!?


「そうなの。美味しいでしょっ、このコロッケ。しかも三個で百円の特売だから、発売した瞬間売り切れるのよ。だから、何時も急いで買いに行くの」


「ひゃ・・・・百円!?」


 一、十、百・・・・百円玉一枚コッキリかよ!
 しかも三個も入っているなんて!

 それでこんなに美味いのか?
 安すぎだろっ。価格破壊だ。
 レストランに行っても、こんなに美味いコロッケは食えねーぞ。



「そっ、百円! 安いけど美味しいでしょ? これ、私が作ったオムライスに不思議と良く合うの。今日はギリギリセーフだったから全員分買えなかったけど、こうやって皆で食べれて良かった!」



 ミューが、スッゲー嬉しそうに笑った。

 初めて、俺に笑いかけてくれた。








 ドキン








――ん? ドキン??



 なっ、何だ、今のはっ!!



 ドキン、て何だよ!




 それからの俺は、オムライスの味とか、コロッケの味とか、もう解らなくなってしまった。


 ただ、コロッケを美味しそうに食べるミューの笑顔が、頭から離れなくなってしまったから――・・・・






 ※




 
 それからミューは片付けを一人でこなし、ガキ共を全員を寝かしつけ、応接間で俺と向き合っていた。大変そうだったから、ちょっとだけ俺も手伝ってやった。
 ミューが入れてくれた紅茶を飲むと、家で飲む召使が淹れた紅茶より美味い気がした。

 何だコイツは。有名レストランのシェフでもやってたんじゃねーのか。


「今日は有難う。貴方が一緒にいてくれたお陰で、トイレットペーパー二つ買えたわ」



 トイレットペーパー?


 そんなに喜ぶことか、それ。

 俺にはよくわからん。



「トイレットペーパーなんか、どーして二つも買うんだよ」


「ああ。それはね、施設には沢山子供たちが居るから、すぐなくなっちゃうのよ。だから、安く買える時に沢山買っておきたいの」



 嬉しそうに笑うミューは、まるで子供達の母親のようだ。





 母親――か。





 きっと、こんなカンジなのかな。
 俺はずっと召使が世話をしてくれていたから、母親や父親と接した記憶が殆ど無い。
 ミューを見ていると、何故かそんなつまらない思い出が蘇った。

「それより、貴方って本当に変な男性(ひと)ね」ミューはクスっと笑った。「高慢でどうしようもない変態の割に、子供達に好かれるんですもの。施設の話付けに来た人が、私達と一緒にお昼ご飯食べちゃうなんて、ホント、信じられない」

「しょっ・・・・しょーがねーだろっ! お前が俺の話を聞かねーから、成り行きでこうなったんだ!! それより施設の立ち退き話――」

「貴方にだから言うけど、マサキ施設は私達にとって、本当に大切な場所なの」この俺が話している最中だというのに、途中で遮られた。ミューは真剣な顔を俺に向けてくる。

「路地裏だけど立地も良くて商店街も近いし、私達の楽しみのコロッケ特売もあるし、何かと便利なのよ。近所の人とも仲良くさせて貰って困った時は助けてくれるし、何より私の両親が遺してくれた、本当に大切な施設だから。他人にとったらボロで古くて汚い施設かもしれないけど、それでも大切なの。だから絶対にどんな嫌がらせされても、立ち退きしないから。私が、命懸けて守っていく」


「・・・・」


「そういう訳だからもう来ないでね。何度来ても、答えは一緒だから」



 こんなに強い意思を持って拒絶されたのは、初めてだった。



「・・・・今日の所は、昼飯に免じて帰ってやる。けどな、俺に水かけた上に頬まで叩いてくれた礼、きっちりお前の身体で返してもらうぜ。忘れんな」



 俺はそれ以上何も出来なくて、施設を後にした。






 難攻不落の城のように思えるこの施設。

 どうやって攻め落とそうか。





 これからの事を思うと、久々にため息が出た。
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