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スマイル1・水もしたたる俺様(イイ)男
しおりを挟む俺、櫻井 王雅(さくらい おうが)。
東京都心に大きなホテル・マンション・不動産・レストラン等、ありとあらゆる資産を持つ、金持ち。
ちなみに、一人息子だ。
王様のように優雅に、という意味を込めてこの名を授かった。
お陰で長身・ルックス最高。最強無敵の怖いものナシ。
逆らう者もナシ。言い寄る女は数知れず。
これだけの財産とルックスを持っていれば、何でも欲しいものが手に入る。
世の中平等って言うけど、アレはウソだな。
俺が法律だ。
俺が全てだ。
今までがそうだった。
けど
たったひとつだけ
この世に金では買えないものがある事を、知った。
※
「王雅様、今日は色々と有難う御座いました」
ホテルの総支配人に頭を下げられ、別に、と会釈を返して迎えに来たリムジンに乗り込んだ。
全くつまらん世の中だ。
俺を刺激的な世界へ導いてくれよ、たまには。
「今日は飲みに行くから、適当に車回してくれ」
運転手にそう告げて、ホテル建設予定プランの資料に目を通す。
ご大層な資料作りやがって。目を通すのもめんどくせー。
こんなの俺の気分次第で、建つか建たないかが決まるってのに。アホだな。
バサッ、と分厚い資料をリムジンのシートの上に放り投げ、ため息を吐く。
そういえば、ホテル建設予定地に邪魔な施設が建ってるんだっけ。
頑なに立ち退きしないとか言ってたな。
全く、何でこんな面倒な案件を俺に持ってくるんだ。
別の会社に持って行けよな。
とはいえ、俺が行けば詐欺師のような口ぶりで上手く丸め込み、そいつ等を立ち退かせるのが出来るのを解っているから、わざわざあのハゲ(さっきのホテルの支配人)は俺の所にやって来て頭をペコペコ下げるんだ。
そんな施設ごとき、俺がすぐ潰してやるさ。
まあ、退屈しのぎには丁度いいかも知れない。
とりあえず行きつけのクラブで飲むことにして、車を銀座方面に走らせた。
ゴージャスな内装、煌びやかな光で包まれた店内。
CLUB 雅-miyabi-
仕事の接待でよく使うクラブだった。
俺の名前の一文字が入っているから、という理由だけで贔屓にしている。
店なんて何処でもいいんだ。別に。
女が居て、ボーイが居て、ママが居る。
全部一緒だ。
ホント、世の中何時でも何処でも同じなんだ。
もっと代わり映えの無い日常ってのは無いのか。
何時ものVIP席に通され、革張りのソファーにふんぞり返っていると、雅のママが現れた。「これは王雅様、いらっしゃいませ」
斜め四十五度の角度できっちり頭を下げ、俺に挨拶をするママを見て会釈を返す。
「今日は新しい子が入店してますの。王雅様に紹介しますね。ミューちゃんって言うの」
こんばんは、とキョドりながら挨拶してきた女、ミュー。
少し大きめの瞳に、薄くて長い茶髪を巻髪にしてる女だ。
見た目、田舎から出てきたて。俺の第一印象。しかも、ドレスが全く似合ってない。着られてるってカンジ?
イモトロ(イモくさくてトロイ)そうな女だな。
ちょっとからかってやるか。
適当に会話しているとママが別の席に立っていったから、「ちょっと新人チャンと二人で話したいから」と今日の俺の席の担当の女に言い、女を下げさせた。
ミューは突然先輩ホステスが「ミューちゃん、王雅様がミューちゃん気に入ったみたいだから、後宜しくね」と言い残して席を去っていったので、ますますキョドってる。
オモしれー。
コイツ絶対、前世はどんくさいウサギだな。
「あっ・・・・あの・・・・初めまして。オウガさん、とおっしゃるのですか? 今日入店したばかりのミューです。どうぞ宜しくお願いします」
深々と頭を下げ、お辞儀をする。
「そんな堅苦しい挨拶はいーからさ。飲めよ」
「あっ、あの・・・・でも私、お酒飲めなくて・・・・」
「ハア? 酒が飲めねーだと? 知るか、そんな事。いいから飲めよ」
「は、はい・・・・」
ミューは仕方なく自分のグラスに、少量のブランデーを垂らし、それからごまかす様にしてウーロン茶を大量に入れてウーロン割りを作る。
おい、新人。それはどう見てもただのウーロン茶だろ。
「貸せよ、そんなチビチビ飲んだって美味くねーよ。ホラ」
俺は無理矢理ミューからボトルを取り上げ、コップに半分くらいブランデーを入れてやった。
乾杯を交わして、適当にハナシをする。
ミューのグラスが全然進んでないから、飲むように急かすと、しかめっ面したまま、濃いブランデーのウーロン割りを小さな口に流し込む。
コラ、新人。客の前でそんな顔して飲むなっつーの。
一本幾らするボトルの酒だと思ってんだ。
お前の給料じゃ、到底買えねーような額のブランデーだぞ!
有り難く思って飲め。
「なあ、ミュー」
俺はわざとミューの肩を抱いて、耳元で囁いた。「お前、処女?」
「えっ?」
見る間に真っ赤になって、大きな目を更に見開く。
クックック。男にも慣れてないのか。
そんなイモ娘が、何でこんなクラブなんかで働いてんだよ。
ホント、オモしれーなコイツ。今までに無いタイプだ。
極上の笑みを湛えて俺は言った。「お前、幾らだったらヤらせてくれる? 俺、処女好きなんだ。だって汚くねーだろ? 誰もツッ込んでねーんだから」
処女が好きな理由は、今言った通りだ。
汚くないから。
俺は何でも一番でないと気がすまない。
女もそうだ。
他の男とヤリまくった女なんて、別に抱けないことはないけど、他の男より後、というのがイヤだ。
それに、最近慣れた女とするのも飽きた。
処女は何かとメンドーだけど、俺が征服していく――手に入れているという支配欲に満たされるあの一瞬が好きだ。
ま、後はポイだけど、手切れ金たっぷり包んでやるんだ。別に文句はねーだろ。
「なぁ、ミュー、お前はい・く・ら・で・処・女・売・る・の?」
ミューは肩を震わせていた。
羞恥心でいっぱいなんだろう。こんなちょっとの下ネタとも言えないような会話で黙ってしまうなんて、夜の世界ナメんなよ。
そんなネンネでやっていけるような世界じゃないって事、俺が教えておいてやるよ。
「俺みたいなイケメンとできるんだぜ? 最高だろ? しかも金貰えるんだからさ。ラッキーだろ! 俺がお前の事、買ってやるよ」
ちょっと悪ノリしてからかいすぎかな、と思ったけど、別に俺は客なんだからいーだろ。
あーあ。泣いて辞めるかな?
ま、新人が今日一日で店を辞めた所で、別にこの店が困るわけでも何でもないんだ。
「・・・・ざけるな」
「はっ? 聞こえねーよ」
「ふざけるなっ、このセクハラ野郎っ!!」
バシャッ
キレたミューが、俺の顔面めがけて、水割り用のデキャンタに入った水をぶちまけた。
「おっ・・・・お前――」
バチン!
何するんだよ、と言いかけた次の瞬間、左頬に痛みが走っていた。
「女をバカにしないでよね! アンタみたいな男、たとえ一億円積まれたってお断りよ!! 男のクズっ、消えなさい!」
ガン、とデキャンタをテーブルに叩きつけ、ミューは席を立った。
「すみません、やっぱり私この仕事ムリです。今日で辞めさせて頂きます」
奥の方で呆然としているママに向かってぺこりと一礼すると、ミューはそのままスタスタと歩き出し、店の外に出て行った。
なっ・・・・
何なんだ、あの女――――!?
俺に水かけたどころか、頬にビンタかまして行きやがった!
誰にも叩かれた事の無いこの、俺様に向かって!!
「おっ、王雅様っ、誠に申し訳ありません!!」
ハッ、と我に返ったママが白いタオルを沢山持って、飛んできた。
「ああっ、王雅様のスーツが・・・・」
俺は、震えていた。
驚いた事にそれは怒りにではなく、別のワクワク感から来るものだった。
――あんな女が、居たんだ。
俺は笑った。
お気に入りの面白いオモチャ、見つけた子供のように。
「ママ、今日は帰るわ。また来るからさ、あのミューってヤツの履歴書、ちょーだい。今日の件はそれでチャラだ。――いいな?」
凄みを効かせるとママは何度も頷いて、すぐにミューの履歴書を持ってきた。
ホントなら個人情報漏洩になるから、店側としてはやりたくない行為だろうけど。
でも、俺は特別だからいーんだ。
断れば、この店が潰れるのは誰もが解っている事だから。
誰も俺には逆らえない。
誰も俺には手出ししない。
その誰もが越えることの出来ない垣根を、アイツはたった十分そこそこであっさり破って超えてきたんだ。
おもしれー。
おもしれーよ、ミュー!
絶対お前の事探し出して、俺に土下座して謝らせてやるよ。
そんで俺が、お前の処女、奪ってやる!
足腰も立たなくなるくらいにめちゃくちゃにして、捨ててやるから。
覚悟しとけ。
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