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9.遂に神原と対決!(ハラハラドキドキ)
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しおりを挟む「失礼致します」
玄関に足を踏み入れた。
「どうぞ。リビングの方へ。そちらのスリッパ、お使い下さい。杉浦さんの専用に購入しておきました」
戦闘靴(パンプス)を脱ぎ、真っ白で肌触りのよさそうな高級なスリッパに足を入れた。
柔らかいそれは、優しく肌を包んでくれる。心地よい肌触りだった。
こんな優しい靴があればいいのに――と、そう思った。履き心地のいい靴、お客様に喜んで貰える靴、そういうのがすぐに具現化して作れればいいな、と。
神原はシューズメーカーの社長だから、スリッパひとつでも履き心地の悪いものは買わないのだろう。まあ、高いお金を払えば、素晴らしく履き心地がいいものが手に入るだけなのかもしれないけれど。
いや・・・・でもこのスリッパ、いけるかも。
足元を見ると、白くてふわふわとしたお洒落なスリッパだという事しか解らない。
ブランド名等が書いてあればいいのだけれど。多分、その辺に売っているスリッパじゃない。
だから、そのフォルム、柔らかく包み込んでくれる肌触りのよさ、全てを五感で覚えておこう。
きっとフクシを退職する時、置き土産の新商品としてヒット商品に変身させられる筈だ。
相変わらず広くて無駄なものが一切ない空間に通され、ソファーに座るように言われた。
ソファーの方に近づくと、ガラステーブルの上に何やら書面が乗っているのが見えた。
何かの契約書と・・・・――婚姻届けだ。
いよいよ、契約させられるのか。
落ち着けたはず胃が、キリリと再び痛んだ。
「今日は他でもない、契約の事でご相談です」
「はい」
「まあ、緊張なさらないでおかけください。お飲み物はお茶で構いませんか?」
「はい。何でも結構です」
事務的に告げた。心を見せなくていい。私は、神原の操り人形に徹すればいい。
前回と同じように神原がお茶を淹れに行った。ゆったりとしたオープンキッチンに立ち、優雅な所為を見せる。
私にすれば、いけすかないので全ての動作が嫌味に見えるし、虫唾が走る。
やがて神原がこちらへやって来た。流石に前回のように隣には座らず、湯気の立つ高級そうな湯呑を私の前に置いてくれた。
毒でも入っているんじゃないかしら。睡眠薬とか。失礼ながらも、そんな風に考えた。できれば口をつけたくない。
「さて。結婚の話といきましょうか。杉浦さんに約束を反故にされないよう、契約書を交わしておきたい次第です」
やはりそうなのか。という事は、逆にこちらもこの契約書があれば、神原を抑え込めるという訳なのだな。
私は頷いた。
「この契約書――」
内容について説明を入れようとした神原を遮るように、ピンポーン、と室内にインターフォンの音が響いた。
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