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8.専務に呼び出され、社長と神戸に出張へ(緊張します)

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「高丸さんも行かれますか?」福士社長が高丸さんに尋ねた。

「いや、私は金型の作成がありますので、専務には申し訳ないですが、お断りの電話を後から入れておきます」

 高丸さんは苦笑いしていた。専務の強引なやり方に何時も振り回されるのは、今に始まった事じゃない。付き合いも長いから、慣れっこなのだろう。
 昔から浅岡商店とは取引があるから、スギウラでも父が無理難題な納期を言われたり、結構強引な所もあるからちょっと困る、という風にぼやいていた事を思い出した。でも、人情味の熱い方で、沢山面倒を見ている小売店や取引先が多く、浅岡専務は色々な人間から慕われている。

「そうですね。それでは高丸さんの代わりに、紗那も連れていく事にします。何やら大変お困りの様ですから、浅岡専務の力になりたいと思います」

「そうして頂けるとこちらも有難いです」

 高丸さんが安堵の笑みを浮かべた。私は社長から指名されて、ちょっとドキっとした。
 嬉しいと思ってしまう。顔が緩まないように気を付けなければ。


「シューズクリップのサンプルは、社の誰かに引き取りに来させますので、このまま置いておいてください。それでは、早速神戸に向かいます」


 段取りよろしく、と言われたので、早速社に連絡した。手の空いている営業が取りに来てくれることになり、私と社長は社用車で羽田空港へ向かった。運転は社長がしてくれた。


「紗那とデートぉー。超嬉しいぃー」


 飛行場へ向かう車内で、社長は陽気に鼻歌を歌っている。私と出かけられることが、そんなに嬉しいと思ってくれているのだろうか。
 言えないけど、私は社長が喜んでいるそれが嬉しかったりする。気を許すと頬が緩みそうになるから、気を引き締めておくのに苦労する。


「あの・・・・緊急の仕事で神戸に行くだけですが? デートではなく出張なのでは?」

「何を言っているんだ。好きな女と二人きりで遠方まで行くんだぞ。これはれっきとしたデートだ。親密度をあげるチャンスだろう」

「余計な事を考えないで、運転に集中して頂けますか?」

 身を乗り出して来て私に力説しようとするので、思わず冷ややかに言った。

「ふっふっっふ。聞いて驚く事なかれ。今日のラッキー占い、なんとおひつじ座が一位だったんだよ。今日は意中の人と急接近。焦りは禁物だけれど、たまには強引に攻めてみて。きっといい結果が訪れるでしょう。ラッキーランチは鶏のから揚げ。ラッキーナンバーは7。ランチじゃないけど、色々終わったら、美味いから揚げを食べられる所が神戸にあるんだ。夜の七時に、ディナー食べに行ってみるか?」

「・・・・いいですよ」

「うそっ!? ホント? あっ、やっぱり止めるって、取り消し無しだから! もういいですよ、って言ったから! 絶対絶対ぜーったい、から揚げ食べに行くからな!」

「その代わり、きちんと仕事が終わってからです。折角神戸に行くなら、私も美味しいから揚げ、食べたいです」

 社長と一緒に、ディナーに行けるなんて。それだけで嬉しいって思っちゃうのは、相当重傷だと思う。
 顔に出さないように、すましておいた。
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