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7.自分の気持ちを再確認(今更どうにもできない)
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しおりを挟む「お父さん、私は大丈夫だから。どうせ好きでもない男と結婚するなら、誰と結婚したって一緒よ」
「お前、福士社長の事はどう思っているんだ」
突然お父さんに見つめられたので、狼狽えてしまった。「べ、別にあんな人・・・・」
「紗那、今、自分がどんな顔しているか、解っているのか?」
「はっ、えっ、何がっ。別に私は、社長の事は何とも・・・・」
お父さんは無言で作業台に乗っている工具箱を自分の方へ引き寄せた。中を開けると、蓋の内側が鏡になっている。「見てみろ、自分の顔」
そこに映っていたのは、顔を赤らめて社長を思う私の姿だった。
「や、あの、こ、これはお父さんに急に言われたから、焦って、その、こういう顔になっただけで・・・・」
ジロリ、と父に睨まれた。「やっぱり福士社長が好きなんじゃねえか。それなのに何で、神原の所へ嫁に行こうなんて考えるんだ」
「べ、別にいいでしょ! 神原との結婚を決めたのは、社長が大切にしているフクシを守りたいからよ。スギウラだってそう。私一人で手打ちにしてくれるのよ。それでいいじゃない」
「よかぁない(よくない)」父は怒って引き下がらない。
「でも、考えてもみてよ。フクシが潰されるって事は、スギウラだってどうなるか解んないんだよ? お父さん、またあの地獄を見たい? 私はもう嫌。それに、もう一度倒産の危機があるなんてお母さんが知ったら、絶対にまた倒れちゃうよ。ね? ここだけの話にしておいて。お願いよ。福士社長にも絶対に言わないでね! 約束破ったら一生口きかないからねっ」
父は悔しそうに顔を歪め、ゴン、と拳を作業台に叩きつけた。
「お父さん、手を怪我しちゃう。そういう事は止めて」
「すまん。なんにも・・・・できねえで」
「何言っているの。家族の為に毎日朝早くから、夜遅くまで頑張って働いてくれているじゃない。ね、ビール飲もうよ、一緒に」
父との晩酌、私は好きだ。家を出るまでは、出来る限り毎日一緒にご飯を食べたり、お酒を飲んだりしよう。
「新商品の開発と秋の展示会が無事に終わったら、退職願を出すわ。秘書業務や私の仕事の引継ぎもしなきゃいけないし、フクシで年内いっぱい働いて、退職後に神原で働くわ。結婚も年明けにしてもらう。式を上げたら、すぐに家を出る事になると思うから。そういう風に交渉する。神原には、それまで待ってもらうから。いいアイディアでしょ?」
「・・・・もう、嫁になんか行くな。ずっと実家にいればいい。一生嫁(い)き遅れてろ」
「ひどー。彼氏の一人や二人さっさと連れてこいって言っていたのは、どこのだれ?」
「うるさい。気が変わったんだよっ」
プイ、とそっぽを向かれた。お父さんの横顔、少し・・・・目じりに涙が浮かんでいた。
娘を身売りさせるような事をさせてしまう、不甲斐ない自分を責めているのだろう。
「あ、お父さん。神原との会話、録音しておいたものをコピーしてこれからも渡していくから、何かの時の為に、預かっておいてくれるかな? まあ、そうそう使う事は無いと思うけれど」
「解った。預かっておく」
「ごめんね・・・・お父さんを悲しませて。でも、決めたの。私、神原からフクシとスギウラを守りたい。浅草の、未来の為に」
さなっ、とお父さんが小さく叫んだ。工場長らしいゴツゴツの手で、彼に抱きしめられた。すまん、すまん、と何度も繰り返す父の肩に手を回し、私もこっそり一筋だけ涙を流した。
吐き出したから、もういい。
私の事を解ってくれる家族が、スギウラがあるから。
今更よ。本当に今更。もう、どうにもできない――
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