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6.ピンチはチャンスと言うが、それは絶対に嘘だ(笑顔で乗り切れない!)
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メーカーの材料費や人件費やらをとことん抑え、神原の一人勝ち儲けになるしくみを作るつもりなのだ。
この男のシナリオは、きっとそうだ。
私に興味があるのではなく、スギウラの娘だから、欲しいだけ。彼の望みは、スギウラの技術。
だから、アンクレット不良も証拠はないけれど、きっと卑怯な手を使ってでっちあげたに違いない。
「もう少し考える時間をください。いきなり結婚してくれと言われても、心の準備もありますから」
「いいえ。一日だけは待って差し上げますが、それ以上は待てません。明日の夜までにお返事を頂けない場合、フクシを訴えます。いいですね?」
「・・・・解りました。また、明日改めて伺います」
「今日の所はお引き取り頂いて結構です。良い返事を期待しておりますよ」
神原社長が私の頬に触れた。ぞわぞわと嫌悪感しか湧かなかった。
それからすぐ、彼の住まいのマンションを後にした。
たった一日。
一日で、彼が不正を働いたという証拠を探せるのだろうか。
こんな時、どうして福士社長を思い出すのだろう。
紗那、ピンチはチャンスだ。どうにかなるから安心しろ――そんな風に笑って言う彼の顔が頭に浮かぶ。
でも、こんなピンチ、笑顔で乗り切れないよ。
しかも身売りしろとまで言われ・・・・。最悪だ。
神原に結婚を迫られ、更にあいさつ代わりとか言って、キスまでされたんだ。本当に最悪。今更思い出して、持っていたハンカチでゴシゴシ唇に付いたバイキンを拭い去った。
軽く触れるだけのキスだったけれど、私の初めてのキス。どうしてあんないけすかない男としなきゃならなかったんだろう。
だったら誰とすればよかったのかと考えると、ある男の顔が浮かんだ。
――福士成彰、だ。
「初めてのキスは・・・・社長としたかったな」
思わず呟いてしまった。
最近、彼の笑顔が頭から離れない。それだけではなく、真剣に仕事に取り組む姿勢や、時には大胆な企画、高丸さんと共同の商品開発で生き生きとした顔、どれも素敵だと思う。
今まで全然意識していなかったのに、急速に私の心に入り込んで、出・て・い・け、と追い払っているのに、ちっとも出て行ってくれない、思い通りにならない男。
私は彼に恋をしているのだろうか。
しかし今更社長への想いを認識したとて、どうにもならない。
解決の糸口を掴もうと必死に考案したが、何もいいアイディアは思いつかないまま、帰社した。
だったら受けるか? 神原の申し出を。
随分迷ったが、私の心は決まっている。フクシを助ける為なら、縁談を受ける方を選ぶ。
スギウラを救ってくれたフクシが訴えられて、会社が潰されてなくなってしまうよりは、ずっといい。
私が身売りして神原の下へ行く方が、今抱えているフクシの問題も解決するし、もうこの会社が神原に妨害される事もなくなるだろう。高丸さんも事業継続できるだろうし、今ここで諦めなければ、浅草の希望が詰まった素敵なパンプスが出来上がる筈だ。
あのパンプスを、全ての会社を繋ぐ橋にする。
虹色の・・・・七色魔法のとびきり素敵な色で、不景気な浅草を希望の色で彩りたい。
フクシだけじゃなくて、高丸さんも、私の大好きな浅草のメーカーを絶やさない為にも、
ここで神原を抑えなければ、夢は潰(つい)えてしまう。
たとえどんなに苦しい想いをしても、決して一年前のスギウラのような会社を出さないためにも、
私は、新商品のパンプス製作に全てを賭ける!!
この男のシナリオは、きっとそうだ。
私に興味があるのではなく、スギウラの娘だから、欲しいだけ。彼の望みは、スギウラの技術。
だから、アンクレット不良も証拠はないけれど、きっと卑怯な手を使ってでっちあげたに違いない。
「もう少し考える時間をください。いきなり結婚してくれと言われても、心の準備もありますから」
「いいえ。一日だけは待って差し上げますが、それ以上は待てません。明日の夜までにお返事を頂けない場合、フクシを訴えます。いいですね?」
「・・・・解りました。また、明日改めて伺います」
「今日の所はお引き取り頂いて結構です。良い返事を期待しておりますよ」
神原社長が私の頬に触れた。ぞわぞわと嫌悪感しか湧かなかった。
それからすぐ、彼の住まいのマンションを後にした。
たった一日。
一日で、彼が不正を働いたという証拠を探せるのだろうか。
こんな時、どうして福士社長を思い出すのだろう。
紗那、ピンチはチャンスだ。どうにかなるから安心しろ――そんな風に笑って言う彼の顔が頭に浮かぶ。
でも、こんなピンチ、笑顔で乗り切れないよ。
しかも身売りしろとまで言われ・・・・。最悪だ。
神原に結婚を迫られ、更にあいさつ代わりとか言って、キスまでされたんだ。本当に最悪。今更思い出して、持っていたハンカチでゴシゴシ唇に付いたバイキンを拭い去った。
軽く触れるだけのキスだったけれど、私の初めてのキス。どうしてあんないけすかない男としなきゃならなかったんだろう。
だったら誰とすればよかったのかと考えると、ある男の顔が浮かんだ。
――福士成彰、だ。
「初めてのキスは・・・・社長としたかったな」
思わず呟いてしまった。
最近、彼の笑顔が頭から離れない。それだけではなく、真剣に仕事に取り組む姿勢や、時には大胆な企画、高丸さんと共同の商品開発で生き生きとした顔、どれも素敵だと思う。
今まで全然意識していなかったのに、急速に私の心に入り込んで、出・て・い・け、と追い払っているのに、ちっとも出て行ってくれない、思い通りにならない男。
私は彼に恋をしているのだろうか。
しかし今更社長への想いを認識したとて、どうにもならない。
解決の糸口を掴もうと必死に考案したが、何もいいアイディアは思いつかないまま、帰社した。
だったら受けるか? 神原の申し出を。
随分迷ったが、私の心は決まっている。フクシを助ける為なら、縁談を受ける方を選ぶ。
スギウラを救ってくれたフクシが訴えられて、会社が潰されてなくなってしまうよりは、ずっといい。
私が身売りして神原の下へ行く方が、今抱えているフクシの問題も解決するし、もうこの会社が神原に妨害される事もなくなるだろう。高丸さんも事業継続できるだろうし、今ここで諦めなければ、浅草の希望が詰まった素敵なパンプスが出来上がる筈だ。
あのパンプスを、全ての会社を繋ぐ橋にする。
虹色の・・・・七色魔法のとびきり素敵な色で、不景気な浅草を希望の色で彩りたい。
フクシだけじゃなくて、高丸さんも、私の大好きな浅草のメーカーを絶やさない為にも、
ここで神原を抑えなければ、夢は潰(つい)えてしまう。
たとえどんなに苦しい想いをしても、決して一年前のスギウラのような会社を出さないためにも、
私は、新商品のパンプス製作に全てを賭ける!!
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