【R18】お前が好きだから、仕方なく付き合ってやる ～笑顔でお断りしましたが、何か？～

６．ピンチはチャンスと言うが、それは絶対に嘘だ（笑顔で乗り切れない！）

１１

　

「やめて下さいっ！」


　ドン、と彼を突き飛ばし、思わず手の甲で彼の跡を拭い去った。

「セクハラで訴えますよ、神原社長」

「おやおや。随分手荒なお姫様ですね。ほんのご挨拶のつもりだったのですが」

「キスが挨拶だなんて、通用するのは恋人だけですよ。私と社長は赤の他人です。こちらに非があるとはいえ、平手打ちされなかっただけ、マシだと思って下さい」

　私の怒りの言葉を気にもせず、位置のずれた眼鏡を整えながら、彼は含み笑いをしていた。
　酷い不快感が胸中を占める。
　こんな男と････キスしちゃうなんて！
　今すぐ全部、洗い流したい。

「ひとつお伺いします。私がこの縁談をお断りした時、フクシやスギウラはどうなるのですか？」

「ご想像にお任せしますよ。まあ、杉浦さんの予想通りだと思いますが」

　内容は迂闊に喋らない、か。私が会話を録音している事も考慮しているのだろう。実際、この部屋に入る前にスマートフォンで録音しているけれど。

　何にせよ、頭のキレる男だ。

「具体的におっしゃっていただかないと、解りません」

「どうしても聞きたいというなら、プライベートな話ですのでベッドの中でなら、教えて差し上げますよ」

　くっ。またセクハラ････！
　私は思わず、神原社長を睨みつけた。


「まあ、いいでしょう。美しい杉浦さんに免じて、ひとつ褒美をあげましょう。杉浦さんが私と正式に結婚して下さるというなら、フクシの抱えた一万足の材料全て、こちらで引き受けますよ。杉浦さんが最新の技術を提示して下さったら、それはいいスニーカーができるでしょうから。スズキノ特注の、キッズスニーカー」


　思わず目を見張った。


　もしかして････鈴木野さんも、この男が裏で手を引いていたのではないだろうか。
　福士社長が私に入れ込んでいる事をどこからか聞きつけ、また、彼の性格を考えると、どんな行動に出るかということを周知しているから、鈴木野さんを使ってあんな無茶を言い出させたのかもしれない。


　そう考えると････全ての事に、合点がいく。


　私が縁談を断れば、ここぞとばかりにフクシを糾弾し、裁判を起こし、真綿で首を絞めるように時間を稼いで新商品製作の妨害をし、売り上げを立てられないフクシを倒産に追い込むつもりで方々に圧力をかけるのだろう。結果、スギウラを手放さなければならなくなったフクシから、救いの手だと称し、スギウラを買い取る、と。これでスギウラの技術は神原のものになる。

　私が縁談を受けた場合、自分の女になった私を利用し、スギウラの技術を神原に取り込むつもりなのだ。スギウラの技術を取り込んだ新しいスニーカーを開発できれば、最早フクシをライバル視する事もなくなる。きっとフクシよりも安価な廉価版（れんかばん）を作って売りさばくのだろう。