【R18】お前が好きだから、仕方なく付き合ってやる ～笑顔でお断りしましたが、何か？～

６．ピンチはチャンスと言うが、それは絶対に嘘だ（笑顔で乗り切れない！）

１０

　
「杉浦さん。私は時間を惜しむタイプです。貴女がイエスと、私の伴侶になってくれると言って下さるだけで、フクシの景気は良くなります。逆に言って下さらない場合は、裁判を起こします」

「そんな裁判、無効です。誰も取り合いませんよ」

　冷徹にあしらうと、くっくっく、と喉の奥を鳴らしたような低い声で笑われた。

「何がおかしいの？」

「おやおや。フクシの敏腕秘書ともあろうお方が、どうなさったのですか。勘が鈍いですね」

　明らかな含み笑いで、私に詰め寄る神原社長。距離を取る為に、一歩後ずさった。

「裁判の内容も重要ですが、今、展示会で新商品を売って一万足のキャンセル補填も含めて起死回生を図っているフクシが、裁判を起こされたらどうなります？　イメージも相当悪くなると思いますが。こうなると、受注は激減ですねぇ。それに、資金繰りに困っているフクシに、裁判を受けるような余裕は無いでしょう？」

　どうして一万足のキャンセルのそれを、知っているの････。

　あ、そうか。春日部さんから聞いたんだ。
　聞いたというより、聞き出したといった方が正解かな。あの手この手を使って、春日部さんから聞き出したのかもしれない。



　何にせよ、一万足のキャンセルなんて、会社の恥もいい所だ。だから不用意に誰かに話すなんてことはしない。従って彼は、何らかの違法性のありそうな手を使って、どこからか情報を入手したのだ。



「杉浦さん。悩むことはありません。私の下に来て下さるなら、出来る限りの贅沢はさせてあげましょう。こんなみすぼらしい恰好ではなく、美しい貴女には華がお似合いだ。貴女にも、貴女のご家族にも、裕福な暮らしを保証しましょう」

　みすぼらしい････。私はこの黒のスーツ（戦闘服）を誇りに思っているし、華なんか似合う人間ではない。
　裕福な事がそんなに偉いのだろうか。私は、汗にまみれ、汚れても頑丈で長持ちするいいゴムや心が躍るような新商品を開発する方に、幸せを見出す女だ。



「まあ、今すぐ返事が欲しい所ですが、福士社長にお別れを言う時間も必要だと思いますので、一日、時間をあげましょう。明日の夜、返事をしに来てください。それまで待ってあげますよ」


　再び追い詰められ、性急に腕を引っ張られた。咄嗟（とっさ）の事だったのですぐに反応ができず、バランスを崩して前のめりになった所を抱き留められ、グイと顎ごと持ち上げられて、そのまま――････




　うそっ。
　やだっ。




　神原社長の唇が、私の唇に････触れた。