【R18】お前が好きだから、仕方なく付き合ってやる ～笑顔でお断りしましたが、何か？～

５．どういう訳か、結婚の約束をさせられてしまった（困惑）

６

　

「パンプス････か」


　社長は長い指を顎に当て、うーん、と唸った。「いいアイディアだが、金型はどうする？」

　金型というのは、靴を作る際に使う靴のパーツをカットする金属の型の事だ。
　全ての靴には、この金型が必要で、サイズによって異なる。同じ靴でも、サイズ展開がある分、金型は必要になってくる。

「だから高丸さんの協力がいるのです。工場を閉めるなら、高丸さんの所で利用していた金型は、もう不要になる筈です。高丸さんの工場を丸ごと買ったりすることはできませんが、この商品をロングセラーにしてヒットを飛ばし、年間契約をすればいいと思います。リスクはあると思いますが、絶対に売れます！　約束します！　私を信じて下さい!!」

　高丸さんのパンプスを作る技術と組めば、最強のパンプスが出来上がる。
　どこのメーカーにも負けない、素晴らしいものが出来上がる筈だ。
　だから、工場を閉めずに高丸さんに頑張って貰えないか、打診をしたい、と。
　工場の規模縮小は否めないだろうが、安定した供給が提案できれば、高丸さんも工場を閉めるという件を考え直して貰えないかと、思った事も伝えた。

「その売れるという根拠は？」

　社長が鋭く切り込んで来た。「そんなに自信があるのなら、理由があるだろう？　俺に説明してみてくれ」

　まるでプレゼンだな。まあいいや。社長に聞いてもらおう。

「私は高丸さんのパンプス愛用者です。ヒールが高いのにとても歩きやすく、素晴らしいアイテムです。更に見た目もシャープで美しく、このフォルムはどこの工場でも真似できません。しかもスギウラのゴムを使っているから、低価格なのに長く使えるのも良いです。さて、このパンプスに弊社の特殊インソールを使ったらどうでしょうか。もっと履きやすくなると思いませんか？　最高のフォルムに、最高のゴム、最高のインソールが揃ったパンプスなら、無敵です。更に、一万足受注キャンセル分の材料も使えます」

「成程、それで？」

　まだ言い足りなさそうな顔をしている私に気が付いた社長が、続きを促してくれた。


「はい。続けます。更にこのパンプスは、リクルート用の黒だけじゃなく、赤や黄に白、先ずは七色くらいの展開で作りたいと考えております。できればヒールは七センチと九センチで二種類、ハイヒールに特化し、更にサイズ展開も増やします。21.0センチから、26.0センチくらいまで。但し大きいサイズは需要と供給が見合うのが一般的なサイズより少ない為、生産は最小限にとどめておきます。また、ご要望があれば、金型を増やして特注も受けます。セミオーダーができるように体制を整えるのです。生地材料は海外のものでも、日本国内で様々まかなえば、あまりお待たせせずにセミオーダー品が出来上がります。金型も高丸さんの既存品を利用し、足りないサイズのものだけを作ってもらうようにします。そして、靴箱・アクセサリー・パンプスの縫製まで、全て浅草でやりたいのです。もうこれ以上、老舗メーカーが倒産するのは辛いです。私は、フクシが作る靴でたくさんのメーカーにも関わって貰い、浅草を元気にしたいのです！」


　最後は力が入った。少し恥ずかしくなって、いかがでしょうか、と付け加えた。

「うん。素晴らしい。良く考え付いたな」

　目を細め、社長が優しく微笑んでくれた。
　ドキン――まただ。また、私の心臓がせわしなく動き始める。どうして？